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10.油断大敵

 グリールさんは手にしていたコップを口にすると、ほぅと息をついた。


「ユウキさん、先程言われた魔法、道案内する矢印に、物の場所を示す矢印ですか。そのような魔法、このレモベック王国では存在が確認されていません。王宮が秘匿している可能性もありますが、少なくとも一般の魔法使いには公開されていない魔法です。方角を示す魔法、自分でマーキングしたものの位置を示す魔法はありますけどね。タケシイを例にしますが、ユウキさんはたくさん採れたと言われていました。もし、物の場所を示す魔法が一般的に使用されていれば、いくら魔法薬作成に必要だとは言え、年中依頼が絶えないはずはないですよね?」


 確かに、あの魔法はどのくらいかはわからないけれど、結構広い範囲で有効だった、スーが魔法をかけて僕が採集をしていたから、魔法を使った本人しか見えない。というわけではないみたいだから、みんなで一気に採集したらいいよね。


「そうですね。スライム独自の魔法でしょうか?」


 ありえないと思いつつ聞いてみる。


「スライムの生態について詳しくはありませんが、スライムの使用する魔法は、擬態と呼ばれる目の前にいる人物そっくりに変化する事だけですね。あぁ、変化した相手の能力まで真似をするわけではありませんよ。ですので、あのスライム独自の魔法といえるかもしれませんね。スライムが魔法をいくつも使用できるというのはとても異常なのです。こちらの思考を読んだり、状況を考察したりもしているみたいですから。本当に話が出来ないのが残念です。」


 グリールさんは本当に残念そうな顔をしている。


「魔物と会話したり、思考だけで会話ができたりする魔法はないのですね…」

「ありませんね。そんな魔法が有ればすぐに思考が戦争へと傾いてしまいます。とにかく、あのスライムについてはこれから考えるとして、従魔契約の強制解除をされないようにお願いします。」


 次の日、朝から冒険者ギルドにやってきた僕は、いつでもいるように感じる、ルミカさんのカウンターへ向かう。


「おはようございます。本日はどのようなご用件でしょうか?」

と、形式的なあいさつを受ける。


「ルミカさん、おはようございます。今日は依頼達成の報告です。ですが、その前にこの依頼について、伺いたい事があります。」

「はい。どのような内容でしょうか。」


 昨日のグリールさんの様子から、スーの魔法での採集は異常な環境であったということは分かる。だから、普通の冒険者の採集量がどのくらいなのかを知りたかった。


「タケシイの採集なのですが、他の冒険者の方はいつも何本くらい持ち込むのでしょうか?まだ時間も早いですし、もし少なかったらもう一度行ってこようかと思いまして。」

「そうですね。タケシイは比較的にどこにでも生えていますから多い人で20本くらいでしょうか?運が悪い方でも10本くらいは持ってこられますよ。」


 結構採れるみたいだ。よし、15本くらいにしよう。


「そうなんですね。情報ありがとうございます。少し少ないですが、今回はこれで達成にします。」


 そういうと、カバンから15本のタケシイを取り出しルミカさんに渡した。


「ありがとうございます。それでは、査定をさせていただきます。」


 そういうと、ルミカさんは魔法を発動させた。


「全て間違いなくタケシイです。品質がとても良いですね。それに昨日採集したにしては鮮度が良すぎです。これでしたら報酬が増額されます。そして、増額幅は最大の1.5倍になります。タケシイ15本で、報酬は銅貨22枚と鉄貨5枚になります。準備してきますね。」


 ルミカさんは査定を終えたタケシイをトレイに載せるとカウンターから離れ、ギルドの奥に入って行った。


 戻ってきたルミカさんは持って行ったトレイにお金を載せていた。


「お待たせしました。銅貨22枚と鉄貨5枚です。」


 僕はお金を受け取ると、ギルドで見てもらおうと思っていたおばけタケシイを思い出した。カバンの中にお金を入れ、おばけタケシイを取り出す。


「すみません。タケシイの採集をしていた時に見つけたのですが、このキノコは買い取りできますか?」


 ルミカさんは、おばけタケシイを見ると、


「それは運が良かったですね。このキノコは『おばけタケシイ』と言います。普通のタケシイは、成熟してしばらくすると枯れてしまいますが、おばけタケシイは枯れずにそのまま成長したものになります。上級の魔法薬を作る材料となりますが、その成長条件などが解明されていない為、貴方のようにたまたま見つけるしかありません。先程のタケシイと同じく品質が良さそうなので、おそらく銀貨1枚での買い取りになると思いますが、どうでしょう?」

「珍しいキノコなんですね。分かりました。買い取りをお願いします。」


 ルミカさんは、先程と同じように魔法を発動させ、宣言通り銀貨1枚で買い取りをしてくれた。


「ありがとうございました。他に何かお聞きになりたい事などはありませんか?」


「それでは、魔物について聞きたいのですが、いいですか?」

「魔物の強さ、書類発行の有無により情報料が異なります。どんな魔物についてですか?」

「スライムです。スライムの好物が知りたいです。」


 せっかく報酬をもらったから、スーに何か買って帰りたい。


「スライムですか。魔物の強さとしては弱い部類に入りますので、情報料はかかりません。書類を発行される場合は銅貨1枚になります。書類を発行されますか?」


 わざわざ書類を発行するまでもない。


「書類は必要ありません。教えてもらえますか?」


 ルミカさんは、手元で何かを操作すると話しはじめた。


「はい、スライムの好物についてとの事ですが、これと言って好物があるわけではありません。色々な魔物がいる中でもスライムは話せませんし、顔があるわけではないので、感情などがあっても人には理解できないのです。そのため、スライムの生態について詳しくわかっていません。過去の冒険者の話からの推測ですが、雑食であろうと思われます。獣、魔物、人、鉱物、木に草など何でも捕食してしまっていたようです。質問された好物についてではありませんね。申し訳ありません。」

「ありがとうございます。何でも食べるとわかったのでよかったです。」


 僕のスライムに対して思っていた内容と同じだったので特に問題はない。


 僕はギルドの近くで開いていた屋台で、肉串や果実水、パンなどを3(・)人(・)前(・)買って帰ることにした。


「戻りました。グリールさんは出かけてるのかな?」


 一度家に入るとグリールさんはいなかった。

 庭に戻った僕は庭に置いてあるテーブルセットを一度カバンに収納し、いつもの定位置にいるスーの元に向かった。

 スーの目の前にテーブルセットを取り出し、買って帰った食べ物、飲み物を自分の目の前と反対側に2セット並べた。


「スー、昨日は一緒に森に行ってくれてありがとう。お礼に食べ物を買ってきたよ。一緒に食べよう。スライムは何でも食べられるって聞いたんだけど、食べられる物かな?」


 すでにこちらを向いていたのか、ポヨンとこちらに跳んできた。

 椅子に登るにはスーの1メートルの身体は大きすぎた。僕はテーブルの上を半分空けるように並べ直すと、スーは直接テーブルの上にポヨンと跳び乗った。


「食べられそう?じゃあ食べようか。いただきます。」


 スーからはなんとなく嬉しそうな雰囲気が伝わってくる。

 僕が肉串を食べ始めると、スーは置かれた肉串の上にのしかかった。しばらくして離れると、お皿と串が残されていた。僕はギルドで聞いたことを思い出し、スーに聞いた。


「スー?串やお皿は食べないの?それとも食べられない?」


 丸バツを描き忘れていたことに気づいたが、何故か、スーが無くなったら困るでしょ?と言っているように見えた。


「お皿はちょっと困るけど、また買えばいいから食べたいなら食べてもいいよ。」


 しばらく動かなかったスーは再び肉串が乗っていた、今は串しか乗っていないお皿の上にかぶさった。すぐに離れるとピカピカになったお皿だけが残されていた。


 それから僕は、時々こうやって外でスーとごはんを食べることにした。お皿をきちんと残すスーの行動にスライムの一般常識を知っているグリールさんは遠い目をしていた。


 僕は、スーのおかげで順調に採集依頼を完了していた。南の森で採集するので品質が良く、異空間収納を使用しているため、採集から時間がたっても、鮮度が良いため、最近はギルドに行くと在庫の少ない採集依頼を勧められるようになった。

 そのため、今日もスーと一緒に南の森で、クーコの採集依頼をしていた。クーコは赤い実がなる背の低い木らしい。実だけでなく根も使うそうで、何本か抜いてくるように頼まれた。

 いつものように一本クーコの木を見つけると間違いがない事を確認して、スーに範囲魔法を使ってもらい、近くのものから採集していく。スーは採集が出来ないので僕の周りに気を配りながらのんびり散策しているようだ。

 赤い実を採集しながら徐々に森の奥へ進んでいく。すると、今までは、点々とあったクーコを示す矢印が直径5メートルほどぽっかりと無くなっている場所があった。僕はいつも危険があれば教えてくれるスーも反応していないこともあり、他の冒険者が採集したからだろう。と、特に気にせず真っ直ぐ進んだ先にあるクーコの矢印を目指して歩いた。

 しかし、2メートルほど進んだ時、突然片足が地面にめり込んだ。「えっ?」と思っていると地面が崩れ、浮遊感に襲われ、真っ暗な空間をしばらく転がり落ちた。その途中、僕は痛みで意識を手放した。

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