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『神機』:護りし者  作者: 赤魂緋鯉
幕間 5
65/113

『指令官』レイラと新兵 4/5

「先に言っておきますが、新兵だからといって手加減は結構ですので」

「はい。そのつもりです」


 両者とも『レプリカ』のコアを起動したところで、リサが通信を(つな)いでレイラへ念押しした。


 ちなみに、レイラの乗機はいつもの専用機ではなく、新兵が使う練習機をそのまま使っている。


 リサは答えを聞くとすぐに通信を切り、レイラよりも先に演習場へと飛び出していった。


「『怒りは勘を鈍らせる』ですよね」


 1度深呼吸したレイラは、レオンの言葉を暗唱するとバイザーを下ろし、口角を少し持ち上げてから操縦レバーを握り、既定の移動速度で演習場へと向かった。


 中央付近の平坦(へいたん)な地形の場所で2機が向かい合うと、指令室からのブザーを合図に微速前進する。


 比較的弱い側面装甲を狙いに行くと同時に、自機のそれを打ち抜かれない様に、2機は正面をお互いに向け合いながら、ジャブで演習用ビーム弾を放ちつつ時計回りに円を描く。


 わずかに見えるレイラ機の側面を、リサはピンポイントで撃ち抜こうとするが、レイラは絶妙な加減速でそれを回避していく。

 一方レイラの方は、『レプリカ』の弱点の1つである足回りへ、やや大ざっぱに実砲ペイント弾を放つ。


 リサはそれをレイラの様に加減速で回避しようとするが、不規則に飛んでくるので数発が履帯のカバーに当たり、モニターに小破判定が表示された。


 練習機は戦闘のリアリティーを出すために、ダメージによる機能低下が再現される。


 一方的にダメージを入れられ、リサは険しい顔で舌打ちをした。


「本番はこれからよ……ッ」


 そうつぶやいた彼女は、突然に動きをピタリと止め、後部を旋回する方向に素早く振りながら、高速でやや前進しレイラ機の側面を取った。

 レイラはそれに素早く反応し、旋回の機動を止めて全速前進すると、再びリサ機と向かい合う元の状態に戻した。


 リサはまた舌打ちすると、仕方なくまた旋回の機動を再開した。


 だったら……!


 並のやり方は通用しない、と考えた彼女は、砲身をほぼ真上に上げて実砲弾を何発も打ち上げ、それと同時に先程と同じようにビーム弾による砲撃も放つ。


 そのままだと真上からの炸裂(さくれつ)弾頭の餌食になるが、速度での回避はビーム弾を側面に()らう。

 また、前進・後進でも側面に貼り付いて至近距離射撃、といった具合に攻撃に全く(すき)が無い。


「ほう」


 レイラはその意図を理解して感心の声を漏らすと、一瞬も迷わず加速を選んだ。


「貰ったッ!」


 リサはそう叫ぶと大きめに逆回りを始め、レーザー砲をチャージして、間もなく側面を(さら)すであろうレイラ機にピタリと狙いを付ける。


 しかし、レイラは後部のポッドからスモーク式のチャフを発射し、ビーム弾を明後日の方向に逸らした。


「なッ!?」


 そのまま止まっているのは危険と判断し、リサは再び時計回りの動きをしようとした。


 だが、先程の足回りのダメージが、無理な動きをしたせいで悪化し、機体の挙動が大幅に鈍くなってしまった。


「……」


 その一瞬の隙が命取りになり、煙の向こうから現れたレイラ機に、側面を複数回砲撃されて大破判定を付けられた。


 リサがろくに攻撃を当てられずに敗北した事に、ロッカールームのモニターで演習の様子を見ていた新兵達は唖然(あぜん)としていた。


「歴史ってヤツは繰り返すんだな」

「ああ。あのルーキーも(あね)さんみたいになるかもね」


 それと時を同じくして、夕食の調理でせわしない厨房(ちゅうぼう)をバックに、食堂のモニターでそれを見ていた元・レオン中隊の面々は、レイラがレオンに似たような事をされていたのを思い出し、懐かしそうにしていた。


「素晴らしい腕前でしたよ。ブラウンさん」


 ヤードへ引き上げる道中、レイラはリサ機と併走しつつ、彼女に向かってそう通信を飛ばし、


「あなたはきっと、あっという間に腕を上げられると思いますよ」


 非常に明るい口調で、一切ダメ出しをせずにべた褒めする。


「嫌味ですか? これ以上コケにするのは止めてください」


 だが、リサはかなり刺々(とげとげ)しくそう返し、通信を遮断すると同時に速度を上げて、レイラ機を引き離してヤードへと帰った。


 少しの休憩を挟み、1時間ほどの軍規講習の後、新兵達は食堂で夕食を()る。


「……」


 リサは極めて不機嫌そうにしていて、ポールやウィルとすら一切喋(しゃべ)らず、ウェストリアスの夜景が見える窓際で1人ポツンと座っていた。



                    *



「夜分遅く申し訳ありません少将。少しお耳に入れておきたいことが……」


 深夜が近くなり、私室のベッドで寝入ろうとしていた、タンクトップ姿のレイラの端末に、困った様子のサラから通信が入った。


「構いませんよ。どうぞ」


 レオンから(もら)った抱き枕を抱きながら、身を起こしたレイラはそう促す。


「はい。リサ・ブラウン二等兵についてなのですが――」


 リサは夕食の後、福利厚生のために食堂の隅に置いてある、ガラスドアの冷蔵庫から水のボトルを引っ(つか)んで、兵舎の自分のベッドに閉じこもってしまった。


 それだけなら良かったが、下士官は2段ベッド2つの4人部屋のため、同じ部屋の3人がリサのただならぬオーラを怖がって、管理人に泣きつくという事態になった。


「――という具合でして」


 管理人ではどう考えても手に負えず、リサ達の教官に回されたが、彼の言うことを聞くとは思えず、サラの判断でこの件がレイラに直接上げられた。


「なるほど。ふふっ」


 あんまりにも自分と同じ行動をとっているので、レイラは思わず苦笑いを浮かべた。


「分かりました。私が何とかしましょう」


 頼もしい口調でそう言ったレイラは、抱き枕を傍らに置いて立ち上がった。


 近くのチェアの背もたれにかけられた、迷彩のカーゴパンツとジャケットを身につけて兵舎に向かった。


 マスターキーを預かると、管理人の手を借りるまでもなく、レイラは真っ直ぐにリサの部屋へたどり着いた。


「ブラウンさん、入りますよ」


 まずレイラはドアをノックをしてみたが、何の反応も帰ってこないので、ドアを少し開けてそう言った。


「……」


 リサは寝てはいなかったが、面倒なので寝たふりをする。


「沈黙は是と取って良いですね?」

「……」


 それを見破ったレイラは、そう言って容赦なく部屋に入っていった。


 ベッドの前後にある個人用デスクの、後ろ側の方の椅子を引きずっていって、リサに背を向ける格好でレイラはベッドサイドでそれに座る。


 レオンの手をまるっきり真似(まね)して、彼女はリサが話しかけてくるまでひたすら待った。


 それから1時間後。


「……何のつもりですか」


 いつまでもそこに居るので、リサは根負けしてレイラにそう訊いた。


「少し、話をしようと思いましてね」

「結構です。早く出ていってください」

「では上官命令、ということで。話をしましょう」


 はっきり否定されたが、レイラはイタズラっぽく笑ってさらりとそう言った。


「……じゃあさっさと終わらせてください」


 リサがぶっきらぼうな口振りでそう言うと、レイラは、分かりました、と返事をして、


「――報告書で見ましたが、あなた、戦災孤児なんですね」


 少し間を置いて、少し低いトーンの声を出しつつ脚を組んで言う。


「それが何ですか? あなたも地獄を見てないくせに、私の気持ちが分かる、と言うのですか?」


 今まで散々その言葉で同情されてきたリサは、突き刺すような低い声でそう訊いた。


 元々リサが住んでいたのは、9年前『帝国』によって奪われた土地だった。


 戦争法規(ほうき)を完全に無視した『神機』による攻撃で、彼女とその家族が避難していた建物を破壊され、当時9歳の彼女だけが生き残った。

 『帝国』に捕虜として連れ去られかけたが、ベイル指揮下の部隊に阻止・保護された。


 それから現在まで、『帝国』への恨みを抱えたまま、彼女は中央領内にある孤児院で育った。


「ええ。地獄なら、私も見ましたから」


 遠い目をして(うつむ)くレイラの言葉に、リサは今までのそれとは違う、暗く重たい物が混じっているのを感じた。


「……確かに、あなたの経験したあの戦争は、地獄だったかもしれませんが、私のそれとは重さが違いますよね?」


 それに少し動揺を見せたが、それを押さえ込む様にレイラへそう言い返す。


「同じですよ。私もあなたと同じ様に、親を『王国』に殺されましたから」


 へその下辺りの位置に置かれた手を握りしめ、レイラは心苦しそうな声色でそう言った。


 リサはそれを聞くと、カーテンをゆっくりと開いて顔を(のぞ)かせる。


「やっと顔を見せてくれましたね」


 椅子をくるりと90度回したレイラは、そんなリサを見て少しだけ口の端を上げた。


「1人きりの悲しみも、1日でも早く強くなりたいという焦りも、家族を奪った敵国を恨む気持ちも、私は全部知っています」


 だが、その目は彼女が毎日の様に鏡で見かける、自分自身と同じ深い孤独と悲しみを(たた)えていた。


「しかし指令は……。到底、そんな風には……」


 それを目にしたリサの反発心は、急速にしぼんでいった。


「今はそうでしょうね。ですが昔は、あなた以上に荒れていました」


 あなたのご友人の様な存在は、私には居なかった事も(わざわ)いしたのでしょう、と、レイラは自虐的に笑みを浮かべてそう言う。


「そのせいで視野狭窄(きょうさく)に陥った私は、勝手に突っ走ってんでもなく痛い目に()いました」


 俯き加減でそう言ったレイラは、ぎゅっと自分の身体を抱きしめた。

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