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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第八章 春まで待てない
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クヌムの町でお買い物

 徹夜して眠い目を擦りながら家に帰ると、ちびっ子三人組が蛙になっていた。

 朝の散歩で出かける彼らと入れ替わりである。

 寝ぼすけのオクタヴィアが早起きとは珍しい。余程着ぐるみを見せびらかしたいらしい。

 蛙が食卓について食事する姿はシュールだな。

「食事中はフードは脱ぎなさい!」

 ほら、アンジェラさんに怒られた。

 エミリーが遠巻きに壁に張り付きながら、僕に震える声で「お帰りなさいませ」と言った。

「食事はいらないよ。少し眠るから」

 僕は寝室に戻ってベッドに倒れ込んだ。

「『神薬』ね…… 妙なことになったな……」



 昼に目が覚めた。窓から差し込む光は雪に反射していつにも増して眩しかった。

「くそー、いい天気だ。午前中無駄にした」

 僕は跳ね起きると用意されていた服に着替えて食堂に降りた。

 家に残っていたのはエミリー以外ヘモジと猫だけだった。

「みんなは?」

「町に行った」

「どこの?」

「クヌムとメルセゲルの町」

「なんだ、待っててくれれば僕も行ったのに」

「ナーナ」

「そうだな、ご飯食べたら行くか?」

 猫とヘモジは頷いた。

「迷宮のなかに町ですか?」

 エミリーが皿を並べながら尋ねる。

「行ってみないと分からないんだけど。クエストの報酬で入場許可証を貰ってね」

 我が家の昼食は基本質素だが、朝食の残りも出して貰って結構豪華だ。オクタヴィアには崩したホタテの身が入ったスープが、ヘモジには野菜スティックが、パンと焼き肉とマッシュポテトが一緒に出てきた。今日の肉は香草焼きだ。いい香りがする。僕にはコーンポタージュだ。

 サエキさんが庭仕事を終えて戻って来た。

「うー、寒い」

「ご苦労様」

「わ、若様! すいません」

 いるとは思わなかったらしい。急いで奥に引っ込んでしまった。

 気にしなくていいのに。

 食事を済ませると、一応装備を整えて町を出た。


 エルーダ村は閑散としていた。みんな午後の部に突入していて表通りに人影はなかった。午前で切り上げた連中がわずかに食堂で騒いでいた。

 僕たちは地下三十二階に降りた。

 オーガたちが樽を蹴飛ばしていたので裏から入り直そうと、一旦出て三十三階から入り直した。

 転移部屋から上の階に上がると町の門扉があった。鍵は開け放たれ、門番が立っているだけだった。

 襲ってくる様子もなくすんなり町のなかに入れた。

 町の様子はすっかり様変わりしていた。

 通路に面した高い壁は取り払われ、色取り取りの商店が建ち並び、住人たちで溢れかえっていた。

 二階部分も一般家屋が建ち並んでいて、警備がたまに通り過ぎるだけだった。

「これは……」

 どうしようもなく羊頭の町だ。

「ナーナ」

 ヘモジが露天の売り物を見て物欲しそうな顔を向ける。

 覗いてみるとマンダリノが籠で売られていた。

「うちにまだいっぱいあるだろ?」

「ナー」

「味見」

 オクタヴィアもヘモジの頭の上に乗って覗き込む。

 僕は値札を見る。

「一…… エ、ピ? え?」

「一ピエトラだよ」

 見かねた店主が言った。

「一ピエトラはこれだよ」

 取り出したのは小さな四角い金属のコインだった。聞けば魔石を両替して手に入るものらしい。

 僕は魔石(小)を取り出す。

「うちじゃ両替はできないぜ。あっちだ。そこの階段を上った先にある赤い屋根が両替屋だ」

 僕は言われるまま行ってみることにした。

「ナーナ」

 両替屋は教えられた場所にあった。おかしな機械が店先にでんと置かれていた。

 先客が機械を使って何をするのか教えてくれた。

「ここに石を入れるんだ」

 機械の上にある挿入口に魔石を一つ放り込んだ。

 すると機械から小さな金属板がチャラチャラチャラと出てきた。

「これがこの町のお金だよ。大きな石は店のなかにある機械で両替な」

 先客が教えてくれたように僕は持っていた一番小さな魔石を機械に放り込んだ。

 するとチャラチャラチャラ…… 何枚だ、これ?

 二十五枚出てきた。

 土の魔石(小)は大体銀貨三枚だから、手数料を考えたら一ピエトラは大体百ルプリか。

「ナーナ」

 先ほどの店に戻って僕たちはマンダリノを買った。一籠に五つ。

 適当な段差に座り込んで僕たちはマンダリノを摘まんだ。

「ナー」

「まあまあ」

 充分美味しい。残りをリュックに仕舞い込むと見学を再開した。

「これ、これ!」

 オクタヴィアが掘り出し物を見つけた。

「なんだ? 首輪?」

「これほしい」

 それは小さなスリーウェイ鞄だった。ショルダーとリュックにもなる手の込んだ鞄だった。でも小さくて何も入らなそうだった。

 当然クッキー缶も入らない。

 でもオクタヴィアは欲しいと言った。サイズはぴったりだった。

「ナーナ!」

 自分も欲しいだと? 変身したらどうなんだよ? ミョルニルみたいに一緒に大きくなるのか? 一度でお釈迦は勘弁しろよ。

「ナー」

「買って」

 しょうがないな、もう。

 値段を見たら思ったより安かった。三十ピエトラ。でも手持ちがなかった。

 僕たちはまた両替屋に向かった。もうまとめて魔石(中)を両替することにする。

 店のなかに入って両替機を探すと、投入口が大きめの機械があった。

 僕は魔石を投入すると魔石(小)が三十個出てきた。

「あう」

 まさか魔石が出てくるとは思わなかった。

 表の両替機でまたコインに両替した。

 三十個掛ける二十五ピエトラで七万五千ルプリ。土の魔石を普通に売っても金貨一枚。十万ルプリ。魔石(中)を両替するのは割に合わないな。四分の一も安い換算だ。

「取りあえず三個ほど換金しとくか」

 ふたり分の支払いを済ませたら三十九枚残った。

 もう少し降ろしておけばよかったかな。

 ふたりはお揃いのリュックを背負ってあっちにフラフラこっちにフラフラ。

 売られている物はさほど珍しいものではなかった。だとすればわざわざ高いレートで買い物をする必要はない。

 見るべき物があるとすれば魔物用の武器だ。売られている物は皆ドロップアイテム同様、魔石で補充ができる武器ばかりだったからだ。ただ、こちらの世界同様、安くはなかった。

 もはや見るべきものがリュックを背負ったふたりの愛らしい後ろ姿だけになったとき、面白い物が目に入った。羊のチーズだ。重くて担ぐのがやっとの大きさだ。

「お土産に買っていくか」

 値段を見てカットしたもので我慢することにする。

 それから羊毛だ。大きな袋に入った原毛だ。一.五メルテ四方のでっかい袋でわずか五十ピエトラだ。

 あれでどれくらい布団作れるのかな…… 

 さすがに持ち帰れないな。あんな物担いで迷宮出たら他の冒険者に驚かれる。ただじゃ済まない。

『楽園』に放り込むしかないけど、使えるようになるまでにはあそこからまた加工しないといけないからな。専門家の意見が聞きたいところだ。相場の値段としてどうなのか。

 この分じゃ、上の階では蛇皮とか売られていそうだな。

 魔石がそのまま使えたので、小二個で買えるだけマトンとラムの肉とチーズを購入した。


 出口に差し掛かった頃、攻略時は入り口だった辺りだが、一軒の店が気になった。

 立派な店構えだが、売り物は?

 なんの店だか検討が付かない。

 店のなかを覗くと石が並んでいた。

 宝石商か?

 ショーケースに陳列してあった物はなんと魔石だった。

「いらっしゃいませ。当方では様々な魔石を扱っております。こちらの火の魔石は千ピエトラ。こちらの大物は掘り出し物でお買い得品になります」

 この町のお金である魔石が売られていて驚いた。

「あの支払いは他の属性の魔石でもいいんですか?」

「はい。当店は魔石の交換を行なう店でございますから。お好みの属性の石とお取り替えいたします」

 キターッ! 魔石交換! もういらない魔石は存在しないということだ! それに小さな石を大きな石に換えることもできる!

 凄い…… 今回のクエスト報酬…… 信じられない!

 僕は土の魔石をすべて放出して、火の魔石に換えた。感覚的にやはりマージンは四分の一だった。


 魔石の交換屋がある辺りがこの町の一番端のエリアだった。

 これで大体一通りの店を見て回ったことになる。

 最後にいい買い物ができた。

 本日はこれにて終了である。

 残念ながら、思ったより時間を食ってしまった。メルセゲルの町の訪問は日を改めることにしよう。


 開いた脱出ゲートにヘモジとオクタヴィアが飛び込んだ。

 僕はもう一度、町並みを振り返って、そして思う。


 今度来るときは荷物が持てる奴を一緒に連れてこようと。


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