表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第七章 銀色世界と籠る人たち
272/1072

神様熟睡中3

 翌朝、町の景色は見事に変わっていた。

 積雪が一面を白く変えていた。

 僕はベランダから獣人の村を見下ろすと、静寂のなかで既に雪掻きが始まっていた。

 街道の水路には温泉が流され、白い湯気が立ち込めていた。

 けぶった景色が広がっている。

 街道沿いの住人はシャベルで雪をどんどん水路に放り込んでいた。努力の甲斐あって四方に走る街道の雪は粗方片付いていた。

 急がないとユニコーンたちが来てしまう。というかここまで来られるのか?

 そう考えていたら頭のなかに声が響いてきた。

 遠くにこちらを見つめる白い馬が…… 見慣れた角がある……

「『草風』? 泊まったのか!」

『おーい。ここから出してくれー』

 温室に泊まったまではよかったが、道が塞がって出られなくなったようだ。

「今行くーッ」

 僕はベランダから叫んだ。

 着替えを済ませると僕は一階に降りた。誰もがまだ眠っている。

 僕の足音に警備がひとりビクリと飛び上がった。

「すいません、起こしちゃって。少し出てきます。外が大雪で大変なことになっているので」

 僕は挨拶もそこそこに玄関を出ようとしたら、ポーチの外扉が開かなくなっていた。

 僕は扉の取っ手を暖めて氷を溶かした。

 扉を引くと、扉の形のまま雪が膝上まで積もっていた。

「こりゃ、だめだ」

 僕は地下に降りてスノボーを取りに行く。

 護衛がふたり玄関口から外の様子を伺う。

「じゃ、ちょっと行ってきますね」

 僕はスノボーに乗るとまず村に急いだ。

 獣人の家々は木組みに布張りだから強度がない。如何せん平屋なのでほぼ家全体が雪のなかだった。凍り付く前に処理しないと面倒が増すことになる。

 僕は魔法を使って小広場に雪を溶かす場所を提供する。

 両手で抱えるほどの火球だ。住人たちはそこに雪を放り込んでいく。僕も周囲の雪を魔法で寄せていく。

 温風の波紋が村々に広がっていく。 

「若様、ここはこの辺で。これくらいでしたらお日様でなんとかなります」

 僕は次の区画に行き同じことを繰り返す。同じように火球を作り、周囲の雪を溶かすと共に、雪捨て場を提供する。

 獣人の手際のいい動きでこちらも粗方片付いた。

 次の広場に行くと既に雪が集められていて「ここにお願いします」と誘導された。

「うわぁ」

 見る見るうちに雪の山が溶けて消えていくのを子供たちが面白そうに眺めている。

 大人たちは周囲の雪を集めてきては火球のなかに放り込んでいった。


 滝壺まで来ると、ここからは少々乱暴に行くことにした。ユニコーンとは言え、子供たちである。パニックを起こさないとは限らない。そうなったら被害甚大である。

 僕は脇道に溜まった雪溜まりを魔法で温水を流し込んで一気に溶かした。あっという間に開通である。

 濡らしてから気が付いた。道が凍ったら滑りそうだと。僕は手のひらサイズの火の玉を地面に転がした。

 周囲の濡れた岩肌が見る見るうちに乾いていく。

 獣人の子供たちが追い付いてきた。興味津々で乾いた通路を見回している。

 やがて、道の向こうから『草風』を筆頭に年長者のユニコーンの姿が現れた。

「みんな無事か?」

『問題ない。腹が減ってるだけだ』

 さすがにユニコーンの食料を毎日用意することはできないが、こういう日は想定してある。籠城戦ともなると、それ相応の蓄えが必要なわけで、それに比べれば大した問題ではなかった。

 干し草、その他の備蓄は滝の裏の洞窟にあるので全員で移動する。

 道すがら獣人とユニコーンの子供たちが互いに近況報告する姿は見ていて微笑ましかった。

 辿り着いた滝壺にはすっかり氷柱が伸びていて、巨大な氷のカーテンができあがっていた。

 寒いなか裏手に回り、備蓄の一部を開放した。

 ちょうどユキジさんとリオナもやって来たので、後を任せることにした。

 僕は城壁の上までスノボーで上がると、ユニコーンと事前に決めた「問題なし」の狼煙を上げるように促した。東の空に白い狼煙が等間隔に上げられると、遠くの空に雷鳴が三度轟いた。

 どうやら、合図は届いたようだ。

 僕は『草風』に合図すると、村の上を一周して、周囲を確認してから戻った。

 ガラスの棟の正面広場まで戻ると客人が出揃っていた。

「ちょっと、あなたもリオナちゃんもどうしちゃったの? こんなに朝早く」

 母さんが白い息を吐きながらにじり寄ってきた。

「ちょうどよかった。母さんこの辺の雪をどけてくれる」

 そう言って僕はキックベースのグラウンドの雪を吹き飛ばした。

「あの何を?」

「すいません。もうすぐユニコーンの散歩の時間なので」

「ユニコーン?」

 ああ、ロザリアのやつ、両親に言ってなかったのか。コンチェッタさんが首を捻っている。

 子供たちがガヤガヤしながらやって来た。

 白馬の群れがコンチェッタさんの目のなかに入ってくる。

「はい、そこどいて」

 母さんが僕たちをどけて、広場の雪を払った。

「おはようございまーす」

『おはようございまーす』

 獣人の子供たちの声に混じって、心に直接響く声にみんな驚いた。

「今日の荷物はこっちじゃよ」

 長老のトビ爺さんがガラスの棟から出てきて言った。

 荷物は馬車を入れておく倉庫のなかに収まっていた。

 子供たちはユニコーンとわいわい言い合いながら、今日の配達品を選んでいた。

「これはなんなの?」

 すっかりコンチェッタさんはカルチャーショックを受けてしまっていた。

「さっきは助かったよ。ここ最近あんな大雪はとんとなかったからね」

 村のおばさんたちだ。

 ガラスの棟の清掃の他に、冬の間だけ朝の炊き出しをして貰っている。

「ほら、みんな、さっさと仕事しておいで、今日はトウモロコシのスープだよ。ユニコーンの好きなお芋もどっさり入れるからね」

「おー、やった」

 獣人の子供たちが喜んだ。

『やった。とろとろスープだ!』

 ユニコーンの子供たちはギャロップして喜んだ。

 ロザリアと、アイシャさんが裏口から出てきた。

「あら、みんないないと思ったら、こんなとこにいたの?」

 ふたりは炊き出しの応援である。

 荷物を積んだ一行はリオナの合図と共に町中に散開していった。

「長老、ちょっと」

「ん、どうした?」

 僕は『草風』を呼んだ。

 僕は朝の一件を話した。

「通路に吹きだまりですか…… それは困りましたね」

「城壁に当たった風が巻いてるんだと思うんだけど」

「屋根を付けるか、温泉の排水を通路に沿って流すかするのはどうだろう?」

『風は欲しい』

「では水路を。排水を下流まで引っ張りましょう。上には時期を見て防風林を植えましょうか」

「すまないな、『草風』」

『気にするな、みんな里より過ごしやすいと言ってる』

「ならいいんだが」

「それより、若。御両親たちを放っておかれてよいのですか?」

 そうだった。後は任せて、僕は両親の元に戻った。

「おい、エルネスト、そのスノボーはなんだ?」

「空をああも自由に飛べるなんて信じられん」

 親父たちがフライングボードに興味を示した。

「スノボーに飛空艇の技術を導入したんだ。この辺りは平地ばかりで冬の娯楽がないからね」

「ちょっと貸してみろ」

「父さんの足のサイズには合わないよ」

「わたしならどうだろう」

 カミールさんがバインディングを試すとちょうど収まった。

 でも、カミールさんはスノボー自体初心者だった。

「まず、足の固定は片足だけだ」

 親父が早速、コーチを買って出た。

「きょう一日、あれで潰れそうね。よかったわ」

 女房ふたりが笑いながら嫌みを言った。

 が、「我が家の女性陣は全員やってる」と言うと、「じゃあ、ちょっとやってみようかしら」ということになった。

 そして夫婦むつまじく練習を始めるのだった。みんな若いわ。

「これは売ってるのか?」という父さんの質問に、僕はすぐ隣の建物を指差した。そして父さんが僕たちに教えた我が家御用達のボード屋にも売ってると教えた。ボード自体はあそこのものだと。

 ただし、廉価版は高くは飛べないから、正規版をどうぞと言っておいた。正規版は受注生産だからどの道、今日中には間に合わないと付け加えておいた。


 家に一足先に戻ってくると、オクタヴィアが魔女の膝に抱かれていた。

 似合いすぎてびっくりした。

「母さんがいないうちに話しておくことがあるのよ。さっさとこっちに来なさいよ」

 姉さんがいやに神妙だった。

「あなたの病気のことなんだけどね」

 病気?

「魔力過多のことよ。詳しいことはこれを読みなさい」

 一冊の本をソファーの上に置いて、立ち上がった。オクタヴィアが膝の上から飛び退いた。

「北がどうなったか聞いた?」

 僕は尋ねた。

「今やってる。そのせいで領主の帰りもあと数日遅れるから。ロザリアの両親に挨拶できなくて済まないと言っておいてくれ。じゃ、留守番頼むぞ。ああ、それと」

「何?」

「わたしは地下に宮殿を作って凌いだぞ」

 一体なんのことやらさっぱりだ。

 姉さんはそそくさと玄関を出て行き、代わりに、入れ替わるようにみんなが戻ってきた。

「若様、病気?」

 オクタヴィアが肩に乗ってきてこっそり聞いてきた。

「さあ、なんのことだか」

 僕は姉さんの残した本を手に取ると自室の寝室に放り込んだ。後で読ませて貰おう。

 食堂に戻るとみんな席に着いていた。

 そんななか、オクタヴィアがぶちまけた。

「魔力過多ってなぁに?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ