おまけ6 ペリアマレン連邦の次代
ぺリアマレン連邦=獣人領域の統一国家
「シュウ様!シキ様!リンパスの体調不良の原因は解明されましたか!?」
必死な顔で尋ねてくるリンヴィ様。凄まじく威厳のある見た目のリンヴィ様が、リンパスさんの様態を心配していることに少し笑いそうになってしまう。
もちろん、いい意味で。なし崩し的にひっついたとはいえ、リンヴィ様はリンパスさんをちゃんと大事に思ってるんだなってわかるから。
「あの、お二人。結論を。我らは色々と手を尽くしたが、一向に復調の兆しが見えないのだ」
「失礼。心配することはありませんよ。ねぇ、四季」
「はい。簡単に言いますと、リンパスさんは妊娠されていますね」
「え?」
ぽかんと口を開けるリンヴィ様。すんごいレアな表情だ。
「すまない。もう一度言ってもらえるか?」
「妊娠されています。リンパスさん」
「初期も初期なので、気づけなかったのでしょうね」
そりゃ、治るわけがない。お腹に赤ちゃんがいることが不調の原因。生まれるまで完治は無理だ。マシになるだけ。
「承知した。初期も初期とおっしゃったが、それは確定と考えて構わないか?そのまま成長していってくれるのか?」
「はい。構いません」
「なるほど。リンパスにこのことは……」
「まだですね」
伝えると「やったー!」で済めばいいほど喜ぶのは自明。ベッドから駆け出して、すってんころりん流産とか、ギャグにもならない光景が起きることが容易に予想できる。
「そうか。ご足労感謝する。少々お時間をいただいても?」
「勿論です。ただ、伝え方は考えてくださいね?」
「忠告しなくとも、リンヴィ様なら大丈夫でしょうが……」
「だな。では、しばし、失礼」
苦笑いしたリンヴィ様は周囲から人を呼ぶと、彼女たちを引き連れて入って行った。
1分くらいすると、部屋の中からたぶん「やったー!」って解釈していいだろう嬉しそうな声と「動くな!」「押さえろ!」「抱き着くのはいいから!」なんてカオスな声が聞こえた。
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「お待たせした。では、本日お呼びした本題について話を進めさせていただいても?」
「勿論です」
そのために俺ら勇者勢とアイリ達子供たちを揃えたんですから。
「むしろ、今、しておかなければマズいのではありませんか?」
「天上院さんの言う通りですね。今、しておかなければ、次代が苦しむことになります。それほどまでに、今後、政治体制をどうするかは重たいのですから」
「ですな。では、皆さまにペリアマレン連邦、その政治体制についてどうするかについてご意見をいただきたい」
了解しました。
「復習がてら、現状説明を。我が連邦には勇者様の世界における十二支に相当する種族ごとに12の群が存在する。各群で選挙により選出された群長が12人集まり議会を形成する。この議会が連邦の運営を行う。そして、この議会より連邦の最高指導者、首長が選ばれる。首長は1年ごとに交代で行うという慣例がある。が、あまりにもふさわしくない等の十分な理由がある場合、再任や就任拒否が議会によって認められる。……のだが」
リンヴィ様の声から覇気がなくなった。そりゃ、そうですよね。現状を考えれば。
「思いっきり、形骸化してるものねー」
「ちょっ。アキ!?」
「構わない。事実だからな。そして、それこそが、我が皆様にご足労いただいた理由だ」
ですね。現状、首長を不公平感がないように持ち回りで……というところは20年以上にわたって破綻している。リンヴィ様の威光が強すぎるというただ一点の理由によって。
「はい!」
「どうぞ。ガロウ様」
「リンヴィ様にそう言われるのすっげぇ違和感なんですが……。こほん。何で今こそ、議論しておかなければならないんですか?」
「今こそ議論しないとダメだからだよ☆」
「フミはちょっと黙ろうか」
お疲れ様。羅草さん。質問の答えが答えになってないもんね。有宮さんならわかってるはずなのにボケないで。
「すっごい失礼なことを言うと、今までリンヴィ様は独身で後継ぎがいなかった」
「ですから、リンヴィ様が死ねば勝手に今の体制は崩壊するんですよ。遅かれ早かれ」
「だからその時、否が応でも元の体制に戻る」
その時にこのシステムを正しく運用できるの? という問題は生じるけど、今はお糸公。
「ですが、お世継ぎが出来る可能性が出てきました」
「こうなってくると、連邦に王政、帝政という選択肢が生まれかねない」
「把握した。今、やっとかんとまずいな」
理解いただけて何より。適当にやって唐突に王や皇帝になれ! とか誰も幸せにならない。何しろ、王や皇帝となると子供の思想に寄らず誰かは即位しないとダメなんだから。
「でも、今、選挙してんだろ?選挙で独裁に……あぁ、ナチスがいたかぁ」
「正確には違いますけどね。あれ。まぁ、なることもありますよ」
ナチスは確かに選挙にある程度の人気はあった。だが、不正をしなかった1932年総選挙では、議会の過半数を取れてない。挙句、暴力を使った1933年総選挙ですら過半数越えてない。人気に見えるからとごり押したようなもの。完全に合法的手段だけでは奪取していない。
「ま、重要なのは民衆に支持されて独裁になるのってどこじゃない?」
「んだ。ナポ公もムッソも政府に不満があって、なんとか出来そうだったからこその台頭だべ?」
やっぱわかってんじゃん、有宮さんェ……。
「確かに、その点を考慮すると現状は特異かな」
「過剰に勇者様の世界の話をされると理解が及ばなくなるのだが……。わかることはある。我らとて、例外ではない。ファヴェーシュウキラト湖上国が建国され、この大陸の各種族は交流を取り戻した。その中で安定と権威を求める可能性は否定できぬ」
揺らがないものを欲する可能性は十分にある。
「故に最初にお尋ねする。皆様の考える理想の政治体制は?湖上国が王政であるから、王政か?」
「いえ、目標とすべきは立憲君主制ですね。今の俺らの故郷と同じです」
「王政とは異なるのか?」
「はい。憲法という誰もが守らねばならない決まりを明文化したものを頂点にしたものです。その憲法の下に政治的権力のない王や皇帝がいて、選挙で選ばれた者で構成される議会があります。権力はこの議会が持ちます」
「議会はペリアマレンで言うところと同じですね」
微妙に違うかもしれないが、概略ならこれでいいだろう。
「それであれば、シュウ様やシキ様はいずれ実権がなくなるぞ?構わないのか?」
「構いません。俺も四季も、そして勇者勢も、「権力は腐敗する。絶対的権力は絶対に腐敗する」という言葉の信奉者なので」
だから、絶対君主制はありえない。
「ふむ。ならば、今、お二人が強権を振るわれる理由は?」
「そうせざるを得ないからです。民主主義は民衆側に十分な教養がないとダメなのです」
「そうでなければ「よくわからないから、偉い人に!」だの、「よくわかんないから、実現性のないけど耳障りのいいこと言うところに!」ってなって破綻しますから」
前者は半分、独裁に近い。後者は国が国として保てるか怪しくなる。
「地球でも一時、アラブの春と言って一部地域の国が民主主義に一斉に移行したことがあったんですが…」
「大多数で民主主義は崩壊してグダグダになっています」
理由は色々ある。けど、旧宗主国どもが何も考えないで国境線ひきたくって民族的にがったがたにして「まとまり?何それうまいの?」にしたことと、民主主義の最大手アメリカが大日本帝国を解体したときの手法をそのまままねたことがでかい。
大日本帝国は軍部が暴走しまくって傍からは独裁にしか見えんかったとはいえ、腐っても大正デモクラシーみたいな民主主義運動に、戦時中、政党が大政翼賛会しかないけど、選挙してた民主主義国家だったのに。
「ま、そういうのはあれど、独裁よりは民主主義のほうがよいはずです。よって、うちでは段階的に移行していく予定です」
「私や習君の子供の代はまだ王は必要でしょう。孫……も怪しいです。が、その次くらいには移行できるはずです。移行したとき、私たちの血脈は象徴として存在することになります。万一、頓挫しそうになっても、カレンちゃんがいます。しばらくはカレンちゃんを象徴にまとまれるでしょう」
「任せてー!」
責任重いけど、最悪の場合はお願いね。…といっても、断絶なら兎も角、移行してもよさそうなのに拒否の場合、カレンに出来ることはほぼない。何しろ、カレンは象徴として奇麗でいる必要がある。
あー、最悪、拒否する子たちを粛清するための装置を用意しなきゃなぁ。
「象徴を置く理由は?」
「権力と権威を分けるためです」
「権力は『国民を従わせるための力』であり、権威とは『国民がこの人なら従ってもいいと思える力』です。両方が一緒になっていると万が一の時に終わります」
それこそ、フランス革命のように。権力も権威もあったフランス王室の没落は長い混乱を生んで、再度、皇帝が生まれる事態となり、それでもだめだとまた共和制に戻る……なんて七転八倒した。
「権力と権威が分けられていると権力を挿げ替えやすいです。権力側が吹っ飛んでもまだ権威が生きていれば、国民は団結できます。権威が吹っ飛んだ場合は……権力が代替を用意できます」
それで国民が納得するかは別だが。
「なるほど。なれば、湖上国の目指す立憲君主制の欠点は何だ?」
「私達が考えられるものとしては、権威として国民が納得する象徴を用意できるか?と、権威の持続可能性でしょうね」
「前者はうちもペリアマレンも大丈夫です。後者に関してはまぁ、どうしようもないこともあります」
「権威不要論の発生はともかく、そもそも次代が生まれないことはどうしようもないですから」
不要論は王室への失望とかが原因になるから引きしめればなんとかなる。が、生まれないのはどうしようもない。側室を入れまくったところで……ね。ちゃんと機能すればいいけど、骨肉の争いとか起きたら失望が広がって詰む。
よさげな政治機構が見つかったから変えます! ならいいけど、失望したんで止めまーすじゃ、フランス革命が起きかねない。
「へいへい。二人とももう一個忘れてんぜぃ」
「リンヴィ様も既に似たような立場で承知しておられる可能性が高いからか、意識して外してるのか、それとも既に暗に言ったつもりなのかはわかんナイチンゲールだけど…。明言はしとくべき。血統で維持する以上、その血統に自由はなく南米」
「心配ありがと。でも、それに関しては前者だね。リンヴィ様も承知でしょう?」
「あぁ。だが、心配、感謝する」
「「うぃ」」
王に人権なんてないよ! なんてのは悲しいけど、常識だからねぇ。……それ以外の欠点は俺らでは思いつかないかな。
「ならば我は象徴になることを目指すか。…いけるか?」
「リンヴィ様で無理なら無理ですね」
「習君の言う通りですね。ですが、一点だけ。再確認させてください。神獣の基準ってなんです?」
「明確なものはないな。だが、親や周囲よりもとびぬけて魔力が強いからわかる」
なるほど。んん-。ならば、どうするべきか。
それなら、リンヴィ様ってだけでは不十分な可能性がある。象徴たる理由が「神獣だから」は、他の神獣でも代替できてしまう。唯一無二じゃないと。
俺らやファヴェーシュウキラト神のお墨付き……も同じか。「もう一回、お墨付きを貰えばよくね?」の発想に勝てない。
リンヴィ様の寿命は長い。その間に神獣も普通の獣人とほぼ変わらないって今の方針を続けて、伝統を重ねてもらうしかないか。そうすれば、神獣だから担ぎ上げるってのはなくなるでしょ。
伝統っていう時間の流れで積み重ねた信頼は重い。故にこそ、国民性もあるだろうけど、敗戦直後の日本は天皇陛下の人間宣言を受けても、古事記の記述を信じれば2600年も君臨してきた皇室を戴き続けることを選んだんだろう。
「多少の不安はありますが、リンヴィ様の頑張りでどうにでもなるはずです。リンヴィ様が象徴となるなら、今の首長的役割をどうするかとか、詰めていただく必要がありますが」
「そうか。なら良い。後は議会だが…勇者様方の話を聞く限り、もっと数がいたほうがいいのか?それと、このまま民主主義を続けてよいのか?」
「その辺りは何とも。こちらの世界ではイベアのように魔物の侵略が多いなら独裁のほうが早い対応が出来てよいでしょう。しかし、俺らのように防壁に頼れる上、多民族国家になりそうで全員の意見を聞きたいなら民主主義のほうがよいでしょう」
ですが、一概には言えませんね。後者でも多民族国家で意思疎通がうまくいかないと方向性がバラバラになって内戦になりかねないですし。
「父ちゃんらの世界は民主主義のが多いよな」
「一応、「民主主義は最良ではないが次善ではある」的な言葉がある世界だからね」
「それに、力を持っている国が王や皇帝を嫌いがちってのと、ほぼ民主主義なのがあるでしょうね」
民主主義ではない中国は共産主義で皇帝を否定している。ロシアもソ連になったときに皇帝を無残にもつるし上げた。…まぁ、あそこ風土的に独裁者を好むんだけど。
強い民主主義国家で唯一王を抱くのはイギリスだけ。ドイツは第一次世界大戦の敗戦で責任を取らされ、イタリアはムッソリーニに権力を渡して見限られた。ポルトガル、スペインはひっそりと革命で王政が廃止され、フランスはフランス革命で王を否定し、その後、皇帝も否定した。アメリカは元王政国家からの王や貴族なんざくそくらえ! って元気が溢れた人達の末裔。
王や皇帝に好意を抱く方が難しい。
「なれば、我らは12の群の集まり。民主主義のほうがよいであろうな。ついで、数も増やすか」
「そこはお任せします。相談には乗りますが。ですが、人数を増やすならば実力で登用する官僚組織を置くことをおススメします」
アメリカ式の政権が変わればごっそりブレーンが変わる方法も腐敗防止にいいけど、日本式のこっちのが多分、いいはず。
「……腐敗しないか?」
「それは何とかしてください」
うちもそういう組織は置いてあるので、腐敗しないように腐心してるんですから。
「政治のエキスパートを養成するのは大変ですが、貴族を置くよりかはマシなはずです」
「ボンクラを無理に教育するよりは安上がりか」
「です。ついで、貧困世代に貧困を脱する目安的なものを提示できます」
官僚になれば間違いなく中流以上。中流以上になれる道筋があるなら、貧困から脱する方法がわからない! ってコトにはならないので。
「後、貴族は確定で特権階級だから悪いことしても罰しにくいけど、官僚くらいならしばける!」
「うちの国でも上級国民だから罰されてないやん!糞乙!って問題は湧いてくるけどね☆!」
「努力しよう。…だが、利点はどこだ?」
困った顔のリンヴィ様。まぁ、ほぼ欠点しか出てませんものね。
「選挙をすると政権交代といって今までまともに政権運営をしたことのない人がトップに就くことがあります。そんな時でも、回せるようにするなら変わらない人がいるんです」
「後、政策の一貫性をとるためにも」
特に外交で顕著だけど、条約結んでおいて「政権変わったから止めます!」とか、その国への信頼が地に落ちる。
「あぁ、後、欠点になりますが、官僚は選挙で選ばれていないので、ご注意を」
ここを選挙で選びだすと多分、置く意味がない。けど、議員>官僚の力関係がいい。
「父ちゃんら、もっとえぐいことやってねぇか?地球で。議員どころか官僚でもないけど、暴力と金で横車しまくってね?」
「それはどの政治体制でもいえるから」
「問題ないです」
その分、資源湧かせるとかで還元してるから……(震え声)。
「承知した。ひとまず、群長会議で俎上に載せたい。構わないか?」
「はい。たっぷり議論してください」
「また何かあればお知らせください」
俺らの言葉を聞いて満足そうにうなずいたリンヴィ様は、一礼すると立ち去った。さて、俺らも自分の部屋に帰り……と、四季?
「私たちも次代、作りません?」
手を掴まれて何? と思っていると四季に耳元で囁かれた。しょっちゅうやってるじゃんだの、別にいなくてもだの空気の読めないことは言うまい。
黙ってぎゅっと抱きしめて、囁いてきた時よりも顔を朱に染めた彼女を抱き上げ、空気を読んでくれた子供たちを置いて部屋に戻った。
※『民主主義は最良ではないが次善ではある』
この言葉はどこかで見た記憶があるのですが、直接ググっても出てきません。似た?名言には第二次世界大戦期のイギリス首相チャーチルの言葉があります。
『民主主義は最悪の政治形態である。これまでになされてきたあらゆる政治体制を除いて』
お読みいただきありがとうございます。
今回の割と固めな内容は主人公たちがちゃんと考えている証拠を出すつもりで構成しました。もし、私の認識が変なところや誤字脱字、わかりにくいところがありましたらお知らせいただけますと嬉しいです。




