エルーダ迷宮征服中(船を作ってみる)39
魔法訓練所で材料をすべて吐き出すと作業を始めた。
まずは鉄を成形して船倉を作る作業からだ。
船台を先に作らなければいけないことに思い至って、また外に出て土で台座を作った。
そして作業再開。
作るのは水流で走る小型船である。ドワーフの船で見た推進器を利用する。あれ程大きな船ではないので難しくはないだろう。
要は管を巻いた釜の部分をどんな方法でもいいので熱してやると釜のなかの水が蒸気となって船尾から高速で吹き出す仕組みである。吐き出したら圧力が下がるので自然に水を吸い込んで、それがまた熱せられると吐き出しての繰り返しである。速度を出したいので釜一つに対して管の数を増やす。どうせ熱のロスがでるのでその分で管をもう一、二本熱しようというのである。三連式六本の管が外に出る構造だ。それでも速度が出なきゃ、管の数や仕組みを増やすだけだが、重い。できあがった装置が重すぎる気がする。大き過ぎたか?
いきなり作るのは無茶だったようだ。
僕は町の外を流れる川で実験することにした。
まず氷で適当な船を作った。そこに完成した装置を載せてやると当然の如く船が大きく傾いた。
ちょうどいい位置に配置し直して固定すると、氷が溶けないように釜に足を付けて空中に浮かせた。
次に長い管をセットする。釜の位置が船尾から随分手前に行ったのでその分長くする羽目になった。重量が増した。
船体の縁が溶けないように管を縁より高く配置しなけれならなかった。縁の上を通した管を水没させ、推進方向に曲げた。
これは今回だけの処置なので考慮に入れない。実物では最短距離を行く予定である。
釜の下に火の魔石を置き、火を入れた。
最初だけ釜を熱するのに僕も手を貸した。
「……」
動かない。
「そうだ、最初は釜に水を入れてやらないと」
魔法で釜のなかに水を送ってやる。
改めて点火してやる。
ボコッと管の先で音がしたと思ったら、水面が波打った。ゆっくりと船が動き始めた。
「まだまだ足りないな」
釜が暖まりにくいのかも知れない。もっと薄くするか。
魔法で形状を変えると俄然、勢いが増した。が、釜に穴が開いた!
「うわっ!」
結界を展開して水蒸気を避けながら魔石を遠ざけた。釜が冷めると今度は水がどんどん湧いて出てくるので管のなかを凍らせた。
「危なかった」
氷の船なのでそう簡単には沈みはしないが、驚いた。
あんなに水が出てくるなんて。
穴を塞いで『鉱石精製』を使って、強度を増して再始動である。
「時間さえあればミスリルで作って貰うのにな」と、後悔しきりである。
「結界がなかったらずぶ濡れだよ」
独り言が多くなってきたら、気が立っている証拠だ。
まずは落ち着こう。
深呼吸して、再開した。
今度はうまくいった。
船はゆっくり加速して行く。でもこれでは全然足りない。作るのはもっと大きな船だ。
やはりもっと大量の水蒸気を作り、もっと大きな力で吐き出さなければいけない。
ドワーフの船の機構はもっと複雑だったが、まねる時間も知識もなかった。
でも管径を大きくし過ぎると水流に乱れが生じて、入ってくる水が安定しなくなるし、釜も大きくしなければならなくなる。
取り敢えず管の数を増やす。
その場で成形し直して管の数を三倍にして、釜も大きな物にした。魔石も倍投入することにした。
「動いた!」
ゆっくり歩く程度の速さになった。
まだ遅いし、サイクルも安定しない。
どうすればいいんだ?
釜を二個にして管を増やせばいけるだろうか?
僕一人でこの程度じゃ、みんなが乗ったら動きゃしないよ。
取り敢えず現状は理解できたので、推進器は置いといて、今度は船体の形を変えることにした。まずは細くだ。幅を削ったら一気に速度が増した。
対岸に突っ込む勢いだった。
方向舵はないので、このままでは激突する。
火を遠ざけ、氷で作った艪を水面に沈めて方向を変える。
無理をしたら艪が折れた。
川の真ん中でくるくる回った。
僕の頭もくるくる回った。
「いっそ足の速い船を買ってきて改造した方がいいんじゃないだろうか? それにこのシステムを搭載しても……」
いや待てよ。船は現場にあるんだよな。
何考えてるんだ。その船が狭いだろうと言うから、今回の話になったんじゃないか!
でもこの分じゃ間に合わない。鉄の船なんて完成しない。
駄目だ。今日はもうやめよう。日も暮れそうだし諦めよう。
明日になればいいアイデアが浮かぶかも知れないし……
「…… あれ?」
僕は周囲を見渡した。
「ここどこ?」
随分下流まで流されてしまったようだ。
仕組みを回収すると、氷の船はそのままに転移結晶でその場を去った。
地下四十四階層攻略まで、残された時間はあと一日。
と言うわけで完成致しました。
四十四階層のスタート地点の水辺で、僕は新型船を披露した。
それは鉄の船だった。
「変な形なのです」
「まるで熱帯魚みたいね」
正鵠を射たり。さすがロザリア。
考案したのはまさに卵を横から押し潰したような形をした船だった。
輪切りにすると縦に細長いほぼ楕円形になる船艇だった。
喫水から上が高く、不安定に見えるが、重量のある推進装置のせいで全体の重心が低くなっているからで、却って安定度は増しているのだ。
「あの透明な窓は?」
「あれ? あれは以前、うちの中庭の池に侵入した不審者がしてたゴーグルに使われてた素材。亀の甲羅なんだけど。加工するとああなるらしくてさ。見晴らしいいでしょ? 雲母ガラスでもよかったんだけど、雲母ガラスはあそこまで曲がらないから。あの流線形のカーブ、格好いいよね。でもあれ以上材料にする亀は大きくはならないんだってさ。飛空艇の窓にいいかと思ったんだけどね」
一応、船体の周囲には歩けるだけのわずかなデッキ部分があって、そこを伝って船の後ろの扉から入ることができる。船には気密性の高い扉が付いていて、波を被ったくらいでは水は入ってこない仕組みになっていた。
因みに裏の扉にも亀の甲羅が使われている。正式名称は玻璃と言うらしい。だから亀の名前も玻璃海亀だ。
『ビアンコ商会』にはなかったので王都で扱っている店を紹介して貰った。
加工技術を持っている工房が乱獲を避けるために捕獲数を制限しているので安くならないと、そのせいで安い雲母ガラスに押されてなかなか売れないと、店の者がぼやいていた。
船体の半分から上は、操縦席以外に全員分の座席が二列並んで付いている。オクタヴィアの寝転がる座布団も完備だ。
座席は飛空艇で使っている物を『ビアンコ商会』から分けて貰った。後でこの船を見せることを条件に。
変わった形はしているが、船体の構造は至ってまともだ。
推進装置以外は問題ないだろう。そこの部分は姉さんに断りを入れて貰って、駄目なら諦めて貰う。そのときは取り外したものをということで了解して貰った。
座席の後ろにはトイレとキッチンがある。キッチンは必要ないのだが、ついね。因みに内装は土魔法で土を固めて作ってある。一体成形の鉄の卵の殻を内装が補強している感じだ。
頭の上にはロフトスペースがあって、出し入れを頻繁にするリュックなどはそこに納められるようにした。
床下は人数分のベッドを据え付ける予定だったが、眠たかったら床に直接、雑魚寝でよろしく。
そして最下層は苦労に苦労を重ねた推進装置がある。うるさいので消音結界が張ってある。
因みに操縦はシャフトを使って、操舵を捻った方に舵が切られるようになっている。舵は船尾に頑丈な物を付けた。
試験航行は一回しかしていないが、結構いい乗り心地だったので大丈夫だと思う。
船の操縦は誰でもできるので、まずリオナがやることになった。海原が広がっているだけなのでぶつける物もない。
推進装置はちゃんと完成したのか? 次回へつづく。




