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『神機』:護りし者  作者: 赤魂緋鯉
第三章 『神機』:蒼海の巫女
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第五話


                    *



『――とまあ、そんなわけで今に至るんだ』


 ミコトの口から語られた壮絶な話に、その場にいる全員がしばらく絶句していた。


 3分程が経過してから、やっと口を開いたレイラは、ミコトの心身の疲労を考慮して、ここで解散することを提案し、満場一致でそうすることが決まった。




 ミコトは身廊の隅にある出窓の窓際に座り、目下に広がる海を眺めていた。


 その周囲には、彼女の他に、その話し相手になるために来たアメリアと、


「……あの、エレアノール様?」

「……」


 ムスッとした顔で彼女の腕を抱きしめ、ミコトを(にら)むエレアノールの2人がいた。


『どうやら、君を取り過ぎて嫌われてしまったらしい』


 わかりやすく焼きもちを焼くエレアノールを見て、ミコトはご機嫌斜めな主人に、わたわたするアメリアへそう言って肩をすくめる。


『言っておきますが、この人は、私があくまであなたにお貸ししているだけですから』


 不機嫌そうな顔を貼り付けたまま、エレアノールはミコトへ釘を刺すように、古代語でそう言い放つ。


『安心してください。愛する2人の邪魔をする、という野暮(やぼ)な趣味は私にはありません』


 いじらしいエレアノールに、ミコトは微笑(ほほえ)ましげな表情を向けてそう言う。


『こいはせんそう、というやつか?』


 いつの間にか近くに来ていたマリーが、真顔で3人にそう訊く。


『うーん、ちょっと違うかな?』


 少しの間きょとんとしたミコトが、苦笑いしてそう返すと、


『そうか』

「マッ、マリー!」

「わー」


 慌ててセレナがやってきて、そっとマリーを抱きあげた。


『すみませんすみません! この子はこういう子なんです!』

『いえいえ、ボクは気にしてないですから』


 セレナはそう平謝りしながら、真剣な顔で話し合っている、レイラとレオンの方へマリーを連れて行った。


『面白い子だ』


 セレナの右肩から顔を(のぞ)かせて、手を振るマリーに小さく手を振り返したミコトは、レーションの棒状クッキーの袋を開けて、中身をモサモサ食べ始める。


『将来は大物になるかもね、彼女』

『私もそんな気が致します』


 しがみつく場所が腕から胴体に変わった、まだむくれているエレアノールを見ながら、アメリアはミコトにそう返した。




「うーむ、やはり教会に任せるべきでしょうか」

「ああ。それが1番妥当な形だろうね」

「分かりました。我々が責任を持って保護いたします」


 ミコトに頼まれて彼女の扱いをどうするか、協会関係者と話し合っていたレイラとレオンとその側近達は、とりあえず教会に預かって貰う事で意見が一致した。


 『島国』に向けての放送の件は、この場ではどうしようもないので、東部領基地に帰るまで保留することになった。


 ちなみに、『公国』と『帝国』以外の国の『聖女』達は、この時点で臨時大使館に帰っていた。


 散会になったタイミングで、レイラの端末からブザー音がした。


 その相手は沿岸警備隊の隊員で、ポッドを近くのコーラリアス軍港へ牽引(けんいん)を開始する、という報告だった。無論、ミコトの許可は事前に取ってある。


「さて、僕たちも戻ろうかセレナ」

「はい」

「れおーん。だっこー」


 少し離れた所で待っていたセレナにそう言うレオンは、駆け寄ってきて抱っこを要求してきたマリーをひょいと抱き上げた。


「じゃあレイラ。また今度会おう」

「……。はい……」


 レオンに別れを告げられ、レイラは目に見えてションボリした様子になる。


「……そんな顔しなくても、また会う用事があるじゃないか」

「まあそれは……、そうなのですが……」

「次はゆっくり話す時間もあるし」


 そんな彼女を見て苦笑するレオンに、レイラはやや伏し目がちに、歯切れ悪くそう言う。


「少将。寂しいのならば、素直に彼へそうおっしゃって、連絡先でも交換してはいかがですか?」


 いつもの恋愛ヘタレを発揮させるレイラへ、サラは半分呆れた様に笑ってそう耳打ちする。


「いやあのそのサラさん流石(さすが)に司令官である私がそれをやっては部下に示しが付かないではないですか……っ!」


 ものすごく瞬間的に耳まで真っ赤にしたレイラは、ニヤニヤするサラに小声でそう言い返す。


「そんなわかりやすい反応をしておいて何を今更」

「ですが……。そこまで行くと重いと思われてしまうのでは……」

「あなた、レオンさんと知り合って何年になりますか?」

「ご、5年程ですが……」

「それなら、彼があなたを良く思ってるのはお分かりでしょう?」

「……まあ、……はい」

「ならばウジウジしてないで、軍人らしく行動に移しましょうよ」


 今言わなかったらずっと言えませんよ、ほら頑張って下さい、と、サラはポンコツになっている上官にそう発破をかける。


「ああああっ。あっ、あのレオンッ!」


 勇気を振り絞ったレイラは、かなりカクカクした動きで、声を裏返えしつつそう言ってレオンを引き留める。


 彼女の様子を見て空気を読んだマリーは、レオンに自分を床に下ろすように言う。


「なんだい?」


 マリーを下ろしたレオンは、爽やかに微笑んでレイラにそう訊く。


「えっとその……、りぇんりゃくしゃき――ッ」


 緊張しすぎて思い切り舌を()んだ彼女は、ああああ……、と言いながら、その場で頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。


「だ、大丈夫かい?」


 普段とは違うコミカルな動きを見せるレイラを見て、流石にレオンは本気で心配し始めた。


「だっ、大丈夫ですううううああああっ!」

「レイラ!?」


 キャパシティオーバーになったレイラは、脱兎(だっと)のごとく走り出し、ミコト達とは逆サイドの隅に行って再度うずくまる。


「少将……。……申し訳ありませんレオンさん。少々お待ちになってください」

「あ、ああ……」

 

 首を横に振ったサラは、レオンにそう告げると、シャイな恋する乙女と化したレイラのフォローに向かう。


「逃げてどうするんですか……」

「うう……。面目ない……」


 子犬みたいに震えている涙目のレイラへ、サラはとりあえず深呼吸する様に言う。


「……あれらは何をやってるんですの?」


 そんな彼女達の様子に、エレアノールは怪訝(けげん)そうな表情を浮かべる。


「はは……」

『ふふ。真面目な人なんだろうね。彼女は』


 彼女に背中を預けられ、その身体を包み込む様に抱くアメリアは、なんとも言えない顔で笑い、ミコトはその場にいる兵士達と同じように、温かい目でそれを見ていた。


 そんな微笑ましい空気が流れていた、そんなとき、


『こちら海防艦アンディ! こちら海防艦アンディ! 現在国籍不明艦(アンノウン)と交戦中! 繰り返す! 現在国籍不明艦と交戦中!』


 けたたましい警報音と共に、レイラの端末へ、そんな鬼気迫る通信が入った。


『現在位置はグラブ岬西南約14キ――』


 位置を全て伝え終える前に、けたたましい轟音(ごうおん)が鳴って通信が切れた。


 グラブ岬はコーラリアス湾西岸の先にある岬で、国内最古の赤いレンガ造りの灯台がそびえ立っている。


 素早く立ち上がったレイラが、緊張感に満ちた表情でアンディに応答を求めるが、反応は一切無い。


 その直後、海岸部の監視所から、ポッドを牽引していた海防艦・アンディーの撃沈と、撃沈させた異形の所属不明艦、及びその艦が放った、どこの国の装備とも違う色のビーム、などといった報告が側近達に押し寄せた。


 音量がかなり大きい事から、身廊内にいた全員にそれら情報が伝わり、強い緊張感が走る。


 アメリアが何があったか全て翻訳し、ミコトに共有された画像を見せた。


『なん、だって……?』


 すると、彼女は愕然(がくぜん)とした様子でそうつぶやき、クッキーを取り落とした。


『もしや……?』

『ああ、間違いない……。『ヤシロ国』の艦だ……』


 アメリアからミコトの言葉を聞いたレイラは、即座に東部領沿岸部へ、最高レベルの警戒態勢を指示した。


 サラは東部領司令部に残っている通信兵へ、中央と南部領と西部領へ全ての情報を共有するよう指示を出す。


 14ノ月17日の13時。後に、『233年対『島国』防衛戦争』と呼ばれる戦争が始まった。

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