エルーダ迷宮征服中(船に乗ってみた)40
「どっちに進むですか?」
「取り敢えずこのまま北に。小島が見えたら教えなさい」
ナガレがナビをするらしい。
「速度はどうやって上げるですか?」
「そのボタンを押せばいい」
「四つあるです」
「全部そうだ。二つで充分だと思うが、襲われて振り切るときは増やせばいい」
リオナは二つ目のボタンを押した。
船が徐々に加速した。
「速くなったです!」
そうだろう、そうだろう。
「追い風のようだけど、もっと速くはならないの?」
ナガレが聞いてきた。どうやらこの速度では不満らしい。
「非常用の帆があるけど?」
「その前にボタン押すのです」
船が加速した。
最大船速、追い風の帆船程の速度は出てないかな。向かい風だったらこちらに分がある。
ナガレは不満らしい。
マップ情報の示す到達時間の記述などは、恐らく岸にあった舟で横断した場合を想定したものであるから、余り速度が変わると予測ポイントがずれて迷子になることを懸念しているのである。
「帆があるなら帆を張って。余り遅いと予定が狂うから」
やはり、そう思っていたのか。
「あるけど。船傾くぞ」
「いいから早く!」
しょうがないな。そこまで言うならナガレが変身して引っ張ってくれてもいいんだけどな。
僕はそれでもさしたる不満も抱かずに外に出た。自覚していたことだし、言われてもしょうがない。
推進装置は無風状態になったときにでも真価を発揮して貰えばいいやと思い直した。
そして側面の外装に施された凹みに足を掛けて天井に上ると、天井にある固定ロックを外した。ここにも自慢のギミックが仕掛けてあるのだ。
「速度落としてくれ。ボタン二つまで」
「ナーナ」
後ろの扉からヘモジが覗いていたので、リオナに伝言を頼んだ。
「言伝よろしく」
そう言った側から減速し始めた。
「ナーナ」
『聞こえてた』とヘモジは言った。
速度が落ちたところで次の作業である。
屋根の上に設置してある長細い扉を引っ張り上げた。すると魚の背びれのような物が出てきた。
開けた扉には帆柱が固定されていて、扉に付けたヒンジで回転するようになっていた。
その扉を垂直に立てて、柱を根元に開いた穴に落とす。
帆柱を固定できたところで今度は縛りをほどいて、背びれに付いたブームになる柱を後ろに引き倒す。
背びれはブームと一体となっていて広がると三角帆になった。後は帆柱とブームの根元を繋げてやれば完成だ。
けして大きくはないがこの船を動かすには充分な帆の完成である。
帆が風に吹かれて棚引いている。
ブームにロープを掛けて、船尾にある滑車に掛け、適当なところで固定する。
「傾くぞー、舵を切れ」
僕はブームを傾けた。
帆が風をはらんで一気に膨れあがった。
急いで飛び降りて、滑車を回してロープを調整した。
船が一気に加速し傾いた。
リオナが船首を回して進行方向を修正している。
室内に戻ってリオナに推進装置を止めるように言おうとしたら既に止めていた。
僕は船倉に潜って、魔石の減り具合を確かめることにした。何分、試験航海も満足にしていないので減り具合を知りたかったのだ。
すると全員が一緒に降りてきた。
「管だらけだ」
「なんじゃこれは? また面妖な魔導具じゃな」
ロメオ君の後にアイシャさんが降りてきた。
「どうなってるですか?」
「うわっ、何これ?」
「ちょっと、操縦はどうなってるのよ!」
リオナとナガレ、ロザリアもやって来た。
「ヘモジとオクタヴィアに任せてきたのです」
ロザリアの小言にリオナが答えた。
「大丈夫、何かあったら知らせるように言っただけだから」と、ナガレがフォローする。
「これがあれなのですか?」
「この船の推進装置だ。全部で四つある。管から入ってきた水がここで熱せられて水蒸気になって、戻って吹き出すという仕組みなんだ」
「そんなんで動くの?」
ナガレが言った。
「一つ一つは小さい力だけど、まとめ上げてなんとか」
あの翌日、つまり昨日だが、僕は小舟を借りて装置を積み込み、実験と加工を繰り返した。
最適かどうかは分からないができることはやった。
圧力を上げるために火力を上げなければならなかったので、魔石を大きなサイズに替え、なおかつ釜をドーナッツ状の円筒にして、中央に魔石を納める形にした。
結果的に釜は大きくなり、それが今、目の前に並んでいるのである。
管は安定度を増すために冷やす必要が出てきたため、外に出している。
何せ魔石(大)を四つも使っているのだ、飛空艇より効率が悪い。
どうせ使い捨てだと、割り切るしかあるまい。
用が済んだら姉さんに預けて、問題なければ商会に払い下げて貰おう。
こんなことなら端から帆船にしておくんだった。
「何か来る!」
オクタヴィアが階段の上から頭を出した。
一斉に一階キャビンに戻った。
「巨大クラゲの群れよ。浮いてるだけだから問題ないわ。触手に毒があるから――」
ナガレがそこまで言ったところで、何かが水中から猛烈な勢いで浮かんでくる!
海面が見る見る盛り上がってきて、ザバーンと巨大な口が現れた。
クラゲの群れが吸い込まれるように口のなかに消えると、口は閉じられ、勢いそのままで海面に姿を現わした。
「ウツボ鮫鯨よ」
「え?」
「ウツボ?」
「鮫?」
「鯨?」
ナガレの説明にオクタヴィアとリオナと僕は首を捻った。
「人族がなんて呼んでるかなんて知らないわよ!」
「ただの『海竜』じゃ」
アイシャさんが言った。
「竜じゃないわよ!」
ナガレが言い返した。
「人族がそう呼んでおると言うただけじゃ」
同じ竜なんて呼ばれたら、ナガレ的には面白くないのだろう。
僕が『認識』スキルで覗こうとしたら、ロメオ君が『魔獣図鑑』を開いて、アイシャさんの言葉を裏打ちした。
じゃいっか、『海竜』で。
図体は鯨のようにでかく、顔はサメのように悪人面で、尾ひれはウツボのようにひたすら長いが、手足がないから、確かにナガレの言う通り、竜と呼ぶべきではないだろう。
が、本物の海の竜の目撃情報がない以上、誰も強くは否定できない。
目撃者が現れるようになれば、その内ドラゴンのように『フェイク』なんて冠が付くようになるだろう。だが、そのためにはまず生還者がいなければ始まらない。
暫定海竜であるところのウツボ鮫鯨は上昇してきた勢いのまま、身体のほとんどを宙に投げ出していた。
「波が来るわよ!」
操縦していたのはヘモジである。
ヘモジは舵を切った。
「駄目だ、帆の向きを変えないと! 推進装置を入れろ!」
僕は外に出て、急いでブームを動かした。
巨体が海面に落ちたせいで高波がやってくる。
「横波を食らうと転覆するぞ」
この船は転覆しても復元するけどね。でも転がりゃ痛い。
僕は外から後ろの扉を閉めた。
船は高波に背を向けた。
それにあわせて僕も帆の向きを変えた。
帆が風を掴まえる。
船が吸い寄せられるように波の丘に吸い寄せられていく。
「おおっ」
ぐわんと船がなんメルテもある波の山を乗り越えた。
結界を張っているので波は被ってはいないが、酔いが回りそうだ。
だが海竜は暴れることもなく、あっさりと海の底に消えていった。
「あんなのに食われたら溜まったもんじゃない」
舟は滑るように進み、小島の見える最初のポイントに差し掛かった。
「一時間遅れよ。速度上げていくわよ!」
ナガレが発破を掛ける。が、予定コースの方角を向くと風は横風となり速度は半減した。
「大丈夫だ。三角帆は横風に強い」
それに推進装置が役に立つ。
「これなら遅れを取り戻せそう」
ナガレが胸を撫で下ろした。
「お茶にしようか」
インターバルを取ることにした。
続きは年明け5日0時から。
一年間ありがとうございました。
皆さん、よいお年を。




