第六話
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ヨシマサ・ウミヨリ指揮下の『島国』軍は、南方の『分断の海』方面から計142隻の大軍で押し寄せ、『大連合』沿岸部に向かって、大陸諸国のものより威力も弾速も高い実砲弾で砲撃を始めた。
『島国』軍の艦は、喫水が極めて浅い強襲揚陸艦の形状で、その内87隻の前方には艦砲と内火艇兼用の『レプリカ』が収まっている。
一方、『大連合』軍は宣戦布告もないまま開戦したせいで、最低限度の戦闘要員しかおらず、即応出来る戦力は『レプリカ』は相手を下回る65機のみであり、迅速な反撃は小規模なものが精一杯だった。
その『神機』はというと、『大連合』軍機全機が停止中で、起動完了まで2日はかかる。
『島国』軍は橋頭堡を築こうと、南部領中部コーストサンと、レオン達が居る聖堂の東方30キロにあるコーラリアスの2地点へ同時に艦を進める。
コーストサンは曲げた腕のように海へ突きだした、サン半島の根元にある交易都市。コーラリアスは、内陸まで海が食い込む形になっている軍港都市である。
半島の海岸に展開した、コーストサン基地の『レプリカ』部隊は必死で応戦するが、性能と練度にわずかに勝る敵に徐々に押し込まれていく。
コーラリアスは『大連合』屈指の良港であるため、レイラは念には念をと、左右の岸に山林に偽装した要塞を築かせていた。
そのおかげで、『島国』軍の侵攻をなんとか湾の入り口付近で阻んでいた。
一方その頃、レオン達は防御面で完全に不利な聖堂から、通信兵を残して東部領司令部へと退避することになった。
装甲車とトラックの3カ国混合の列が、海食崖沿いの蛇行した道路に連なっている。
その先頭集団を走る『帝国』の装甲車内にて、
『……』
『ミコト陛下。お体の調子が優れませんか?』
『ああ、いや。問題ない』
装甲車の後部座席右に座るミコトへ、中央に座るアメリアが心配して話しかけると、彼女は青ざめた表情でやや生返事気味にそう返す。
アメリアの左には、普段と変わらない表情のエレアノールが座っている。だが、アメリアの手を握るその手は小刻みに震えていた。
車内中央の天井からぶら下がる端末は、セレナ達が乗る後続車両と音声通信が繋がっている。
その車内は、3列シートの最後部にセレナとマリーが座り、中央の座席はレオンとレイラが座っている。
2人とも自分たちの端末の画面を睨みながら、さらに後続の車両に乗る側近達と、司令部の参謀達とグループ通信で会議している。
セレナもエレアノール同様、得体の知れない敵に怯えていたが、
ぱさぱさしててびみょうだな。
マリーはいつも通り自然体で、レーションの棒状クッキーの味を口に出さずに判定していた。
約5時間後の18時29分、レオン達は東部領のほぼ中央に位置する、中心都市・ウェストリアスに到着した。
この都市はコーラリアス大聖堂の北北西約54キロに位置し、各国の臨時大使館が置かれている。
ちなみに、すでに到着していた『王国』と『自由』の2カ国は、都市間の移動が制限されるギリギリで、『大連合』国内から出国していた。
その西の外れにある東部領指令部に到着すると、エレアノールとアメリア他の『帝国』軍兵士達は、ひとまず大使館で待機することになった。
ミコトは基地内にある病院で、より詳しい健康診断を受けることになった。
それ以外の内、レオンとレイラとサラ達側近は指令室に、セレナとマリーは将校用の宿舎へ別れた。
レイラ達が指令室に入って来ると同時に、参謀達は一斉に立ち上がって敬礼をする。
彼らの大半が非番だったため、服装は私服と作業服装と常装がごちゃ混ぜになっている。
彼女が敬礼を返すと、指示を待たずにすぐ各々の作業に戻った。
現在の戦況は、東部領沿岸地域では、『島国』軍の上陸を3キロ沖で食い止め、南部領沿岸地域は、『島国』軍の上陸を許してはいるが、ほぼ接岸した地点までで侵攻を留めていて、どちらも膠着状態となっている。
また、『分断の海』沿岸国は大規模な侵攻こそ受けてはいないが、『島国』の偵察船がうろうろしているため、各々沿岸の防御態勢を急ピッチで強化し始めていた。
「こちらの援軍の予想到着時刻は?」
司令官席に座るレイラは、目の前のモニターに表示される、そのことが書かれた文書ファイルを閉じて、まだ文書化されてない情報を参謀の青年将校に訊く。
彼曰く、南部領へは司令官の要請で、西部領のベイル中将が2個中隊の派遣を決定している。
東部領には、またしても勝手に出撃した旧北部守備隊と、彼らに毒された現在の部下が中央からやってくる、との事だった。
「報告は以上です。……少将?」
「ああ、いえ。何でもありません。ご苦労様です」
説明を聞いたレイラが、額に中指を当てて首を横に振った。それを見て不思議そうな顔をした青年将校へレイラはそう返す。
その直後に彼らからの通信がきて、それを繋ぐと、
『姐さーん! オレ達が来るからにはもう安心ですよ!』
『大佐ー! お久しぶりですー!』
『ちゃっちゃと終わらせてメシ食いましょうぜ!』
全員が全員、声の出し過ぎで音割れの酷い音声が次々と届いた。
「もう……、あの人達は……」
「はは……」
レイラと隣にいるレオンは、そんな愉快な仲間達の声に、顔を見合わせて半分呆れた苦笑いを浮かべた。
とりとめの無い会話を2、3交わした後、レイラはくれぐれも道中気を付ける様に言って通信を切断した。
「僕の出番は当分なさそうだし、姫様と少し話してくるよ」
「……はい。お願いします」
じゃ、と額の高さに右手を挙げ、レオンは護衛を引き連れて指令室から退室した。
「……」
レイラは実に複雑そうな表情を浮かべて、そんな彼を見送ったが、
――こんなことではいけません。自分の肩に何万の命がかかってると思っているんですか、レイラ・シュルツ。
僅かでも、個人の感情を混ぜてしまったことを恥じ、かぶりを振りながら内心で自分を叱責したレイラは、司令官らしい精悍な顔つきになった。
黙々と部下達がかき集めたデータを読むレイラに、傍らにいるサラは口元に小さく笑みを浮かべ、自分の端末で補給兵に首脳陣用のレーションと飲み物を発注した。
レオンが基地内病院の特別個室を訪れると、ミコトが壁に備え付けの端末を使って、『帝国』の大使館にいるアメリアと会話していた。
扉がノックされたときは驚いた顔をしたミコトだったが、入ってきたのがレオンだと知り、ほっとした様子を見せる。
「やあ、姫君と……、マドック中尉。お取り込み中悪いけど、ちょっといいかい?」
『ああ構わないよ。あなたは?』
『私も構いません』
レオンはそこまで言ってから、こちらの言葉は伝わらない事を思い出した。
「あー、その、『すまない、つい我々の言す言葉、使ってしまった』」
そこで彼は、勉強中の古代語でそう話しかけたが、片言かつ簡単な言葉しか言う事が出来なかった。
「私が通訳いたしますよ」
「ああ、ありがとうマドック中尉。助かるよ」
困っているレオンを見かねて、アメリアはそう申し出て、レオンはその厚意を受け取った。
「『島国』の軍勢がどこから来たのかとか、知っていることをできる限り教えて欲しい」
近くにあった椅子に座りったレオンは、気持ちの整理がつかないだろうけど、と前置きしてからミコトにそう訊いた。
『わかった。……ボクには結果的とはいえ、彼らを引き入れた責任がある』
『遅かれ早かれ彼らは来ていました。無駄に責任を背負い込むべきではありません』
自嘲的にそう言ったミコトに対して、画面の向こうのエレアノールが、間髪を入れずにそう返した。
ミコトはエレアノールへの感謝を口にしてから、自分が把握している情報を話し始めた。
彼女曰く、『島国』西部沿岸にある『分断の海』は、ちょうど『聖なる7日間』の時期に、南極点から流れてくる大規模な流氷が、西端にある島の沖の浅い暗礁地帯に引っかかって、天然の浮島が出来る。
『島国』軍は、恐らく過去に大陸へ渡った『島国』の同胞と同じく、これを使用したのだろう、という事を伝えた。
「なるほどね。……でも、そこまでして、なぜ彼らはこちらに侵攻をするんだろうか」
いくらミコトが停戦の指示を放送したとしても、フェイクだ、と、ごまかせば無意味になると思うんだけど、と言うレオンへ、
『それは多分、これを狙ってのことだろう』
と、答えたミコトは、パイロットスーツの胸元を少し開け、中からネックレスに繋がれたメダルを引っ張り出してそれを見せる。
そこには、『聖女』の紋章に似た印が、超古代のものと思わしい技術によって、ゆがみが一切無い程の高精度に刻まれていた。
『これは、代々受け継がれてきた、当代大王であることを証明するものだ。これを持たぬ者が大王かそれに準じた称号を名乗ると、お上を騙る朝敵として討たれるからね』
「なるほど」
それからミコトは、『ヤシロ国』が保有している、水上を移動出来る『神機』の情報や、『島国』製『レプリカ』の性能など、といった質問に、最重要機密以外は全て答えた。
防衛上十分な情報を得ると、書記の兵士はレイラへと報告に向かった。




