おまけ7 魔人領域の世代交代法
「さて……と。歓迎会でも申し上げたが、よく来られたシュウ殿。シキ殿。そしてそのお子達」
「建国祭で対面はしたが……、なかなかに期間が開いたのではないか?」
「お互いに色々ありましたからね」
「で、あるな」
そう言ってげんなりした顔を浮かべるのは魔人領域唯一の統一国家『フープモーツァ』皇帝『ナヒュグ=ホグウィ=フープモーツァ』様。そして、その横で少し遠い目をされているのがその妃にして異母妹の『ジャンリャ=フィー=フープモーツァ』様。
「と、言いましてもこちらは小さな国の統治機構の形成だけです。お二人に比べれば大したことはありません」
俺らが支配せざるを得なくなった領域はそんなに広くない。し、そもそもこれまで人がいなかったところ。そん中で完結することなら、何をやろうが文句は言われない。
それに比べてお二人がやらないといけなかったのは魔人領域の統一。地球でもたまにあった先代が後継を決める前に死んじゃったから、後釜巡っての大内戦でばらばらになてったやつの統一。面倒極まりない。
「大した事はないと言われるが、余らは余らだけでやったわけではない。有能な臣下がいる」
「であれば、こちらも同様ですね」
だね。四季。未だにクラスメートを対外的には臣下扱いしないといけないのには慣れないけど。皆がいて、派遣されている人もいる。
「むぅ。とはいえだな、全て私らの手柄と言われても困る」
「皆の助力があってのこと」
「その辺りはお気になさらないで下さいと申し上げておりますでしょうに」
「難しいのはわかりますが…」
あの大内乱は目の前のお二人なら結果論ではあるけれど、強引に鎮めようと思えば鎮められた。もっとも、それをやっていれば人間領域に蹂躙されていただろうが。
そんな強硬手段に出れなかったのは最大の要因は全部前皇帝の子供たち──公称皇帝たちにあった。
目の前のナヒュグ様も、ジャンリャ様も公称皇帝。でも、まだ三人いた。
一人は今、俺らの娘になってるルナ。ルナが生まれた瞬間、誘拐されて行方不明になったせいで、「彼女を旗頭に新たな勢力が出てきたらめんどくさい」と思って捜索していたから人手が足りなかった。
残る二人は長兄『リャアン=フープモーツァ』と次兄『ジンデ=フープモーツァ』。彼らが強すぎてどっちか潰しに行ったら挟撃されて死にかねない。そんな理由で動けなかった。
でも、俺らがだいたいなんとかした。ルナは俺らが見つけて連れてきた。リャアンは図書館のために街に寄ったら、四季を求めて攻撃してきたから俺らが殺した。ジンデは人間領域と戦争している魔族の元締め。すなわち、俺らから見たら『殺せば地球に帰れるようになる可能性が最も高い魔王』。戦闘狂で話も通じない可能性が高かったから総出で沈めた。
とまぁ、でかい爆弾の処理に俺らが絡んでる。ジンデだけはお二人も関わっていたけど、残る二つは蚊帳の外。それがまぁ、気になってるんだろう。
「それに、大変だろうからと魔人領域から結構な人材を派遣してくださったじゃないですか」
「それは、どこの領域もやっているだろう?」
「エルフりょーいきはやってないけどねー!」
「エルフ領域はそもそも派遣できる状況になかった。だろう?」
ジャンリャ様の言葉にミズキが気まずそうに眼をさまよわせた。エルフ領域があれなのは半分以上ミズキのせいだものね…。どう言いつくろおうが。
「…かなり人材の質は高かったはず。ニーフィカやワァンクがいる」
それな。ニーフィカさんとワァンクさんはもともとリャアンの領域で強制的に彼に従わされていたリャアンの正妻と執事長。事実上、あの領域の政務を取り仕切っていた二人……立ち位置的には元国王と言っても遜色ない人。
お二人を派遣できているというのは間違いなく魔人領域のアドバンテージ。何しろ、獣人領域はそんな地位だった人で動ける人がそもそもいない。あそこは一種の共和制だから。人間領域はいないこともないけど、寿命の問題があって無理。
だけど、それをアイリに指摘されたお二人は苦い顔。
「二人はなぁ……」
「本人たちが「リャアン排除に皆様を利用した罪滅ぼし」と主張している。私らがそれを功として誇るわけにもいくまいよ」
「もっとも、はなから誇るつもりなぞないが」
それはそうですが…。あの二人も気にしなくていいのに。リャアンが破滅するよう背中を押したとは言ってるけど、あれは押されなくても動いてただろうし。
「それなら、中立都市『チャユカ』からうちに入れればよかったんじゃね?」
「いや、駄目でしょ。ガロウ」
あ。わかってないっぽい。首をかしげてる。
「チャユカでニーフィカ、ワァンクと同じ立ち位置なのはあそこを治める『テクゥ=チャユカ』と」
「その妻『クアリ=チャユカ』です。あの超絶勇者信仰の強いところからテクゥさんだけ来れると思いますか?」
「思わない」
即答。そして、納得した顔。そらそうよ。アレを思い出せば。
確実にその下の息子たちも含めて誰が行くかで大戦争。…てか、あそこ自体が勇者狂。あそこから誰か呼ぶってなったら悲惨なことになる未来しか見えない。
最悪、あそこが内乱で滅びかねない。…内乱の理由がわけわからん。
「故にあそこからは出せん」
「そも、あそこは「いつまでも行きたかったって言ってうだうだ言うならはたらけ」とクアリが夫と子供たちを蹴り飛ばしてリャアンの治めていたクワァルツに行かせて、統治もしているのだ」
既にキャパオーバーしてましたか。あの二人、ちゃんと手当はしてきました! って言ってたけど、チャユカを使っていたのか。
「そも、余らの人材の質が高いと言われても、量……数が足らぬ」
「送っているのが超精鋭かつ、数がいない。そりゃあ、平均も高くなろうよ」
「そんな悪くとらえないでくださいよ。魔人領域も復興が必要なのはどこも理解しています」
「ここが乱れればまた大陸の東西が揺れかねません」
ほんとに。魔人領域が揺れれば、色気を出す国も出かねない。主に人間領域。さすがにルキィ様のいるバシェル王国は動かないだろう。でも、バシェルをライバル視してるエルツェルとかこっそり動いて土地の簒奪とかしかねない。
…魔法を使わないと渡れないようなファヴェラ大河川が間にある土地なんざ取ってどうすんのってとこではあるけど。あそこならやりかねない。
「そんな中でも、あれだけの人材を出せる。すごいことでしょう?」
いや、ほんと。公称皇帝のリャアンのところは防衛以外、統治に役立たずのリャアンだけが死んだ。統治機構はまるまる残ってる。要のニーフィカとワァンクがこっちに来てはいるけど、統一後の統治の引継ぎは楽なほう。
ジンデのところは人魔大戦なんざしてたものだから、統治機構が吹っ飛んでるところがちらほらと。人間からしたら誰が統治者なのかなんて知ったこっちゃないからね。仕方ない。それでも、まだ統治機構が残存しているところはある。ましなほう。
一番ヤバいのが、泡沫の自称皇帝共のところ。下手に寿命が長いもんだから、「俺が皇帝になるぜ!」って本気で思ってる初代や二代目が400年経っても生きてるとか普通。しかも、それが当主だけじゃなく、家臣もそうなんてところもザラ。そんなところは軒並み粛清せざるを得ず、統治機構が壊滅。
統治機構が生きてるのは両手……下手したら片手で足りる。その代表例が『チャユカ』。あそこは「うちはそんなバカなことほざかないけど、領域の境だから我関せず獣人領域を守るよ!」って言ったところ。
でも、そんな特殊例を除くとほぼ「当主と次代がばかやって独立なんかほざいたけど、やめるなんて言ったら周囲からフルボッコにされるから領民のために涙を呑んで頑張って虚勢張ってた!」っていう三代目以降の時世が読めたところ。
勿論、リャアンとジンデが死んでお二人しか残らなかった状態で、色んなところがそんなことほざいた。でも、それを認められるのはごく一部。何しろ、大半がナヒュグ様達からの距離がグロ近いとかでもないのに、軍隊率いてきた段階でようやく言い出したんだもの。てめぇらが使者になって謝罪に来いよという話で、粛清祭り。
そんなわけで統治機構が死滅してるところがめちゃくちゃある。だのに、その中から人材を派遣してくださってる。間違いなくすごい。
「そう言っていただけると、」
「いいことのように思えるの」
「「いいことなんですよ」」
ほんと。だから、あまり気になさらないでください。
「っと、雑談ばかりしていてはいけぬな」
「親睦を深めるのも大事じゃが、全員、多忙じゃしな。官僚についてとはお聞きしているが、具体的には?」
「世代交代をどうしようか悩んでいまして」
「む?そんなもの放っておけば……あぁ」
察してくださったらしい。
「であれば、私らのところからニーフィカとワァンクを送ったのは間違いだったのでは?」
「いえ。それはないです」
「あの二人が居ませんと政務なんてしたことないので回りません」
ほんとに。冗談抜きで。
「だが、用向きは「その二人、寿命が長くて下手に有能なものだから、切れない。どうやって交代していこう?」ということだろう?」
「私ら魔人は人間と干戈を交えたもの程度しか悪感情を抱いていない」
ですよね。人間領域以上に獣人、魔人領域には人間の勇者伝説が残ってるんですもの。人間に悪感情はそこまでないですよね。だから上に人間がいても問題ない。でも、
「人間は別だろう?」
「ですね。勿論、人間領域も人間領域で内戦中の魔人領域同様、国家がいっぱいあります」
「それゆえ、ファヴェラ大河川からの距離にそれなりに依存しますが」
それでも、悪感情と良感情どっちが強いかと言えば確実に悪感情が勝つ。上に魔人? 我慢ならない! ってのは絶対にいる。
「とはいえ、直近は確実に問題ないのです」
「魔人、獣人に悪感情を抱いているような馬鹿は排除しましたから」
「馬鹿なのか?」
「世も末よな」
「はい」
呆れたような、だよなと納得したような顔を浮かべるお二人。
送り込む以上、国の面子がかかってる。どう考えても各種族のるつぼになるのが確定してる場所なんですけどねー。残念ながら。
「魔人や獣人と人間は違うのですよ」
「他種族の勇者しかいないですが、その勇者信仰がある種族と、同種の勇者しかいない種族ですから」
そのおかげで獣人、魔人は「異種族にも自種族より優れた人はそらいるよね」と受け入れられやすい。が、人間は……ねぇ。普通に人間至上主義の国もある。
…滑稽なのがバシェルやエルツェル、イベアみたいなファヴェラ大河川沿岸じゃなくとて、果てと言っていい国がそうなってるってことなんだけど。
これが戦争して「どう考えても個としては魔人のが強い」とわからされてる国と、それらのおかげで全く現実を見れてない国の違いってことだね。
「と、話を戻しましょう。直近は大丈夫です」
「そんなこと思っている奴はそもそも入国させませんので。ですが」
「将来は危ういか」
「おそらく」
俺の返答を聞いたお二人はそっとため息をついた。
「想像つきませんか?」
「いや、つく。余らも魔人と一括りにされてはいる。いるが、」
「見た目が異なる。それなりに同族意識が芽生えはするのぅ」
あ。やはりそこは逃げられませんか。公称皇帝は悪魔っぽい見た目の人しかいなかったけど……。その辺で何かあったのかな。あぁ。自称皇帝の中に、見た目かなり違う人が混じってたのか。おそらく、そいつが特急呪物なだけだろうけど。
「想像つかれるのであれば、話はさらに早いです。人間と獣人と魔人。それぞれに数と寿命が異なるのです」
「当面……私たちの在位期間中は問題ないでしょう」
一代の王だし。俺らが若いというのはあるけど、ずっと同じ人でも問題はないでしょう。あっても黙らせられます。でも、
「寿命が長いわりに数の少ない魔人が主要な地位を長い期間占めていますと、将来的に大部分の人間が不満を抱きかねないのです」
めんどくさいことに。でも、こういう感情の問題は無視できない。
「……あぁ。問題が起きるのが早いと感じたが、これが寿命の差か」
「お察しの通りでしょう。そう、厄介なのが魔人の皆さんが問題ないと考える時間スパンと、人間の時間スパンは一致しないことなのです」
ファンタジー長命種特有の「100年前?あぁ。この前ね」とかされると困る。人間だとそれ、2~3世代回りかねないんですよ。
「繰り返しになりますが、俺らの在位中は何とかなるでしょう」
「最悪。黙らせます」
「ですが、その後が問題なんです。俺らが退位してもニーフィカさんワァンクさんは現役で動けるでしょう。それこそ100年くらい」
「ですが、人間からすると王様変わったのにまだ100年も同じ人!?になりかねないのです」
「俺らの感情としてはそのまま働いていて欲しいのです」
だって優秀だもの。彼らがいてくれる方がずっと仕事がスムーズだ。でも、
「その間、今のお二人のポジションの後進が育ちにくくなるという問題もあるのです。そして、仮に育っても、「どうせニーフィカの地位には付けない」と腐られるかもしれません」
俺らの言葉を聞いて考え込むお二人。でも、しばらくすると口を開いた。
「その辺りは割り切るしかないのではないか?」
「そも私らは単一種族。見た目で派閥が出来ようとも、寿命は同じ。そのような問題は生じぬ」
「ですよねー」
お尋ねしておいてなんだけど、そういうしかないってのはなんとなく察してた。
「では、超高寿命種族たる魔人の皆さんがどう世代交代をされているのかをお尋ねしても?」
「構わぬ。…とはいえ、他の種族と変わらないのではないか?なぁ?」
「じゃの。寿命が長いということは、突然死せぬということを意味するわけではないからの。他種族よりは引き継ぎ期間は一般的には長い可能性はあるが……じわじわと進めるものじゃな」
んー。お話を聞いている限り本当にそうっぽいなぁ。
「ん?あの。一般的には。なのです?」
「あぁ。統一したからな」
「あっ」
ガロウの問いに答えるなり、死んだ目を浮かべて宙を見るお二人。上を見ても天井なんですけども。まぁ、うん。そらそうですよね。人材がいないなら動ける人がデスマしながら、それなりに動ける人を育てていくしかないですよね。
「学び終わってからの交代はどうされているんです?」
「普通は待つな。40年でも」
スパンが、スパンが長い……!
「待てない場合はどうなるのです?」
「そりゃあ、実力行使よ」
平和的な権限移譲できてないですやん。
「……お父さん。お母さん。目立たないだけで人間でも普通にやってるよ。…そういう権力を巡っての暗闘は」
そうか。そうだよなぁ……。
「結論、スパンが長いだけで人間でも魔人でもそこまで変わらない。ですかね?」
「だろうな」
「あぁ」
マジかー。うーん、何か助けになるかと思ってたんだけど…。やっぱその辺は俺らで考えていくしかないか。動けるからもったいないし、給料だけ払ってフォローできるポジションについてもらう? でもそうすると、院政がー! ってなりかねないんだよなぁ。
「ん?……ふむ。すまない。喫緊の案件が来た」
「で、あればそちらを重視してください」
「ありがとう。後で埋め合わせ「は、結構ですとも。今回はこちらの依頼なのですから」そうか」
そういったのに頭をぺこりと下げてお二人は退出された。ほんと、勇者だから俺らへの扱いがグロ丁寧だわ。
さ、俺らも部屋に引っ込ませてもらうとしますか。悩みは解決しなかったけど、開き直るしかないっぽいってのがわかっただけでも収穫収穫。
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