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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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エルーダ迷宮征服中(アローフィッシュ)41

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

「アローフィッシュの群れが来る!」

 ナガレが言った。

「アローフィッシュ?」

「つべこべ言わずに一メルテの厚さの氷の壁を作って! 舟を守るように。水のなかもよ!」

 ナガレは舟の左側を指差した。

 ロメオ君と言われたように舟の東側に壁を作った。

「結界じゃ駄目なの?」

 ロメオ君が作業しながらナガレに尋ねた。

「帆を仕舞ってる時間がないわ。帆も守りなさいよ!」

「魚だろ?」

「矢のように飛んで来る魚よ!」

「来た!」

 それは銀色に光る無数の矢のようだった。

 目にも留まらぬ速さで海面から撥ねてきたそれは、胸びれを広げて次々とこちらに突っ込んできた。

 それは一瞬のスコールのように通り過ぎた。


「これが美味しい魚なのよ」

 壁にしていた氷を横倒しにすると、そこには無数のアローフィッシュが杭のように突き刺さっていた。

「……」

「大漁、大漁。いいお土産ができたわね。ほら、そこ! 手が止まってる!」

 ナガレがヘモジに命令する。

「ナ!」

 ヘモジは即席で作った氷の箱のなかに獲ったアローフィッシュを放り込みながら「ちゃんとやってる」と抗議した。とオクタヴィアが教えてくれた。

「結界じゃ駄目な理由はこれか?」

「だってお金にならないフロアでしょ? 小遣い稼ぎよ。小遣い稼ぎ」

「自分が食いたいだけだろ?」

「いいでしょ、チョビたちも喜んでるんだから!」

「いつの間に連れてきたんだ?」

「わたしの頭の上で小さくなってずっといたわよ。折角、水のフロアなんだから置いてきちゃ可哀相でしょ?」

 当のチョビとイチゴは氷の上で既にアローフィッシュを仲良く一尾、適当な大きさに戻って食べていた。

『ご主人、これは大変美味です。でも小骨が気になります』

 その大きさの魚の小骨はもう小骨とは言わんだろ?

「ナーナ!」

 ヘモジが不公平だと愚痴をこぼした。

「しょうがないでしょ。鋏なんだから! 氷から引っこ抜く前にちょん切っちゃうでしょ! 兄貴分なんだから頑張りなさいよ!」

 あれ程タイムラグを気にしていたナガレが、足を止めてまで回収したかったぐらいだからきっと美味しいのだろう。

 ナガレの舌も最近ようやく人の料理の味が分かるようになってきたことだしな。

 アローフィッシュは矢のように細長い魚だった。しかも鼻面は鏃のように鋭く固かった。問題はその大きさで全長で一メルテ程もあった。

「ここの魚は発育がいいわね」とナガレは笑ったが、氷に刺さった無数のでかいアローフィッシュを引き抜く作業は容易ではなかった。

 氷壁を溶かして生き残りに逃げられても困るし、作業中、重い魚に暴れられても手に負えない。

 結局、動かすのは大変なので全部凍らせて必要な部分だけ氷の塊を切り分ける作業を行なった。それを更に合わせて固めて『楽園』に放り込んだ。


 遅れを取り戻すべくナガレがしばらく舟を引っ張ることになった。

 いっそゴールまでと言ったら「一日中引っ張らせるつもりか」と怒られた。

「ナガレが全力で泳いだらすぐなんじゃないのか?」

「遭いたくない奴がいるのよ」

「へー、ナガレにも天敵がいるのか?」

「天敵じゃないわよ! ただ嫌なのよ! あんたもゾンビに抱きつかれたらどんな気持ちになるか想像してみなさいよ」

「アンデットなのか? 海に?」

 塩で浄化されてしまいそうな気もするが。

「物の例えよ! 奴はわたしのような大物を好んで狙ってくるの!」

「本に載ってる?」

「ここのボスよ」

 僕たちは『エルーダ迷宮洞窟マップ』を覗き込んだ。

「クラーケンが嫌なのか?」

「絶対嫌だから!」

「ナガレの逃げ足の方が速いんじゃないか?」

「そりゃ速いわよ。でもあいつだって遅くはないわよ。それにあいつには特技があるの。近付くまで悟らせない『隠遁』持ちなのよ。だから、端から相手にされないくらいのサイズでいた方がいいのよ」


「回収完了!」

 ざっと五十匹。調子に乗って氷壁を大きくしたのが運の尽きだった。

 全員乗船して、出発することにした。

 僕たちは帆をたたんで、元の形に収め直した。

 そして遅れを取り戻すまでナガレに頑張って貰うことにした。

 船首にある係留金具の先端にロープを縛り付けた。

 その先を大きな輪っかにしてナガレに持たせると彼女は海に飛び込んだ。

 変身して輪っかを鼻面に掛けると悠然と泳ぎ始める。

 コースに乗ると船首が白波を立てながらぐいぐいと加速して行った。

「ナーナーナ」

 ヘモジがロープと両手で握れるくらいの棒が欲しいと言い出した。

「なんに使うんだ?」

 まさか自分も引きたいなんて言うなよ。

「ナナーナ」

「内緒?」

 ヘモジは船尾の係留用の金具にロープを縛り始めた。

「後ろ?」

 ロープの先に棒を括り付けた。そして別の紐で自分のミニ盾と自分を繋いだ。

「何するんだ?」

 聞こうと思ったら、ポーンと飛び跳ねて海に飛び込んだ。

「ああ!」

 ヘモジが落ちた! と思ったらヘモジが水のなかから現れ、盾をボード代わりにして波乗りを始めた。

 ピンと張ったロープの先で波に逆らいながらボードを楽しんでいる。

「ナーナーナ!」

「『最高!』だって」

 僕の肩の上でオクタヴィアが言った。

 その内ヘモジは波の山に突っ込みながらジャンプし始めた。

 手の空いてるロメオ君が覗きに来た。

「何あれ!」

「さあ……」

「ナガレが怒ってるです!」

 リオナが叫んだ。

「過剰労働の憂さを娯楽で晴らしてるんじゃないか?」

 ヘモジが空中で宙返りを決めた。

「おおっ」

 ロメオ君とオクタヴィアが感嘆の声を上げた。

 舟が更に加速した。

 ナガレも苛ついてる。

 ヘモジはスピードに乗って滞空時間の長いジャンプをした。

「ほお、面白いことをしおる」

 アイシャさんまで出てきた。

「操縦代わってほしいのです」

 よほど頭に来たのだろう、ナガレは更に加速し、わざと海面を波立たせた。

 ヘモジは大きな波の煽りを食らって一瞬よろけるとあっという間に転んだ。

「ああッ、大丈夫か、ヘモジ!」

「ナーナーナ」

 ヘモジが鞠のように飛び跳ねた。

 お尻でぴょんぴょんと跳ねながら起き上がると素足で滑り始めた。

「ああ、盾が……」

 盾がヘモジの向こうで、波にもまれて暴れている。

 結んだ紐は決して丈夫な物ではない。

 切れたらどうするんだと僕は心配していたが、ヘモジがジャンプした。

「ナーナー」

 空高く後方宙返りを決めた。そして着地したのは盾の上だった。

「嘘……」

 あまりの出来事にアイシャさんが笑い始めた。

「リオナ代わってやろう」

 笑いながらリオナと交替しになかに入っていった。


 ナガレとヘモジの根比べの様相を呈していた。

 おかげで船は進む進む。

 ロメオ君とニヤリと笑顔を交わした。


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