夏休みは忙しい(パスカル君と夏休み)38
小一時間が経とうとしていた。が、未だに猛烈なブリザードが吹き荒れていた。
休憩にも飽きて、そろそろこちらの堪忍袋の緒が切れそうな段階に来ていた。自然現象と一緒で、数日間、吹雪なんてことも彼らにはあるのだろうが、こちらにも予定がある。
「エルネストさん」
みんながなんとかしてくれと目で訴えてくる。
「そろそろ弱ってきたのです」
リオナがでたらめをほざいた。
全然、弱ってないから!
でも仕方ない。このままでは埒が明かないからな。
「探しても見つからない相手が二匹も現れたというのは運がいいことなのかな?」と軽口を叩いて立ち上がる。
吹雪の吹き荒れるなか、大体の位置を掴むと僕は進んだ。銃の射程まで接近しなければならない。ボードはファイアーマンに預けたままだった。盾としてみんなを守っているので、ここは徒歩で嵐の中心部に向かうしかない。
霜が雪に変わる頃、ようやく姿を捉えた。一方の対戦相手は遙か先でまだ見えない。
「この辺でいいだろう」
僕は倒れた大木の影に隠れて、突風をやり過ごしながら銃を構えた。
「『魔弾』装填……」
前回同様のプロセスで簡単に仕留めた。突然敵が消えたことで、もう一つの方も静まった。
「くそ、寒いな」
急いで核の元に向かい回収した。そして急いで封をしてリュックに放り込んだ。
「あれ?」
違和感を感じた。なんだろう?
今はそれどころではない。もう一体を急いで追い掛けなければ、見失ってしまう。
雪の積もった氷の大地の上を大移動である。敵は約五百メルテ先である。
僕が戻ると、作戦会議が開かれていた。
今回の一件で、ルート変更するかどうか話し合われていた。ウィスプの戦場跡の先にあるわずかなエリアをこの際無視して、ショートカットするか意見交換がなされていた。恐らく探索対象も避難してしまって留守であろうと推察できた。あるいは既に全滅でもしているか。正直立ち寄るメリットが何もない。環境調査にしてもここまで凍っていては調べようがない。
元々遅れ気味だし、何より暖かい場所を歩きたい。
大きく迂回し、結果ショートカットする決定をパスカル君チームは下した。
事件はその夜起きた。
暗がりに耳を澄ませていると、ゴロゴロと石の転がるような音がした。
見張りをしていた僕とリオナは見張りを中断して、音の原因を探りに男子用の寝室に向かった。
原因は僕のリュックだとすぐ分かった。
僕の寝床の横ではロメオ君が音に気付かず、ぐっすり寝ていた。向こう隣のパスカル君とファイアーマンとダンテ君も気付かずスヤスヤ眠っている。
僕は恐る恐るリュックをたぐり寄せて、差し込む光のなかに引っ張り出した。そして蓋を開けてなかを覗いた。
「ああああああああああっ!」
僕は声を上げた。
全員を起こしてしまった。
ロメオ君も飛び起きた!
ドダドタと全員がやって来た。
「なんの騒ぎじゃ?」
僕とリオナはみんなにも見えるように、リュックを部屋の外に引き摺り出した。
足元にある僕のリュックの開いた口から、今また石がポロポロと転がり落ちた。
「ああああああああああっ!」
今度は全員で大合唱である。
なんとウィスプが増殖していた。核がなんと十個に増えていた。
あっ、今十一個になった。
「ど、どうすんの? これ?」
「どういうことじゃ? 封印はしておったのじゃろ?」
調べたところ、瓶の封印が四つのうち二つ剥がされていた。そして二つの瓶の中身が空になっていた。
残りの二つは振るとカラカラと音を立てた。封が施されたまま中身が詰まっていた。つまり十一個のうち、二つは回収した核ということだ。
何があったんだ?
「恐らく、増殖したんじゃろ。魔力が枯渇したことで、生存の危機を感じた此奴らは繁殖行動に出たんじゃろうな」
「でも魔力は枯渇していたんですよ。移動もできないでしょ?」
それに蓋は閉まってたはずだ。
「ゼロではなかろう? 悪さができないだけで、内包している魔力が残っておったかもしれんじゃろ」
「少々揺さぶられたからって瓶から出られるはずないんだけどな」
「チョビだと思う」
オクタヴィアが告発したのかと思ったら、隣にいるチョビの通訳をしただけだった。
クッキーが欲しくて、リュックのなかをまさぐったときに、足が引っかかって封を切ったと告白した。ただのラベルだと思ったから黙っていたと。
でもどうやって…… 蓋が……
みな考え込んだ。
「もしかして温度差のせいではないでしょうか?」
沈黙のなか、パスカル君が申し訳なさそうに発言した。
「温度差?」
「封印をしたときは凄く寒かったんですよね。生物が死に絶えるくらい。でも今は薄着になれるくらい暖かい」
「ああッ、瓶のなかの空気が膨張したのか! それで蓋が開いたんだ!」
ファイアーマンが感心した。
「待てよ、そうなると」
僕たちはまだ封の施された二つの金属瓶を眺めた。
僕は一度封印を解いた。すると見る見るうちにねじ込み式の蓋が抜けてきて、ポンと音を立てて吹っ飛んだ。
核の反応は特になかったので、改めて封印を施した。
あ、また増えた。
「ちょっと、どれが番よ?」
ナガレが原因のカップルを探し始めた。
「そのうち百個ぐらいになっちゃうんじゃないの?」
ロメオ君が欠伸する。
「こいつらの生存競争ってどうなってんだ?」
これだけ、一度に増えたら世界はウィスプだらけになるような気がしてならないのだが。
ほとんどの核は魔力溜まりに辿り着けずに終るのかもしれないな。
「どうしよ……」
依頼主の姉さんはどう言うだろう? 帰還まで後一日ある。
生まれたばかりの核でも依頼品として成立するだろうか? 分からないことづくめだ。生まれた奴らには魔力を与えてやった方がいいのか? いけないのか? このままでは干からびてしまうのではなかろうか?
「どれが番よ!」
まず全体を二つの集合に分ける。
「あ、増えた」
増えていない方の石たちをまとめて、回収用の保管箱の一つに放り込んだ。
残った集合を更に二つに。増える度に集合を小さくしていって、最後はパズルの要領で隠れたカップルを見つけ出す。カップルには取り敢えず、僕が求める数だけ子供を産んで貰って、最後は引き裂いて、それぞれを改めて瓶に閉じ込めた。ひどい話だ。
取り敢えず物騒な物は寝床から遠ざけて全員寝床に戻った。
「どういう仕組みなんだろうな? 分裂しているようでいて、大きさは変わっていなさそうだったし。それでいて単体にすると子供はできない。番じゃないと増えない…… かと言って生殖活動をしている風もない。謎だ。謎すぎる」
ちょうどいい時間なので、このままアイシャさんとオクタヴィアに見張りを交替してもらった。
僕は寝床に入ると『楽園』の扉を開けた。
こぢんまりとした書斎のサイドテーブルには既に書籍が山積みになっていた。
すべてウィスプ関連書籍だ。結構あるじゃないか、とほくほく顔で手に取っていくと、どれも童話や架空の物語で、戦闘資料は数十冊、肝心な研究資料に至ってはバインダーに収まった紙の束が二セット、バラで十数頁だけだった。しかも古代エルフ語で同一人物の手によるものだった。ひどい癖字でとても読む気になれない。
とは言え、知りたいことは知りたい。結局、辞書を片手に解読することにした。解読には数時間を要した。僕が寝たのは明かり取り用の小窓から薄ら朝日が差し込んできてからだった。
結局、研究資料に生殖に関する記述はなかった。成長段階は逸話のなかに斯くも残っているというのに。やはり核を回収しようなどという考えがどうかしているのだろうか? ほとんどが魔法発動に関するメカニズムの解析に充てられていた。専門用語や造語が多すぎてよく分からなかった。アイシャさんにも見せようと思ったのだが、身になりそうもないので『楽園』に返却した。
六百話(地図とか人物紹介とかあるので厳密にはまだですが)到達です。
これも日頃、応援して下さる皆様のおかげです。ありがとうございます。
これからも精進させて頂きます。m(_ _)m




