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傲慢な戦士:偽  作者: ヘイ
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第95話

 アスタゴ合衆国に広がる世界はどこも広大で、道路だけと言う場所はよく見られる。

 こんな戦時下でもなければ四輪の車、二輪の車などがエンジンを吹かせていたのかも知れない。

 周囲には木々が生い茂っている。風が木の葉を揺らしても、機械になる彼らにはそれを体感する事はできない。

 阿賀野たちが通った荒野と、また違う様な場所。それでも道路が整備されていると言うのはその程度に開発はされていたということに他ならない。

 現段階、アスタゴは街の中での戦闘以外の方法を取ることがない。

 夕日が西に見える。

 木々に被り、空を大きく覆っていた雲も、今は散り散りとなって晴れている。

 天気予報士などこの場には居ないために、この先の天気がどうなるかを予想する事は不可能ではあるのだが。

『どうする、また休むかい?』

 実質的に、この戦場、アスタゴ戦線に置ける指示者的立場にあるのは九郎であった。その提案を持ちかけたのも美空の事を慮っての事である。

 美空を休ませるために度々する、このことも、結果的には九郎の疲労の回復にもつながっている事は確かであった。

 敵がいない事を確認する。

 そして、リーゼを一時的にでも停止させる。腕を、足を動かさなくとも良い。そんな時間が一分でも取れるだけで違う。

 九郎は人間であって、幾ら傭兵の様な生業であったとしても、当然の様に疲労はある。当然、眠気も。押し寄せる眠気の波だけには呑まれてはならないと自制している。

『いや、流石に。これ以上は……』

 精神的な疲労。

 肉体的な疲労。

 その奥にあるどこか快感めいたもの。苦痛より先にある感覚。それを九郎は知っている。

 立ち止まると、歩けなくなる。

 限界ギリギリの状況。

『そうか、なら進もう』

 立ち止まる事はない。

 汗を滲ませながらも、進む。

『四島もそれで良いか?』

 確認をする必要はないのかも知れない。

「問題なしだ」

 何よりも進む意思を見せるのは阿賀野なのだから。

 次の瞬間に三人のヘッドギアに通信が入る。

『諸君、指揮官の岩松である』

 ここまでの戦場、連絡のなかった岩松からの突然の通信。

『快進撃に私は心を踊らされている。我らが陽の国の英雄に相応しい活躍に魅入ってしまうほどだ』

 などと、実に機嫌の良い声。

『特に四島君だろうか? 君の活躍は目覚ましい。これこそが陽の国の戦士であるべき大奮闘。胸が熱くなる』

 饒舌。

 そして、薄寒い。

 彼のことなどどうでも良かった。そんな事を口に出すものなどこの場には、誰もいないのだが、心底、意味のない通信はやめて貰いたいと思った事であろう。

『アスタゴへの勝利は目の前である! 健闘、勝利を祈る』

 一方的な通信は祈りの言葉で終わった。通信が切れた事を確認して、美空は笑った。嗤った。嘲笑った。

 馬鹿にする様に。蔑む様に。勘違いをする馬鹿に、笑いが抑えられなくなった。

『アハハハハハハハハ!! 馬鹿だ! あのジジイ! アハハハハハ!』

 ここに居るのは四島などではない。

 愉快に滑稽に、あの老翁は踊らされている。それが堪らなく美空には愚かに思えたのだ。

 これで満足かも知れない。

 騙される大嫌いな人間を見ることができた。

 好きだった父と母を殺された恨み。最悪な家庭に生かされた苦しさ。それら全てが晴れるわけでもない。

 ただ、この一瞬の快楽に彼女は酔いしれる。

 どんなお笑いを見るよりも、笑える台本なしのリアルが魅せる。彼女以上に、岩松を笑う者はいないだろう。

『あはっ、あぁ、笑ったら元気になった……』

 この通信の一部始終は、美空にとってはさながら疲れが吹き飛ぶほどの喜劇のようであった。

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