コモド登場
馬車に揺られて1時間ほど。
ロンドの家の領地である街へとやってきた私たち4人は大きな噴水がある街の広場でおっとりとした少年、コモド・ ピッツィカートと出会った。
「いやぁ、本当に久しぶりだねぇ、ロンド。」
「あぁ、もう1年近く会ってないんじゃないか!?」
ロンドと親しそうに話すコモドはたくさんの領地をもつロンドの家を支える大事な家計の息子なのだという。
領地自体はロンドの家の領地だけれど、ロンドのお父様に任されて代わりに街の政を担っている家ならしいのだ。
そんなコモドと合流したのはもちろん、誰よりもこの町を知るであろう案内人がいるに越したことがないからだ。
「にしても驚いたよ。君がまさかあの孤高の令嬢を連れてくるなんて。」
(えっ……!?)
「だろ!?俺も友達になれるなんて思ってなかったからさ、今でもあんま実感わいてなかったりするくらいだしな。」
(な、何!?私ってもしかして私の知らないところで有名人だったりするの!?)
そんな事を思いながらちらりとフォルテを見てみる。
その瞬間、フォルテと私の視線がぶつかった。
「孤高の令嬢ってすごく有名ですもんね。誰とも親しくしないし長く会話することを許される人なんていないって噂もあるんですよ。」
「な、なんて大げさな……。」
どちらかというと迷惑極まりないうわさを知り、私は何とも言えない気持ちになる。
そんな気持ちを抱えながら今度は私たちの護衛の為にすぐそばに立っているフラットンお兄様に視線を向ける。
するとお兄様は私と視線がぶつかるや否や、その噂を知っていたのか静かに私から視線をそらした。
……実の妹がこんなうわさをされているって、どういう気持ちなのだろう。
(というか、お兄様は騎士としていろんな方に会うんでしょ!?噂の妹君とかで話題になったりしないの!?そんな不名誉なうわさ否定しといてよ!!)
と、思うものの、結局のところはブラコンで盲目だった私の落ち度だ。
一瞬お兄様を責めはしたけれど、一番悪いのはほかでもない。
メロディンお兄様が帰ってきてほしそうな顔でこちらを見ているとすぐそちらへ向かいたくなるブラコンの私が何よりも悪い。
(……自業自得と言う奴ね。)
悪役令嬢ならそれでいいのかもしれないけれど、私はあえて悪役になるつもりはない。
だったら噂イメージからまず払拭していく必要がありそうだ。
「えっと、フォルテ様にヴィオラ様。」
「あ、別に様なんてつけて頂かなくてもかまいませんわ。どうぞ、ヴィオラとお呼びください。」
「え……でも……」
「話し方も気楽にしていただいて構いませんわ。それに一応、私たちもお忍びですから。」
そういって私たちはそれぞれに身にまとっている服を見せるようにコモドと向き合う。
コモドは一瞬面を食らったかのような感じで固まっていたけれど、次の瞬間、勢いよく噴出した。
「あはは!そ、それもそうだったね……。うん、わかったよヴィオラ。だったら君も堅苦しい話方話だよ?」
「わかったわ、コモド。」
「あっ、僕もフォルテと呼んでください。あと、口調もロンドと接するときの様にしてもらえればうれしいです。」
「うん、わかったよフォルテ。君も楽に話してね?」
「あ、はい。でも僕この話方が常なんですよね。」
「えっ?そ、そうなの……?変わってるね……。」
それは王族は家族間でも堅苦しい敬語で話すから。
……なんてことは説明できない。
実はフォルテの事だけは偽りの情報を伝えているのだ。
流石に王子様がお忍びで……なんて言えるはずがない。
だからフォルテはロンドの遠い親戚という事になっていた。
「ねぇ、ヴィオラ、フォルテ。二人はどんな事がしたい?買い物?それとも何かの見物?それとも美味しいものを食べるのが良い?」
コモド自身は食べ物がいいのか食べ物の所だけちらりとよだれが見えた気がした。
でもあまりそれをじろじろ見るのも失礼なので私はみなかったことにして視線をそらした。
……好きなのだろうか、食べる事。
そんな事を思いながら私は聞かれた問いに言葉を返した。
「私は普通にいろいろなものを見物したいわ。建物でも、民芸のようなものでも何でも。」
「あ、じゃあ僕もそれが良いな。」
「じゃあって、フォルテは何かないの?」
「僕はヴィ―がしたいことがしたいから。」
「…………。」
それでいいのだろうか、果たして。
なんて思うけれど正直時間はそうないわけで、観光プランの決定権をもらえるのはすごく嬉しい。
だからここは黙って素直に喜んでおこう。
「じゃあ、僕のお勧めの場所に行こうか。ヴェラツェルト教会っていう教会のステンドグラスがすごくきれいなんだ!その協会は女神、ユースティティアに愛され師教会って言われているんだ。」
「そうなの?女神に愛された教会なんてなんだか素敵ね。」
(……って、素敵とは思うけれど……――――)
どちらかといえばヨーロッパ系なこの世界。
しかし決してヨーロッパではない。
だけどローマ神話の女神を引っ張ってきてる当たりやはり私が元いた世界のゲームの中なんだなとしみじみ感じる。
(……まぁ、でもそんなことはさておいて普通に楽しみではあるわ。ステンドグラス。)
転生しようがしまいが女の子なことに変わりはない。
綺麗なもの、可愛いものは大好きだ。
「あ……でもその前にその教会近くにある露店によってもいいかな?そこのチーズラッテっていうチーズをたっぷり使ったソースで食べるサンドウィッチのような食べ物がすごくおいしくて有名なんだ。」
「へぇ……それはおいしそうですね!」
「うんうん、美味しいよ!いいかなヴィオラ。」
「えぇ。もちろんよ。」
行きたくて行きたくて仕方ないような表情をしているコモドに少しだけ笑いがこみあげて噴き出してしまいながらも了承の意を伝える。
それだけそのお店がおいしいのか、コモドが食いしん坊なのか果たしてどちらなのだろうか。
「よし、それじゃあレッツゴー!!」
まだ見ぬ料理、チーズラッテをめがけて私たちは街を歩き始めた。