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『神機』:護りし者  作者: 赤魂緋鯉
幕間 5
64/113

『指令官』レイラと新兵 3/5

                    *



「やっぱ、さっきのアレは流石にマズかったんじゃねえの?」

「俺もそう思うぜリサ。教官だって嫌がらせで言ってんじゃ無いんだからさ」


 昼休憩後、午後の訓練のためにまたヤードへと向かう道中、いつも通り最後尾をダラダラ歩きながら、ポールとウィルはサラにそう口々に言う。


「だってどうせ、あんたら以外付いてこられないじゃない。他が未熟すぎるのよ」


 鼻で笑う様にそう言うのを聞いて、他の新兵達がチラリと見やりながら眉をひそめた。


「あのなあリサ……」


 そんな険悪なムードの中、ヤードの中に入ると、


「えっ、あれ……」

「指令だよな……?」

「その後ろって……」


 そこには略服姿のレイラがいて、その背後に元・北部守備隊のレオン旗下35名の内20名ほどが横一列に並んでいた。


 さらにその後ろに、レイラ達の『レプリカ』8機、練習機20機の順に駐機されていた。


 ちなみに、元・レオン中隊の面々は、ホイホイと勝手に出撃するので、もういっそのことレイラの旗下に入れてしまえ、という事になり、『233年対『島国』防衛戦争』後に全員が異動になっていた。


 そんな伝説の兵士達を初めて間近で見て、新兵達はにわかにざわつく。


「午後は予定を変更して、特別訓練を行なう事になった」


 そう言った教官は、レイラ以下35名に敬礼する様に言うと、リサ以外の新兵達はいつもより素早く敬礼した。




 特別、と言うぐらいだから、いったいどんな厳しい訓練が待っているのか、とほとんどの新兵が戦々恐々としていた。


 だが、レイラが行なったのは、徹底した基礎練習と研修室で戦術の座学だった。


「では、以上で終わります」


 もしかしてこれからが本番なのか、と思った新兵もいたが、レイラが教官達を連れて退室していったので、彼らは内心ホッとしていた。


「質問、よろしいですか?」


 そんなやや弛緩(しかん)した空気の部屋から、レイラを追って飛び出したリサは、彼女らに追いついて仏頂面でそう呼び止めた。


「どうぞ、ブラウンさん」


 気分を害した様子もなく、レイラはにこやかなままさらりと答えた。


「特別、と銘打っておきながら、何故あの様な低レベルの訓練しか行なわないのですか?」


 問題にされてない、と思ったリサは、レイラを(にら)み付けながらそう言う。


「ブラウン二等兵! シュルツ指令に向かって――」


 軍曹は即座に無礼な態度を(とが)めようとするが、まあまあ、とレイラになだめられて矛を引っ込めた。


 ……昔の私と同じで、心の余裕がないのでしょうね。


『この程度を訓練と称するとは、あなたは私をバカにしているのですか?』


 リサにレオンと出会ったばかり頃の(とげ)だらけの自分を重ねつつ、


「質問の答えですが――」


 レイラは少し頬を緩ませて続ける。


「切羽詰まったときに、一番身を助けるのは身体に染みついた基礎とその応用の動作です。戦場ではいつだって機体が十全とは限りませんから」

「そうなるのは、輜重(しちょう)兵と整備兵が仕事出来ないだけですよね?」

「ええ。我々がしっかり護らなければ、彼らは仕事が出来ません。お互い様、ということです」


 通りかかった整備科の新兵が、そう言い放ったリサに突っかかろうとしたが、レイラが目で制してそう返したので、一緒にいた先輩に肩を軽く叩かれて去って行った。


「ですがあなたの機体はどう見ても、基礎を無視したおかしな構成ではないですか。あんなものに乗ってる人に言われたくありません」


 何の手応えもない事にイラついたリサは、怒らせようとムキになってそう言った。


 レイラの機体は、ブレードと盾の近接戦闘用装備に、一般的なレーザー砲と妨害系装備各種を背後のポッドに、という構成で、その位置を上部に変えた以外は変わっていない。


「否定はしません」


 それでも彼女は全く表情を崩さずそう返したところで、ポールとウィルの2人が血相を変えてやって来た。


「おい! 流石に止めろよリサ!」

「その辺にしとけ!」


 彼らはドバドバと冷や汗をかいてリサへそう言い、レイラに彼女の無礼を謝った。


「ならば、基礎とその応用が大事と言われましても、はいそうですか、と言うことは聞けませんね」


 リサは2人の事を完全に無視し、吐き捨てる様にそう言って去ろうとした。


「そうでしょうね。――では実際に体験してみますか?」

「ぜひ。後学のためにも」


 それすらもいなされ、さらにイラつきを強めたリサは、非常に面白くなさそうな様子でそう言った。


 30分後にヤードへ来るようリサに言い、レイラは将校用のロッカールームへと向かった。


「おいおい、(あね)さんアレ相当キレてるぞ……」

「ひえー、あのルーキー怖い物知らずだなあ……」

「おっかねえ……」


 その様子を遠くの曲がり角から見ていた、元・レオン中隊の側近達は、柔らかな表情の

レイラからにじみ出す怒気を感じ取って震え上がっていた。



                    *



 上司としての器は、まだあなたの足元にも及びませんね……。


 レイラはパイロットスーツに着替えながら、内心、少しムキになっていた事を自戒していた。


「はぁ……」


 レオンの様に全てを笑って許す、という事が出来なかった自分に、彼女は1つため息を吐いた。


 今になって、あなたのご苦労が分かるようです……。


 それから、スーツの袖に腕を通して、甲部分にレオンのペットマークが付いたグローブをはめ、中に入った髪をかき上げるように外へ出した。


「はい、どうしま――」


 スーツのファスナーを上げようとしたところで、目の前に置いてある棚の上で、スタンドに刺さっている端末に通信の呼び出しが来た。


「ひゃっ! たいっ、れっ、レオン!?」

「あ、ごめんね」


 レイラが確認もせずに応答すると、その相手はレオンで、彼女は素早くファスナーを上げて下の下着まで見えていたのを隠した。

 それと同時に、レオンは気まずそうな顔をしつつ、通信を映像ありから音声のみに切り替えた。


「何か緊急事態かい? レイラ」

「あっ、いえ! 少し新兵に手ほどきを、と思いまして……」

「なら良かった」


 パイロットスーツを見て心配そうにレイラへ訊ねたレオンは、その答えを聞いて安堵(あんど)したようにそう言った。


 ちなみに、レイラからは分からなかったが、画面の向こうのレオンは、一瞬大いに焦った表情をしていた。


「と、ところでご用件は何でしょう……?」

「ああうん。元気にしてるかな、と思ってね」

「はい。風邪の1つもひいていません」

「なら良いんだ。レイラはすぐ無理するから、ちゃんと休むときには休んでくれよ」

「……気を付けます」


 離れていても自分を心配してくれている、というのを感じ、レイラは無意識の内に(ほほ)を緩ませた。


「じゃあまた会おう、レイラ」

「はい。レオンもお気を付けて」


 胸の奥にじんわりと温もりを感じつつ、レイラはそう言って通信を切った。


 さてと、行きますか。


 時計を見ると良い時間だったので、ロッカー上段のヘルメットを抱え、機嫌良くヤードへと向かっていった。


 その一方、一般兵用のロッカールームでは、イラつきを全く隠さないリサが着替えていた。


 リサがロッカールームに来たとき、他にも女性兵士がいたが、彼女の醸し出す雰囲気を怖がって全員がそそくさと退室していた。


「基礎が完璧に出来たぐらいで、『二つ名持ち(ネームド)』になれるわけないじゃない……」


 レイラが自分の事をただの新兵扱いしている、と思っているリサは、眉間にしわを寄せながらボソボソと言う。


 もたもたやってる場合じゃないのよ……。『帝国』は今か今かと機を待っているのに……。


 奥歯を()みしめつつ、すっくと立ち上がったリサは、口をへの字に曲げてのしのしとヤードに向かった。

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