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11.スライムの進化

 目を開けたが辺りは真っ暗で何も見えなかった。


 僕は起き上がりながら、何故、寝ていたのだろうか?と自分の状況を確認していると、地面を転がり落ちた事を思い出した。しかし、身体の痛みは無くなっていた。装備品や肩から掛けていたカバンも手で触れた感じ無事そうだ。さて、どのくらい気を失っていたのだろう。とりあえず、周りが見えないことには移動のしようがないので、光魔法を使い灯りを点した。


 すると目の前にこの場にそぐわない、前の世界では見慣れた巫女服を着た黒髪の女の子がいた。


「!!ミコトちゃん?」


 僕が急に大きな声を出したため、驚かせてしまい、女の子の身体がビクッと跳ねた。

 その後、僕の顔を見ながら女の子は申し訳なさそうに話始めた。


「ユウキさん、ごめんなさい。地面が脆くなっていたのに気づいていたのに助けられなくて…」


 そんな女の子の前で、可愛らしい声だけどミコトちゃんの声とは違うんだなぁ。と全く違う事を考えていた。

 僕は、ハッと我に返り、


「いやいや、僕はこっちの世界では、君のような女の子を知らないよ。君は誰かな?」


 女の子はここで初めて自分の姿を確認し、驚いた顔をした。


「何で、人の姿に?ユウキさん、私、従魔のスライムです。」


 そう言うと、自称従魔スライムの女の子はあーでもない、こーでもないと、しばらくゴソゴソとしていたが、「これか!」と言う声とともに突然、ポンッという音と煙が広がる。煙が消えるとそこには見慣れたスライムがいた。


 スライムはわかった?とでも言うようにポヨンポヨンと跳ねた。スライムに戻ると会話は出来ないようだ。


「本当にスーなんだね。びっくりしたよ。もしかして、傷を治してくれたのかな?」


 スーはポヨンと跳ねて返事をした。


「スー、スライムだと声が出ないみたいなんだけど、もう一度さっきの女の子?になる事って出来るの?」


 さっきと同じようにポンッという音と共に煙が広がり、煙が消えると先程の巫女服の女の子が立っていた。


「ありがとう。さっきも聞いたけど、ぼくの傷を治してくれたのかな?」

「はい。私のせいで落ちちゃって、いつも私に気をかけてくれているユウキさんが死んじゃったらどうしようと思って慌てて追いかけてきたんです。そうしたら、すごい怪我をしてて…治さなきゃって思っていたら何故か魔法が発動したんです。スライムだから聖属性魔法は使えないはずなのですけど。」


 スライムがすごい怪我って言っているので、すごい怪我がどんなだったのかは聞くのをやめた。聞くだけで痛そうなので。


「スーのおかげで僕は助かったんだね。本当にありがとう。さて、まずはここから出ないといけないわけだけど。ここがどこだかスーには分かるのかな?」


 僕はいつもスーに案内してもらっていたから、森についての知識を全く持っていなかった。次からは、任せっぱなしにせず、事前調査もしっかりしておこうと思った。

 スーは辺りをキョロキョロと確認すると、魔法を使った。


「古いダンジョンですね。今は誰も入っていないみたいなので、封鎖されてるのだと思います。ここは浅い階層なので、すぐに出られますよ。」


 スーが再び魔法を使うといつもお世話になっている。半透明の矢印が出てきた。


「いつもありがたいと思っていたんだけど、この矢印の出る魔法はスライムの魔法なのかな?」


 せっかくスーと話が出来る機会なので、ずっと気になっていた魔法について聞いてみた。


「いいえ、違いますよ。普通の探知魔法です。スライム独自の魔法と言えるのは目の前の物に擬態することだけです。これも、ある程度長生きしたスライムが出来るだけで、全てのスライムが出来るわけではないですけど。」

「普通の探知魔法と言うことは僕にも覚えられるってことかな?でも、グリールさんは実在しない魔法だって言っていたんだけど、どうしてだろう?」


 グリールさんが僕に対して嘘をつく必要はないはずだ。


「覚えられますよ。現在位置と行きたい場所を上部から見下ろして線で繋ぐイメージです。直線で繋いでもイメージさえしっかり出来ていれば道なりに補正してくれますので便利ですよ。魔法は盛衰を繰り返しているので、今の王国には伝わっていないのかもしれません。この王国には、魔族、エルフといった長寿の種族がほとんどいないことも関係しているかもしれませんね。人族は寿命が短いですから。」


 スーは僕に説明しながら再び、キョロキョロと周りを見回した。


「どうしたの?何かあるの?」


 僕は気になってスーに尋ねる。


「いえ、いつもより周りが見えないのが気になって。それにいつもより高い位置から見えるのが不思議です。」


 なるほど。人の目はやはり魔物より視界が狭いのか。


 しばらく歩いていると、前方からオオカミ型の魔物が走ってくる。

 僕は魔法「風の刃」を発動した。まっすぐ進むイメージだったのだけど、軽く避けられてしまった。その後も何度も魔法を発動させるが、全く当たらなかった。

 僕とは対照的に、スーは氷の矢を飛ばし次々に魔物を倒した。


「スー、ごめん。全然当たらないや。」


 倒した魔物をカバンに放り込みながら僕はスーに謝った。


「魔物と対峙した事がないから仕方ないですよ。魔法の練習しながら出口を目指しましょう。」


 それからも、オオカミ型、クマ型やウサギ型などの大小様々な魔物が出てきた。

 スーに魔法の使い方を習いながら進んだ結果、始めは全く当たらなかった僕も、出口に近づく頃には、何度か魔法を使えば魔物を仕留められるようになっていた。

 スーがダンジョンの出口という場所はスーの予想通り大きな石で塞がれていた。

 相手が動かない石なので、僕が水魔法を使い石を砕いた。


 森の中に戻っても半透明の矢印は続いていた。スーの魔法はやはりと言うか、きちんと家まで続いているらしかった。

 日は傾き始めているが、まだ外は明るかった。


「スー、南門の手前でスライムに戻ってもらえる?僕がスライムと一緒に出たのを門番さんは知っているから。」

「わかりました。ユウキさん。」


 素直に返事をするスー。さっきまでは心に余裕がなかったけど、改めて見るスーの人型はとても可愛らしかった。


 スライムに戻ったスーと街に入るとまっすぐ家に帰った。

 庭で人型のスーととても遅めのご飯を食べていると、グリールさんが帰ってきた。


「グリールさん、おかえりなさい。」「おかえりなさい。」


と、僕がグリールさんに声をかけると、人型のスーも同じように声をかけた。

 グリールさんが固まる。


「あのー。グリールさん?この子はスライムのスーです。今日、何故か人型になれるようになったんです。」


 グリールさんに椅子を勧めると、カバンからコップと果実水の入った瓶を取り出しテーブルに置く。

 グリールさんが座ったところで、それぞれのコップに果実水を注ぎ、瓶をカバンに収め、今日あった事を説明した。

 果実水を飲みながら、話を聞いていたグリールさんはコップを置くと、


「ユウキさんを助けてくれてありがとうございました。それから、今日落ちたと言うダンジョンの場所は覚えていますか?他に被害者が出る前にギルドに報告をしないといけません。」


 グリールさんはいつも通り何もない空間から地図を取り出した。地図には手書きで文字や記号が書き足してある事からグリールさんがいつも使っている地図のようだ。


「南門を出てさらに南に300メートル進んだこの辺りに穴が開いています。そして、このダンジョンの出入り口が穴から西に3キロ移動したこの辺りの岩場です。出入り口は大きな石で塞がれていました。封鎖されていたのか、何らかの事故で塞がってしまったのかはわかりません。ダンジョンの中には、ウサギ型からクマ型まで、大小様々な魔物がいました。」


 詳しく説明するスーの話を聞きながら、地図にメモしているが、グリールさんの探究心を刺激するのか、スーの様子をジッと観察していた。


「ありがとうございます。魔物は回収していませんか?」

「全て回収していますよ。どのくらい出しましょうか?」

「では、オオカミ型とウサギ型を1匹ずつお願いできますか?」


 僕がカバンから、1匹ずつ出すとグリールさんはそのまま異空間収納へ収めた。


「では、ギルドに報告してきますね。」

「すみません。よろしくお願いします。」


 地図を収めるとグリールさんは庭を出て行った。


 日が落ちた後、グリールさんが帰ってきた。

 僕は買ってきた食べ物をテーブルに並べた。焼く、炒める以外はあまり上達しないため、諦めて朝食以外は買ってきている。

 スーが人型になったので一緒に食べようと家に連れて来ている。

 グリールさんもスーに興味があるみたいだし。


「おかえりなさい。ご飯にしましょう。」


 3人でご飯を食べている間も話題はやはりスーについて、人型になって変わったことを聞いていた。


「1番違うのは思っている事がちゃんと伝わる事です。今まではなかなか伝わらなくて困りました。今日地面が脆くなっていたのも伝わりませんでした。次は食べ物を食べた時に味がすることです。私にとって魔力を得るために周囲の物を吸収しているだけだったので、味があるのがすごく不思議です。ユウキさんには言いましたが、スライムの姿と違い、周りがよく見えないのは不安です。」


 終始スーの人型やスライムの生活習慣についてなど、グリールさんは新たなスライムの生態の話を満足そうに聞いていた。僕も、スーについて知る事が出来てとても嬉しかった。僕の話は結構していたけど、スーは聞いてるだけだったからね。


 グリールさんは話を聞き終わり、僕にギルドカードを見るように言った。

 言われるまま、僕はギルドカードを取り出した魔力を流す。

 前にグリールさんに教えてもらった時には従魔種類、従魔の標章、と言う項目があった場所の名称が、被保証人、被保証人の標章に変わっていた。


「内容は変わっていないけど、名称が変わっていますね。」

「やはり変わっていますか。王国の制度でもスーさんは人族化していると言う事ですね。人が人を従属させる事は認められていません。王国にも奴隷制度はありますが、犯罪奴隷のみですから。ああ、それから、今日のダンジョンについて詳しく聞きたい事があるそうなので、明日の朝ギルドに一緒に行きましょう。その時にスーさんのギルド登録もやってしまいましょう。ギルドカードを持っていれば街の中も人型でなら歩き回れますよ。」


 その後、夜も人型なら庭にいるのもどうかなぁと思ったので、どうする?と話を持ちかけてみたけど、寝る必要がないらしくいつも通りスライムで庭にいると言われた。

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