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その時は俺と……

「そういえばヴィオラ、ロンドがお前に話があると言っていたぞ。」


「え……私に話し、ですか……?」


しばらくして落ち着きを取り戻したお兄様は思い出したように私に教えてくれる。


そんなお兄様はすっかりといつものお兄様だった。


それに安心を覚えた私はこの場はもう大丈夫だと思い、「わかりました。」と返答をしてロンドの部屋へ

と向かった。




「悪いな、夜中に呼び出して。」


「いいえ、それよりも話って何?」


「領主の息子として町の感想を聞いとこうと思ってさ。」


「あぁ、そういうことね。すごく楽しかったわ!チーズラッテもおいしかったし、教会のステンドグラスも見事だったわ!」


呼ばれた理由を理解するとヴィオラは感想を楽しそうに話し始める。


そんなヴィオラを見てロンドは眉根をひそめた。


「やっぱりお前はいつか平民になりたいって思うか?」


「……ロンド?」


どこか寂し気に聞いてくるロンド。


その様子がひどく気になってしまう。


(……というか、正直別にそこまで平民願望は本心で言えばある訳じゃないしなぁ……。)


可能であればそれは確かに面倒ごとも多いが見返りが大きい貴族でいたいと思わなくはない。


……そう、投獄死刑を免れた上でヒロインちゃんに迷惑をかけずに生きていけるのであれば!


っていうかよくよく考えると平民になれば近くでヒロインちゃんは愛でられないと思う……。


(お妃様バンザーイとかいう一平民になり下がり、それはもうアイドルを愛でるかのような目で方しかできなくなる訳だけど……。)


正直言えばゲームをプレイしていた時の感覚はそれに近い。


だからさほど苦ではないといえば苦ではない。


ならばやはり婚約破棄の為に今はまだ平民になる【夢】を抱き続けていると思ってもらった方がいいだろう。


「……私、今日町の人たちを見て思ったわ。なんてこの人たちは生き生きしているんだろうって。ほら、チーズラッテのお店のおじさん!あの人はすごくいい笑顔でチーズラッテを売っていたわ!……あんな人、貴族では見たことがない。」


言い方は悪いけれど割と大人は騙し合いや探り合いが多いのは大人だった過去を持つ私にはわかってしまう。


でも、そういうのがなくてのびのびと生きていた町の人たちの姿は嘘偽りなく【自由】さを感じられた。


……そんな姿が懐かしいと正直、思ってしまった自分はいた。


もともと私は一庶民。


出来れば貴族でありたいけれど、庶民として生きていく方がやはり性には会っているのだと思う。


そんな事を思っているとロンドは困ったかのように苦笑いを浮かべ始めた。


「でもさ、お前も見ただろ?花もってた女の子。明るい街から少し薄暗い場所に入ればあぁ言った貧しくて不自由な生活をしてる子だっている。お前が思い描いているような良い未来があるとは限らない。もしかしたら平民になったらお前を待ってるのは彼女と同じ生活かもしれないんだぞ?」


(……もしかしてロンド、引きこもりな令嬢であるヴィオラに平民の暮らしの大変さを教えてくれようとしているの?)


面倒見のいいロンドの事だ。


突拍子もなく平民願望を語ったヴィオラに対し、もしかしたら不安を覚えたのかも知れない。


普通なら貴族が平民になんて耐えられるはずがない。


日々ぜいたくな暮らしをし、身を肥やし、働くのも肉体労働ではなくてデスクワーク。


身体がついてだっていかないだろう。


(……確かに、生活水準は私の前世いた世界の日本に比べるとひどく低いとは思ったけど……。)


日本にだってホームレスはいる。


スラム街の人たちはいわゆるホームレスなのだろう。


でも、あんな小さな子供のホームレスはいない。


いや、違う。


正直に本がひどく恵まれた国だからそう感じていただけだ。


日本以外の国には確か貧しい子供たちは多く存在していた。


確かにもしそういう立場になってしまったら……なんて、想像はできてもリアルに考えることはできない。


……でも多分大丈夫な気がする。


平民になっても私は、どんな状況でもきっと強く生きていける!


そう!!ヒロインちゃんが幸せであることが私の幸せだから!!!


「ロンド、私はたとえ彼女と同じ立場になっても私を見失わない自信はあるの。」


「……は?」


「裕福ではなくたっていい。そうね……時に食べるものに困ったっていいわ。でも、その時は幸せな事を思い浮かべて頑張って、少しでもいい未来になるよう努力をしていく。……それで十分幸せになれるはずだわ。だから、私はやっぱり普通の生活に憧れるわ。」


「……ヴィオラ。」


「だって、面倒なお茶会で腹の探り合いしなくていいし、うわべだけの言葉も、人目を気にしてとりつくろう事もしないで、ありのまま自由に生きているあの生き生きした人たちの仲間になれるなら平民だって絶対悪くないわよ!ふふっ、何ならロンドも一緒にどう?貴方、確か三男よね?」


悪戯な笑みを浮かべてロンドに顔を近づけるとロンドは驚いた顔をして固まってしまう。


そう、ロンドは何を隠そう三男なのだ。


だから代わりと自由が利く為、街へ行くのも許されたといっていい。


もしロンドが長男であれば何かあれば大変だと外出をそう簡単に許してはもらえないだろう。


そう、そして三男であり、自由の利く彼は家を継ぐ必要がないのだ。


だから旅は道連れともいうし、冗談ではあるけれど誘ってみたのだ。


「……それってさ、やっぱ今はフォルテと結婚は考えられないって事か?」


「え?え、えぇ……まぁ……。私は平民になりたい訳だし?平民と結婚したいわけで、彼は王子なわけだからまずありえないというか……。」


「じゃ、俺と駆け落ちでもするか。」


「……え?」


いきなり笑いを小さく吹き出し、ロンドは優しい声で言葉を紡ぐ。


その言葉に私は耳を疑った。


そして、きょとんと眼を丸くする私にロンドは力強い笑顔を向けてくる。


「え?じゃないだろ?お前が誘ったんだぞ?一緒にどう?って。」


「え?あ、いや……ど、どうとは確かに訪ねたけど、貴方と駆け落ちするとは一言も……。」


(それに何より、貴方も攻略キャラじゃない!……って、何でそんな人を冗談でも誘うのよ、私の馬鹿!!)


正直、彼とヒロインちゃんのエンドは覚えていない。


どうやって恋人ポジションをゲットしたかは覚えているけれど、確か幼い頃にロンドは平民の自由な生活にに憧れていたから―――――


(…………ん?え、ロンド、平民の自由な生活に憧れていたの?)


ふと頭の中に浮かんだ自分の考えに自分で問いかけてしまう。


(も、もしやここにきて恐ろしく自然に前世の記憶思い出してた!?)


ロンドと私の記憶をたどるとそんな話は一切聞いてはいないはずだ。


という事はゲームのシナリオを見た上で知った内容であったに間違いない。


……とすれば彼はもしかするとヒロインちゃんと駆け落ちをして平民として幸せに暮らすエンドなのかもしれない。


(……どうしよう、きっと今ゲームなら分岐点だわ。)


1・じゃあ、その時はよろしくね。


2・やっぱり貴方は平民じゃ駄目だと思う。


分岐を作るのであればこんな所だろう。


1を選べば冗談か本気かはわからないけれどヒロインちゃんと出会って恋人になった時、平民になる心づもりは出来ている状態になっているかもしれない。


しかしここでの問題は私の事だ。


面倒見がいいロンドなら先に私と約束しているからと

私を選びかねない。


いや、ゲームならば悲恋ルートが私、ハッピーエンドがヒロインちゃんになるという愛情度がすべてを決めることになるだろう。


たとえ私と約束していてもその約束を破ってまでヒロインちゃんと居たいと思えるほどヒロインちゃんを好いていれば何の問題もない。


しかし、もし仮に私を選んでしまった場合、私がヒロインちゃんを悲恋ルートにぶっこんでしまうという事になる。


それは非常に困る!!


そして2を選んだ場合だ。


これはある意味「貴方に平民のような生き方は無理よ」に近い意味を与えることになる。


そう、彼が貴族でなければいけない理由なんてないのだ。


三男だから。


家として継がなければいけない仕事はない。


そんな彼に駆け落ちが駄目だなんて言うという事は「そんな生活貴方には耐えられないでしょ?」と言っているようなものだ。


しかも、せっかく冗談でも自分とって提案してくれた人に対し、ちょっとかわいそうかもしれない。


でも、でも――――――


(あっ!そ、そうだわ!!!)


「じょ、冗談よ、ロンド!私は貴方に一緒に来てもらいたいなんて思ってないわ!だって貴方は私の傍じゃなくてフォルテの傍にいてもらわないとだもの!」


そう、これだ!


大体そもそもぽっと出の私なんかよりもロンドとフォルテの付き合いは長いし、何よりフォルテもロンドをしたい、ロンドもフォルテを可愛がっている。


ロンドだってフォルテの名前を出せばやっぱりフォルテの傍のが良いなって……思う、よね?


(昔あった平民願望にもう一度火がついてたらちょっとわからないけど……。)


だけどできればその火は悪いけど消してほしい。


私の幸せともいえるあるかもしれない未来、ヒロインちゃんのとの幸せの為に!


(ヒロインちゃんに選ばれなかった時はまぁ、平民になりたい気持ちを奪ってごめんなさいと全力で謝るから。)


そんな事を思いながらロンドを見る。


ロンドは困ったように笑みを浮かべて「お前なぁ……」といってくる。


そんなロンドに私も苦笑いを浮かべてみる。


「まっ、もし大人になったときあいつの傍を離れられないって思ったらそん時はあいつの傍にいるつもりだけどな。でも、もしあいつが立派な王の器になったら、その時は――――俺はお前について行く。」


「え、えぇ~……。」


「えぇ~じゃないだろ?実は俺も昔は平民願望あったんだよな。お前の夢、俺にも見せろよ。なんかお前となら貧しくても幸せに生きてける気がするし、悪くないかもって思ったんだからさ。」


ロンドは私に歩み寄り、私の頭を軽く叩く。


そんなロンドの笑みがとても柔らかくて、優しくて、ちょっとだけ優しい笑みを浮かべた時のフラットンお兄様に似ている気がする。


(……この笑みに弱いのよね、私。)


優しくて幸せそうな笑み。


そんな笑みを浮かべられたらもう何も言えない。


……だから、今は何も言わないでおこうと思う。


その代わりヒロインちゃんと彼がもしいい感じになる未来があるならその時は全力で二人をくっつけよう。


そう、私は心に堅く決めたのだった。

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