第三話
トボトボとベッキーが掃除用具を取りに行ったちょうどその頃、キャクストン邸に併設されたキャクストン兵団指令基地の会議室にて。
「――という話だ」
「な、なるほど……」
『王国』に『公国』への戦闘準備とみられる不審な動きが確認された事から、レオンはキャクストン公、『大連合』東方面軍司令部にいるレイラと、
「まったく、あのポンコツは人を疑わなさすぎてこっちが情けなくなってくるよ」
そして、『王国』にいるエリーナの母・マリリンと共に通信会議をしていた。
本来、部外者どころか敵国の人間の彼女だが、ジェシカの父・ブレットのどうも不審な動きを察して探ったところ、『王国』政府関係者を装った『自由』を本拠地とする国際犯罪組織構成員らしき人間と密会していることが判明した。
マリリンは彼の行いがジェシカに悪影響を及ぼさない様に、と先手を打って彼女と自分の娘を避難させた。
その情報と引き換えにマリリンは、レオン経由でキャクストンに娘とジェシカの保護を依頼したため、会議を始める前段階で参加していた。
ちなみに内容は半分ほど、ブレットへのぼやきに費やされていた。
「まあ、あの男は小物も良い所だから、大局に関わるような事には関係してないだろうけどね。精々唆されて金を出した程度の事だろうよ」
無駄に手を煩わせて申し訳ないね、とマリリンは呆れきったため息を吐いた。
「ひとまずこの話はここで終わるとして、そろそろ娘達は着いた頃じゃないか?」
「それは先程。どうも今は『聖女』様とドーナツを作っていて手が離せない様だがね」
声を聞きたいだろう、と慮ってキャクストンは準備をしていたが、予定が土壇場で変更されてしまった事をマリリンへと伝えた。
「娘さんからの伝言だが、便りが無いなら元気な証でしょ、だそうだ」
「はっは。言う様になったねあの子も。まあ無事ならいい、手の空いたときに連絡しろって返しておいておくれ」
口調と表情にはさして変わりないマリリンだが、口から安堵のため息を静かに漏らしていた。
「了解した。では娘さん達は私が責任を持ってお預かりしよう」
「ありがたい。まあ、ジェシカちゃん1人で大概の事は片がつくだろうから、その責任を取ることはないだろうけどね」
「僕も手合わせ願った事があるんだけど、彼女、銃無しじゃ歯が立たないぐらいの実力者でしたね」
「お、『英雄』殿のお墨付きとあっちゃ、娘のパートナーとはいえ私も鼻が高いよ」
そんじゃま、事が済んだら連絡しておくれ、と言ってマリリンは通話を切った。
「やはり、一代でコラソン家を立て直した方は気迫から違うと思わんかねレオンくん」
「ええ。恐らく僕が見た中では1、2を争う程でしょう」
「レオンがそう言うなら敵に回したくはありませんね……」
一地方貴族でありながら、機密情報漏洩に問われる危険性がある行為をやってのける度胸に、レオン他参加者全員が舌を巻いていた。
「では、会議を始めよう」
「ええ」
「はい」
キャクストンが1つ咳払いをした事を合図に議題がやっと本題に入り、4人とも事前にサッと目を通した報告書を手元の大型端末に表示する。
「しかし、紛争で『神機』を持ち出すとは『王国』らしくないですね」
「うむ。連中は基本的に慎重な行動をとるからね。レオン君と『フレイム』がいる以上、姿をさらせばそれだけ勝率はぐんと下がる事ぐらいは分かっているはずだ」
『王国』内に潜んでいる『公国』諜報部隊によると、姿は隠されて確認出来なかったものの、巨大なコンテナが鉄道で国境付近まで移動した事を確認している。
「『フレイム』に匹敵する、あるいは越える性能の『神機』が発見された、という可能性もありますが……」
「発見自体も噂レベルですらないんだね」
「はい」
レオンはレイラの言い方で察して訊ね、彼女は驚くでもなく当たり前の様に返答する。
「そうか。それは『公国』も同じだ」
「では、他の管区の機体でしょうか」
「うーん、どうだろう」
「先日の侵攻時に機体を1機失っている事を鑑みると、その選択肢はあまり考えられないだろう」
「なるほど」
「となると、捻りはなく小細工無しに正面から侵攻、という事とはもちろん、陽動作戦という事も頭に置いておくべきだね」
「つまり、何らかの破壊工作を?」
「その可能性は極めて高いだろうけれど、全面戦争に備えて要人の暗殺、あるいは誘拐という線もあるね」
「第一は娘、か」
キャクストンは自身の失態を思い出し、苦虫をかみつぶした様な表情をした。
「効果の程は実証済みですからね」
「それを考え、妻も含めてすでに増強しておいた。無論、私の周りもだ」
「なるほど。――レイラ、君は?」
「……私ですか?」
「君はほら、『王国』には天敵みたいなものじゃないか。可能性がないともいえない」
「レオンがそうおっしゃるなら」
可能性は無いとは言えないものの、レオンの私情が混じっている事をキャクストンとサラは見抜いていたが、2人とも指摘まではしなかった。
「それで、これはちょっと憶測の域を出ないんだけど、マリーも気を付けた方がいいかもしれない」
「確かに彼女も『王国』出身ではあるがね……」
「僕の方で色々調べたんだけど、マリーの出自について一片の情報も見つけられなくてね」
「それは妙な話ですね」
「だろう? ちょうど切り取って貼り付けたぐらい、マリーは急に現われたんだ」
「ふうむ。ただ単に『聖女』、という訳でも無さそうだ」
「完全に飛躍ですが、何らかの理由により公に出来ないために全て抹消されている、という事もあるやもしれません」
「では念のため、屋敷自体のセキュリティレベルを上げておくとしよう」




