少女を救う少女
「汚ぇ手で触んじゃねぇ、このガキっ!!」
悲鳴が聞こえた次の瞬間、私の耳に入ったのは男の人の苛立った声。
驚きながら声のする方へと振り向くとそこには体格のいい大人と小さな女の子の姿があった。
小さな女の子の方は地面に倒れ込んでおり、その近くにはたくさんの花が落ちている。
きっとあの男のせいであぁなったに違いない。
「くそっ、気分が悪ぃぜ…!」
「待ちなさいっ!!!」
「………あ?」
苛立ちを見せながらその場を立ち去ろうとする私は男と少女の前にとび出た。
そして、自分よりかなり身長差のあるその男を目を鋭くして睨みつける。
「彼女に謝りなさい!」
「……は?」
「彼女に謝りなさいと言ってるのよ!こんな小さな子相手になんて事をしているの!?貴方、いい大人として恥ずかしくないの!?」
「なっ……!」
私の言葉を受けて怒りが増幅されたのか男の顔はさらに苛立ちに歪んでゆく。
だけど私はそんなものには屈しない。
私は変わらず男をまっすぐと見すえていた。
「何があったかは知らないけれど、この子はあなたの行動によって地面に倒れ込んでいるのよ!?こんな小さな子がよ!?良心が痛まないの!?」
「知るかよ!軽く振り払ったらそいつが勝手に飛んでったんだ!俺は大した力入れてねぇ!」
「なっ!っ………貴方ね、いい大人の癖に自分の力と子供の力の差もわからないわけ!?貴方みたいな体格のいい男にとっては軽くの力かもしれないわ!でもこの子は子供で、それも女の子なのよ!?貴方にとっての軽くがどれだけこの子にとって重たいか、考えることも出来ないの!?」
「っ~~~な、なんだと!!黙って聞いてりゃこのガキ!!!」
怒りがMAXまでに達したのか男は私へ掴みかかろうとしてきた。
しかし、私を掴もうとした手は私を掴む前になにかに掴みあげられる。
「いてててててて!!!」
痛がる男の手を容赦なく掴みあげ、その手を背に回し、動きを封じたのはほかでもない。
私のお兄様のフラットン、その人だった。
「感情に任せ二度も幼子に暴行か?男の風上にもおけぬ愚行。……捨て置けんな。」
フラットンお兄さまの眼光が鋭く光る。
やはりお兄様もお父様の息子だ。
怒ると怖いところが酷く似ている。
「わわわ、悪かった!!謝る!謝るからとっとと離せっ……!!」
拘束されている体勢がキツかったのか男はすぐに大人しくなった。
けれどーーーー
「くそっ!!!」
拘束が溶けた瞬間、男は謝罪の言葉も述べずに足早に走り去って言った。
「ちょ、待なさーーーー」
「おい、大丈夫か!?」
「!!」
背後で聞こえるロンドの声。
その声にハッとなり私は後方へと振り返った。
地面に座り込んでいる被害者の少女は頬に手を当て俯いている。
「っ……見せて!!」
急ぎ少女に駆け寄り、私は少女の手を掴んだ。
そして、その手を頬から外した瞬間、酷く晴れ上がった頬を目にした。
「大変っ!早く冷やさなきゃ!こっちへ!!」
「あ、おい!ヴィオラ!!!」
私は少女の手を引き急ぎ先程の噴水の場所まで戻る。
噴水まで戻ってくると噴水の水が綺麗であったことにほっとしながら持っていたハンカチを水に濡らし、少女の頬にあてようとする。
しかしそんな私の行動を見た少女は何故か急に顔を青くして私から距離をとった。
「だ、駄目……私、汚い……から……。」
「えっ……?汚い?」
何を言っているのかわからず、いっしゅん首をかしげてしまう。
しかし、彼女が言いたいであろうことは彼女の身なりを見れば何となくわかった。
なんとアニメなどで見た事のある身なりだった。
髪は乱れまくり、前髪は伸びきっていて前だって見にくそうな感じ。
服だって色々なところに穴がある。
手足も少し黒ずんでいるのを見るとよっぽど生活が厳しいのだろうと理解出来た。
でも、そんなことは手当を拒む理由にはならない。
「汚れなんて洗えばいいわ。汚れは洗えば落ちるのよ?あなたについた汚れも、このハンカチについた汚れもね。」
「え………。」
「……さぁ、このハンカチを持って?女の子なのに腫れたお顔じゃ大変だわ。ね?」
「…………。」
少女は何も言わず私のハンカチを手に取ってくれる。
そして手を震わせながらそっと水で冷やしたハンカチを頬に当ててくれた。
そんな様子を見てほっと胸を撫で下ろすと遠くの方から私の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「おぉい、ヴィ――――――!!!」
「あっ!フォルテ、お兄様!」
私の名を呼びかけてくるのはフォルテ。その後ろに小走りでお兄様が付き添っていた。
「も、もう……勝手に走ってったら危ないですよ……!」
息を切らしながら私を嗜めるフォルテ。
酷く心配してくれたんだろう。
少しだけ申し訳ない気持ちになってくる。
「大体、あんな大男に向かっていくだなんて、貴方は何をーーーー」
「フォルテ様。」
「な………何ですか?」
「……今は助けた少女の前です。どうか妹に華を持たせたままでいさせてやってくださいませんか?」
こっそりとフォルテに耳打ちしてくれるお兄様。
お兄さまの言ってくれたとおり、たとえ心配してくれてのことでもここで怒られては持っていた華も手折れ、枯れてしまうというものだ。
(お願い、あとでお叱りはうけるから!)
俯いている少女には見えないだろうと両手を合わせて静かに懇願する。
するとフォルテはため息をついて困ったような笑みを浮かべた。
「……貴方は怪我はありませんか?」
「えぇ、平気!!」
お兄さまの言葉を汲んでくれたのかもう怒る気は無いという姿を見せてくれるフォルテ。
やはりこの子はいい子だ!
「おいおいフォルテ、婚約者が可愛いのはわかるがここで心配すんのはそっちの子なんじゃないか?」
「あ……ロンドにコモド!」
随分と遅れて現れたロンドとコモド。
2人は静かに少女に近づいた。
「ほらよ、花。」
2人はどうやら少女の周りに散らばっていた花を花かごに集めてきてくれたようで、少女が持っていたであろう花かごを少女に返した。
「………ありがとうございます。」
少女は花かごを受け取るとしっかりとカゴを抱き寄せた。
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