犯人は――――――
私が牢に軟禁され始めてから14日が経過した。
そう、今だ私は釈放の身とはならず、場内は不穏な空気が漂っていた。
「……おかしい。絶対おかしすぎます。」
「お、おかしいとは……?」
私が軟禁されている牢にやってきておかしいとうなるフォルテ。
その傍にはロンド、そしてヴェリテちゃんがいた。
「実を言うとな、ピアノルの奴、もう容体が回復したんだ。」
「……え?それのどこがおかしいの?よかったじゃない。」
ため息交じりに頭をかきながら話すロンド。
しかし今言った通り、それのどこがおかしいのかが私にはわからなかった。
何処もおかしくなくない?
それが正直な意見だ。
「本気で言ってるんですか?ヴィー。」
「……え?」
何故か私を睨んでくるフォルテ。
そして、そんなフォルテを見てロンドはため息をつき、ヴェリテちゃんは苦笑いを浮かべていた。
(何なに?ど、どう言う事!?)
理解が追い付かず混乱してしまう。
そんな私を見てロンドは私の状態が解ったのか眉をひそめながら話し始めた。
「回復が早すぎるんだよ。普通王族毒殺しようと思ったら市場なんかじゃ出回らねぇ薬を使うのが一般的だ。」
「い、一般的って、貴方ね……。」
「まぁ聞けって。要は絶対解毒できない毒をもって、時間がかかってでも確実に殺す。それが大体のやり口だ。なのに、今回は回復が早すぎるんだよ。ピアノルの奴、もう動き回ってるんだぜ?」
(……た、確かに少しばかし回復が早すぎる気もするけど……。)
つまりある意味新種の病気にかかったみたいな状況が一般的なのだろうか。
とすれば、薬を開発してから投与、そして回復する期間を考えると確かに早い。
「おかしいです。こんな短期間で回復するなんて……!!!」
「フォ、フォルテ。いくらおかしくったってその様子はどうかと思うわ。だって、可愛い弟が元気になったのよ?普通は兄として喜んで――――――」
「貴方が無事を保証されない状況だというのにどう喜べというんですか!!」
「…………。」
(……ごめんなさい、ピアノル王子。)
きっとピアノル王子は回復をフォルテにも喜んでもらいたいだろうに。
なのにこの言われよう……。
もし私がお兄様たちにこんなこと言われたら確かに相手を恨んでしまうかも。
扱いが雑すぎる。
「そもそも、この早さはまるで最初から解毒剤があったかのようじゃないですか!おかしいと思わないはずがありません!!」
「っ!!」
(解毒剤が、あった……!?)
あくまで推測の域。
でも、その推測は出来ないわけではない。
確かに最初から解毒剤があった事だって考えられるほどの速さの回復だ。
(でも、だとしたら……――――)
「そうなると狙いはピアノルじゃぁなかったって事になる。ヴィオラ。ピアノルが毒を飲む前、お前以外の奴らが席をはずしてたんだよな?」
「え?え、えぇ……。」
「って事は考えたくはねぇがピアノル側の人間の陰謀で、犯人は――――――」
「ピアノルでしょうね。」
「っ!!」
落ち着いた声で話すロンドとイラついた声で話すフォルテ。
そんな二人の会話を静かに聞いているヴェリテちゃん。
だけど、私はロンドとフォルテの言葉に血の気が引く感覚を覚えていた。
「ま、まって!いくら何でもそんなっ……!」
「おいおい、あり得ないなんてまさかいうんじゃねぇよな。」
「え……。」
呆れた溜息をつきながらロンドがゆっくりとフォルテへと近づいていく。
そして――――――
「ピアノルはこいつの弟だ。血がちゃ~んとつながったな!こいつは違って馬鹿みたいに過激なところがねぇっていえるか?」
「……それ、どういう意味ですかロンドっ……。」
ロンドが足を組んで座っているフォルテの頭に肘を置く。
その下でフォルテは怒りに震えていた。
……自覚がないとは言わせないわよ、フォルテ?
「……でも、犯人がピアノル様という事は自分で毒を飲んで、自分で命を危ぶめたという事でしょう?いくら何でもそこまで――――」
「やりますね、あいつなら。」
(フォルテ即答……。)
兄なら疑ってやれといいたいところだが、さっきも言っていた通りどうやら彼の一番は私らしいからもう呆れる事しかできない。
……そりゃ私も怒りを買うわ。
と、思わなくもないのが今の正直な気持ちだ。
「はぁぁぁ~~~~~。くそっ……!よりにもよって相手は王子かよ!!」
「断罪するにも決定的な証拠をかき集めなければ逆に我々が怪しまれますね。」
「あの……私たちが怪しまれる、とは……?」
控えめにヴェリテちゃんがそっと手を挙げてロンドとフォルテに質問する。
そんなヴェリテちゃんの質問にフォルテが軽くため息をついた。
「それは断罪する相手が王子だからですよ。見方によってはヴィオラが毒を盛った事実を誰にも目撃されず、証拠も出さなければ自分が疑われないという考えだったというのが考えられるという事です。誰にも目撃されないために侍女まで席を外させ、はめられたように見せかける……みたいな感じで。」
(あ、なるほど……。確かに……――――ん?)
「ねぇ、待って。何でその可能性があるのに皆は私を信じてくれるの?普通ここは私も疑うべきじゃない?」
「「やってるはずがないだろ(じゃないですか)。」」
「…………。」
私の発言に即答で返してくれるロンドとフォルテ。
……嬉しい。嬉しいけど、そこは疑うべきだと思う。
いや、疑われたくはないけれど、こういう事には公平な目というのも必要なわけで――――――
「まぁそれに、ここまで何の証拠も出てきてないあたり完全にピアノルの犯行だろうな。あいつがお前に上の空になる薬飲ませて、自分で自分のティーカップに毒を盛った。これが考えられるところだな。……と、推測は出来ても決定てな証拠がなぁ……。」
大きくため息をつくロンド。
そんなロンドを見ていると私の無実を証明するための材料は全然そろっていないのだという事が解る。
(はぁ……一体いつになったらここから出れるのかしら……。)
早く広い場所に出て太陽の光を浴びたい。
そう思いながら私は部屋の窓から空を仰いだ。
・
・
・
「何っ!!兄様たちがそのような話をっ!?」
「はい、ピアノル様。今は証拠探しをしているそうです。」
ピアノルの部屋にて話すピアノルとモルデントの姿がある。
モルデントの報告を受けたピアノルは怒りに拳を震わせていた。
「いかがなさいますか?ピアノル様。我々とて後には引けません。現状、証拠も出ておらず、ピアノル様も回復いたしました。伯爵令嬢をながらく軟禁しておくことには都合が悪いのもまた事実。近いうちに疑いの目はあの女から離れる事でしょう。」
「……みじめに殺せないならみじめに追放するしかないだろうな。」
冷たい表情で冷たく言葉を吐くピアノル。
そのピアノルの言葉にモルデントは何かを理解したかのように頭を下げて部屋を後にした。
「……僕から兄様を奪ったお前が悪いんだ……フォルテ・アルトバーン。
死ぬよりも惨めな思いを味わうがいい……。」
広い部屋の中でピアノルの冷たい声が静かに響き渡る。
そして、ピアノルは狂気的な笑みを浮かべて笑い出したのだった。




