街へお出かけ
「お嬢様、お嬢様!!」
「んんっ……あと5分……。」
「5分じゃありませんよ!早く支度をしなければフォルテ様とロンド様が来てしまいますよ!?」
「っ!!そ、そうだった!!」
ベッドから飛び起き、急ぎクローゼットを開ける。
そして私は素早く今日という日の為に作らせた極力素朴な服を取り出した。
華やかな飾りは無し。
フリルも最小限に。
そう、なんていったって今日はロンドに誘われ街へとお出かけするのだ。
「あら?あの馬車は……。」
アルトバーン家の本邸の前に大きな馬車が止まる。
その馬車から降りてくる人物。
それは今日一緒にお出かけするロンドとフォルテその人たちだった。
(一応合算すると二十を過ぎてるいい大人の私が寝坊で遅刻なんて笑えない!!)
女性は用意に準備がかかるものだろうといわれて私の家へと赴いてくれた二人。
わざわざ来てくれたのに準備が終わってないというこの状況は実に申し訳ない。
(ん?でも、これってだらしないって事で好感度ダウンしたりする……?って、そんなこと考えてる場合じゃないわよね!!)
リディに手伝ってもらい急ぎ準備をして私は客間へと急いだ。
そして、客間に到着するなり激しく扉を開いた。
「ごめんなさい、フォルテ、ロンド!お待たせしたわ!!…………って、ど、どうしてこちらへいるの?お兄様。」
二人が来るからかいつもは【オネエ様】であるはずのメロディンお兄様がしっかりと男性の格好をしていた。
そしてそのお兄様と対面しているフォルテとロンドはひどく気まずそうな顔をしている。
(ま、まさか、何か言われたの?)
そんな事を思いながら静かにみんなが腰掛けるソファへと近づいていく。
そしてメロディンお兄様はそれはそれはいい笑顔で微笑んできた。
「ヴィオラ、いつものドレス姿も可愛いけど、そういった格好もまた違う感じでかわいらしいね。ヴィオラは何を着ても可愛いよ。」
「あ、ありがとう、お兄様。で、もう一度伺いますが、何故こちらに?」
「お客様のおもてなしだよ。それにほら、フォルテ王子は大事な妹の【婚約者】だからね。ご挨拶をと思ってね。」
(……笑顔が笑顔じゃない。)
冷え切った笑みが怖い。
一体この人は今、腹の中で何を考えているんだろうか。
「いやぁ、驚いたよ。まさかパーティーでお見かけしてフォルテ王子だと思ってた方が双子の弟君であったなんてね。弟君は体が弱くパーティーに出席していないなんて話の真意はこう言う事だったとは思わなかったよ……。」
「……騙すような形となっており申し訳ありません。体が弱かったのは兄の方であると公にはできませんでしたので……。」
「あぁ、王位の争いの話もありますし、致し方ありませんよね。」
「ご理解いただけて何よりです。」
初めて会った時のように大人を繕い対応しているフォルテ。
しかし、はなから敵意をむき出しのお兄様には流石に怯えているのかあの日よりかはおどついている。
……彼の本当の性格を知るものからしたらもう可哀想以外の何物でもない状況だ。
「はぁ……お兄様。フォルテをいじめないでください!」
「ヴィ、ヴィオラ!?俺は別にいじめてなどいないよ。ただ、いざお会いしたら見知らぬ方がお前の婚約者であったと知って戸惑っていただけなんだよ。」
「理由はどうであれフォルテが困っています!それにロンドだって固まっていますわ!何を話してらっしゃったかはわかりませんが、二人に無礼なふるまいだけはしないでください!」
「ヴィ、ヴィー。無礼なふるまいなんて……。僕は大丈夫ですよ。」
「ヴィ、ヴィー!?」
「……愛称で呼び合っているのです。私もフォルテを愛称で呼んでいますから、お婆様とお爺様に呼ばれる愛称で呼んでいただいているのです。」
「そ、その愛称を嫌がっていたはずでは!?」
「……昔の話ですよ。」
ヴィーと呼ばれることが嫌だったのは正直、ヴィオラの人格だ。
まるで蜂を連想させるその呼び方はなんか気にくわなかった。
ただそれだけだった。
でも、それをおばあ様やお爺様には流石に言えず、私の意を知るお父様、お母様、そしてお兄様たちは私を愛称では読んでこなかった。
だけど今となっては違う。
確かにヴィオラはどこか女王蜂っぽいなぁなんて思ったりもするわけで……
まぁ、普通にかっこいいと思い始めたのだ。
「そんな事よりもフォルテ、ロンド。本当にお待たせしてごめんなさい。さぁさぁ、早く街へ行きましょう?今すぐ行きましょう!?」
「そ、そうだな。時間ももったいないし、すぐ行こうか。」
「で、ですね!」
「それではお兄様、行ってまいります。」
「えっ!?ちょ、ま……ヴィオラ!!!」
私を呼び止めるお兄様の声が聞こえたけれど、私は振り返らず客間を出た。
流石にこれ以上あの場に二人を置いておくことのは罪悪感で押しつぶされそうだった。
「ふ、二人とも、大丈夫だった?」
「だ、大丈夫ですよ。えっと、終始何とも言えないオーラを放たれてはいましたが。」
大丈夫と言いつつ緊張の糸が解けたのか震えだすフォルテ。
相当頑張ってとりつくろっていたに違いない。
「ごめんな、フォルテ。助けてやれなくて。」
「いえ、ロンドが謝る事じゃありませんよ。」
「そうね、謝るのは私ね。兄がごめんなさい。」
「いや、えっと、お前が悪いわけでもないんだけどな。っていうか、何なんだよ、あの人。フォルテの件について口出そうとしたら【君は黙っててくれるかな?】ってめちゃくちゃ怖い笑顔浮かべられたんだけど……。」
「ご、ごめんなさい。」
確かに先程のような場面だと弟のようにフォルテを可愛がるロンドがフォルテを助けないわけがない。
しかしその助けすら出させないなんて、本当家のブラコンは困りものだ。
「ま、まぁ、でも気持ち切り替えて街に出かけようぜ!せっかく街へ出かけるの許してもらえたんだしな!」
「あ、そうそう。それで聞きたいことがあったのよ。ロンドの家の領地はともかく、フォルテの住んでるお城からここって結構距離があるじゃない?一国の王子のお忍びの外出なんてよく許してもらえたわね。」
「あぁ、それはフラットンが父上様に口利きをしてくれたおかげなんです。」
「え?お、お兄様が?」
「そう。僕の場合は少なくとも泊りになるので、フラットンが何があっても自分が守るから妹や友人と遊ばせてやってくれと言ってくれたんです。父上様からの信頼も厚いフラットンのその言葉のおかげで僕はロンドの家にお泊りで来て、その上貴方と街へ行けるというわけなんです!」
「ほんと、フラットン様様だよな!あぁ、俺もいつかフラットン兄みたいになりたいよ。」
「……フラットン兄?ロンドはお兄様をそう呼んでるの?」
「あぁ。俺、割と親の関係で城行くからそのたびにフォルテに会うし、フォルテに会うたびフラットン兄にも会うってのもあって俺にとっても兄貴みたいな感じなんだ。」
「……なんだかそれは妬けてしまいそう。きっと私より会ってる回数多いと思うわ。」
「だったらこれからは君がたくさん会えるよういつも君と出かけるときはフラットンに声をかけますよ。きっとフラットンだって喜ぶと思いますし。」
「本当?ありがとう!」
今までメロディンお兄様になついていてなんだけれど、正直最近はすこし困らせられてばかりで慕う気持ちがフラットンお兄様の方が大きくなってきている。
本当に私、別宅へと移り住もうかと思うくらいブラコンが面倒だと思わなくもない。
かといえ、別に嫌いなわけではない。
ただ、もう少し抑えてほしいと思うだけなのだ。
「おはよう、ヴィオラ。」
「っ!!」
屋敷を出てすぐにフラットンお兄様のお姿が目に入る。
私はお姿を見るなり駆け寄った。
「フラットンお兄様!おはようございます。」
「相変わらずかわいいね、私の妹は。あれから元気にしていたかい?」
「はい!お兄様もお元気そうで何よりです。それに、フォルテから聞きました。お兄様のおかげで今日みんなで街へ行けるって。今日一日よろしくお願いいたします。」
「あぁ、任せておいて。王子もロンドも、そして私の大事なお姫様もみんな護るから。」
少しばかり久々の再会を終え、フラットンお兄様、ロンド、フォルテ、そして私の4人は馬車に乗り込んだ。
そして、ロンドの領地の街へと馬車は走り出した。
このときの私はまさかこのお出かけが予期せぬ出会いのきっかけとなる事をこのときはまだ、知らなかった。




