第二話
「ところで、いまからどーなつをたべるよていだが、いっしょにくうか?」
「へえ、いただけるならお願いしたいね」
「りょーりちょーにきいてみる」
「ありがとう。できればエリーナの分もお願いできるかい?」
「まかせろ。ついてこい」
満足して下ろしてもらったマリーは、非常にご機嫌な調子で2人を誘うと、てこてこ、と歩いて厨房のある方向へと歩き出した。
「かっこいいおねーさまはなんてよばれてるんだ?」
「ボクかい? 傭兵の間では『男爵』と呼ばれているから、そう呼んで貰ってもかまわないよ?」
「私は『姫』って呼ばれてるわ」
「つまりだんしゃくおねーさまとひめおねーさま?」
「はっはっはっ、それは斬新な呼び方だね」
一旦立ち止まってひょこっと首を傾げたマリーに、ジェシカはカクン、と少し脱力する動きを見せて苦笑を浮かべた。
「じょうだんだ。じぇしかおねーさまとえりーなおねーさまと呼ばせて貰おう」
「光栄ですシスターマリー」
ジェシカは貴族仕込みのゆったりと優美な礼をして、恭しくそうマリーへと返した。
「むふ」
それでなんだか偉くなった様な気持ちになったマリーは、顔を無駄にキリッとさせて厨房の方へと歩き出した。
「どーなつつくれるか?」
「ちょうど今、メイドが材料買いに行ってるからもう少しまってな」
「おー、わざわざすまないな」
「まあ、自分から買いに行ったんだがな」
「ほえー」
「しかもなんか公室御用達を買うとかなんとか」
「ごようたし」
「ついでに半休取ったとか取らないとか」
「そんなに」
数分後に到着し、マリーが厨房の前で料理長とフワフワしたやりとりをしている後ろで、
「……本当に、こんな所で呑気にしてて良いのかしらね……」
壁に寄りかかっているエリーナは、隣でそのやたら行動的なメイドにシンパシーを感じている様子のジェシカの手をとって、伏し目がちにそう言った。
「いたって邪魔になるだけさ。それに、もう完全にボクらの手に余る事になっていると思うよ」
いつも通り余裕の表情は崩していないが、頭が痛そうにしながらため息を1つ吐いた。
「なるとしたら、エリーナが『聖女』でボクが『神機』のパイロットなら、ってところだね」
「まあそうなんだけど……」
掴まれている方とは逆の手で、ジェシカは相棒の背中に手を回して抱き寄せ、ポンポン、と軽く叩いた。
「悩んだって仕方が無いさ。ここまで気が休まるときが無かったんだし、甘い物でも食べて落ち着こうじゃないか」
エリーナの髪をそっと梳いたジェシカは、彼女へそう言って額に軽くキスをした。
「なんかごまかされてる気がするのよね……」
「君へボクがそんな事すると思うかい?」
「どの口が言うんだか」
「はは」
ふくれ面でエリーナはジェシカの脇腹を軽く小突くと、彼女はとぼけるように微笑みを浮かべた。
「……」
「わあッ!?」
すぐ真横にマリーが来ていたことに気付かず、エリーナは自分を見上げてくる彼女と目が合って、素早く身を引いた。
「うん。えれあのーるおねえさまと、あめりあおねーさまのかんけいとは、すこしちがうようだな」
「ええっと、何が……?」
「こうだ、と、ていぎてしまうのはやぼというものだ」
「そうなの?」
「じょうちょというものだ。たぶん」
「多分?」
「うん」
「そう……?」
エリーナはマリーの独特な感性がいまいち良く分かっていなかったが、
なるほど。何ごとも型に当てはめてしまうのは野暮、と。
ジェシカには感じ入るものがあり、顎に手を当てて2度頷いた。
「はっきりと言えない感――」
「シスターマリーッ! ただいま戻りましたぁ!」
「うおー。でたなもーれつめいどべっきー」
「はい! ベッキーでございます! もう最高級のお砂糖買ってきましたよッ!」
「さいこうきゅう。いいひびきだ」
「でしょうでしょう!」
「おー」
理解しようと質問をしかけた所で、材料を買いに行ったメイドのベッキーが帰ってきて、マリーの興味が2人から完全に逸れた。
「さて私もお手伝いをば!」
「ベッキー、残念だがもうすぐ掃除の時間だぞ」
「そんなー」
「どんまい」




