フラットンの愛
「はぁ~、今日は楽しかった!」
コモドとは別れ、フラットンお兄様とフォルテとロンドと共に帰宅した私は皆と別れて自室へ戻るとベッドに倒れこんだ。
(チーズラッテもおいしかったし、教会も綺麗だったし、それに――――)
チーズラッテを食べていた時に出会った少女。
あの時の少女がふと脳裏に浮かんだ。
(おそらく美少女と出会った!!うんうん!)
恐らくというのは仕方がない。
本当に前髪で顔が見えなかったのだ。
見ようにも見えなかったため仕方ない。
(あの子がバレッタをつけた姿見たかったな~。でも、あの時止めたらまた自分の事を「汚いから」と華道の良いそうだったし……)
あんなかわいいと思われる子の自虐、聞いてても楽しくなんてない。
聞きたくなかったからあぁして渡してきたけど、やっぱり彼女の顔に興味はあった。
(今度こっそりあの町に行ってみようかしら!……って、それができないのよね、貴族って……。)
恐らく自分の家の寮内であればまだ別だろう。
だけどあそこはロンドの家の領地になる。
そうなるとロンドに声をかけなきゃいけないわけで……
(いや、別に声かけるのが嫌なわけじゃないんだけどね。ただ、貴族として出歩きたくない~)
お忍びというのは一回くらいやる分にはいい。
だけど毎回そうだとちょっと肩がこる。
そう、今日のフラットンお兄様の護衛としての存在感たらなかった。
もう少し気を使わないでいいただの観光がしたい。
そんな事を思っていると部屋の扉が叩かれる音がした。
(誰だろう。)
そう思いながらだらしなく寝転がっていた私は体を起こして扉へと駆けよった。
「はい…………あ、フラットンお兄様。」
「少し、話がしたいんだが……。」
「わかりました。中へどうぞ。」
(何かあったのかしら、お兄様……。)
なんだか少し難しそうな顔をしている。
何か悩み事でもあるのだろうか。
そう思いながらお兄様を招き入れ、私は部屋の中でお兄様と向き合った。
「…………用件は昼間の事だ。」
「昼?」
「あぁ。私はあの時は護衛という立場だった。しかし今はお前にとってはただの兄だ。だからこそ、兄として、私は――――――」
「っ!!」
パンッと音が鳴ると共に私の頬に痛みがはしる。
何が起きたのかわからずにお兄様を見つめると叩かれたはずの私よりお兄様の方がつらそうな顔をしていた。
「お、お兄様……?」
「兄としてお前を叱らなければならない。」
「っ!!」
見覚えのある顔。
それは怒ったときのお父様そっくりの顔だった。
流石は親子……なんて思ってる場合じゃない。
私は何故叩かれたのだろうか。
「お、お兄様、訳が分かりません。何故私は叩かれなければならなかったのです!何か私はいけない事をしましたか!?何故、何故―――――」
「お前だって子供だ!」
「っ!!」
普段声を荒げることなどめったにないお兄様。
怒っていても冷ややかな声は出すものの、荒らげるところなど聞いたことがない。
そんなお兄様が手を震わせ、私をしかりつけていた。
「あの少女をかばうお前の姿は私にはまるで大人の女性のように思えた。それはおそらく言動のせいだと思う。子供でありながらまるで子供と大人を両方経験したことがあるように大人と子供の力の差を語っていた事、そしてひるむことなくあの男に向ける視線は子供のものではなかった。お前の姿はまるで大人のしかり方をしているようだった。そんなお前を見て私は女の子は成長が早いという言葉を思い出したよ。あぁ、もしかしたらそう言う事かもしれない。そう思っていたらお前はあの男に手をあげられそうになっていた。…………男を拘束したとき思ったよ。もしお前が殴られていたら、と。」
声を震わせながら話すお兄様。
そのお兄様の言葉は私を叱っているはずなのに不思議と責められている気がしない。
……まるでお兄様の言葉は自分を責めているかのように聞こえてくるのだ。
「私がお前の成長した姿に目を奪われ、間に合わずいたらお前はあの男の怒りを買い、殴られていただろう。どれだけ大人に見えようと、大人のようにふるまえようと、所詮お前は5歳の女の子だ。殴られていたらお前は、お前は―――――」
お兄様は私と目線を合わし私のを抱きしめ体を震わせる。
言いたいことはなんとなくわかる。
大人の女性と子供の女の子では女であっても体格は違う。
当然、同じ男から殴られてもダメージは違うわけだ。
男の体格はよかった。
精神的に割と大人なつもりでいる私は男にひるむことなく退治していたけれど、冷静になって自分が子供であることを思い出すと殴られていた時の事は想像したくなんてなかった。
それほどまでにきっと、ひどいダメージを受けただろう。
(貴族としても、妹といしても怒りを買うわね、あれじゃ。)
貴族が一般人に思い切り殴られたなんていい笑いものだ。
その上殴られていたらそれを近くにいたくせに許してしまった兄としての責任がお兄様にもかかってくるし、それ以前にそんな無茶をする妹は怒られて当然だと思う。
……前世兄妹なんていなかったから兄心なんてよくわからない。
よくわからないけれど自分に妹がいたならば絶対そんなの嫌だと思った。
「……ごめんなさい、お兄様。」
「…………。」
私の言葉に対し返答はない。
返答はない代わりに私を抱くお兄様の手に一層力が入った。
(やっぱり……そうなんだわ……。)
行けない事だった。
それを教えるためにぶつという事はとても大事なことだ。
子供を叱る時ぶつという行為は一般的だ。
叩かれることでいけない事をしたと認識させやすいからだ。
だからこそ仕方なく私をぶったのだろう。
だけどぶたれた私の頬はそんなに痛くはなかった。
きっと、私なんかよりずっとぶったお兄様の方が心が、手が痛かったのだと思う。
(愛されてるな、私……。)
そう思いながら私は震えながら私を抱きしめるお兄様を優しく抱き返した。




