第94話
道中、幾度かの休憩を挟みながらも阿賀野らは進撃する。
戦闘のあった街を抜け、またも荒野を征く。
次の街ももう近い。
雲に隠れているが、時刻は夕方と言うには少し早い。少しだけ南より西へ傾きつつあった。
今は俄かに雨が降っている。
街はもう目の前にあり、その様子が窺える。
一つ前の街。そこと同様に巨大な人型が二つ立っている。銃を構えて、盾を構えて、ハルバードを右手に持っている。
『同じ事の繰り返しだね』
一歩踏み締める度に、一歩近づく度に街は先程の戦場と同じ形態を取っている事が明らかとなっていく。
何が目的か、など考える必要はない。迅速に、敵を殺す。それ以上の思考は不要である。
「邪魔だ」
阿賀野は既に走り始めていた。
攻略も同じ方法で殲滅可能である。対応できる可能性。そんなものがあるはずがない。巨大兵器の数で劣り、更にはパイロットの質でも劣るアスタゴ合衆国のこの戦場では、陽の国に勝ちの目が出る。
阿賀野だけでは無い。
美空も前進をしていた。僅かながら、阿賀野に遅れるもののそれでも前進を続ける。
十秒程で、銃弾の嵐が殺到する。
視界は、先ほどと比べて良好。ならば、負ける理由はゼロだ。
鬼神乱舞。
怪力無双。
機械の身体に言うのも、おかしな話ではあるのだろうが、それでもそう形容するにふさわしい殺戮であったのだ。
戦車を踏み壊し、人を吹き飛ばし、ただの血肉へと変容させ、敵性巨神へと肉薄する。
「どうしたよ、その程度か?」
盾で力強く阿賀野はタイタンを殴りつける。破壊力は抜群。タイタンは慌てた様に動こうとするが、動きが遅い。
紅い装甲が僅かに弾けた。
「弱え、弱えよ」
思考、伝達、更なる伝達。
僅かなタイムロスが命取り。間に合わない。追いつかない。動こうにも盾で全て弾かれる。動作の全てを阻害される。
ボードゲームに置いて、全ての行動が儘ならないかの様なストレス、いや、命がかかっているのだからそれ以上だ。
焦り、緊張、絶望。思考に靄がかかる。更に行動が遅れる。判断のミスが重なり、決定的な隙が生まれた。
「アホだろ、お前」
蔑むような言葉とともにリーゼが左手に持っていた、中距離砲のトリガーが引かれた。
そして弾が射出される。
装甲を貫き、パイロットを削り飛ばしていく弾丸によってタイタン操縦者の思考にかかる靄が切り払われる。
死にゆく彼の脳内では澄み渡る風景が思い浮かんだ。死に際、全ての苦しみから解放されたかの様な透明感。快楽とも取れる様な感覚が脳を支配していた。
苦しみの無い死。
頭部を失って、彼は死んだ。
戦闘を終えた阿賀野が横を向けば、隣にはもう一つの金属の塊が倒れ込んでいた。戦闘時間は先ほどと変わらない。
少しばかり、先の戦いより取られた時間は短いかもしれない。
『戦闘終了ーー』
通信機から美空の声が響く。
アスタゴ合衆国にまた一つ、死が満ちた。




