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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第七章 銀色世界と籠る人たち
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エルーダ迷宮迷走中(巨大蛙編)3

 さて、滑り台で脳味噌を攪拌された日の翌日、エルーダ迷宮、二十二階層攻略に出かける。

 水の魔石(特大)のセンティコア以来である。参加者はなんとリオナだけ。ふたりきりである。

 年末も近いこともあって、皆心のなかではシーズンオフに突入していた。

 忙しいと理由を付けてサボる有様であった。

 もっとも本当の理由は分かっている。本日の相手巨大蛙(フロッガー)である。そう蛙である。

『舌には毒があり、身体は粘液に包まれ剣が通りにくい』だそうだ。

 ロメオ君は本日家事手伝いで、こちらは正真正銘の欠席だ。

 ロザリアとアイシャさんは「あのねっとりした感じが駄目なのよね」「あの顔は生理的に好かん」という理由でサボりである。もっと酷い相手と戦ってきたのに、何を今更である。ゾンビとか、ゾンビとか、ゾンビとか…… 

 オクタヴィアはどうかと言ったら、コタツとソリ遊びの方がいいらしい。

 快適な暮らしを与えすぎたか。冬は無理か。猫って暑いところの生き物なんだよな。でも、砂漠でもおっさんみたいにダウンしてたな……


 エルーダ村は混んでいた。宿は満杯で、広場には仮設テントが並んでいた。今回は純粋に宿泊できない冒険者たちのものだ。現在宿屋は増設中と言いたいところだが、雪で工事はお休みだ。

 冬場の冒険者は、基本的に暇である。

 手頃な獲物は大概冬眠してしまうし、戦闘する環境も厳しくなるので狩りがしにくくなるのである。冬眠中を襲うという狩りもあるのだが、そこまでする冒険者はこの辺りにはいない。

 この辺りでは冬の狩りは迷宮でするのが一般的だからだ。

 だからこの時期の迷宮は混雑する。

 先の一件で広く認知されてしまったエルーダ迷宮も、目下、芋洗い状態であった。

 僕は窓口のマリアさんに話し掛けた。

「こんにちは、盛況ですね」

「のんびりできないから痛し痒しよ。きょうはふたり?」

「ええ、まあ。二十二階なので」

「蛙か…… 毒対策はできてる?」

「大丈夫なのです」

「狩り場、空いてますかね?」

「水属性のエリアは人気ないから、大丈夫よ」

 そうはっきり言われるとちょっと……

「さっさと通過して二十三階に行くといいわ。鰐皮が手に入るから」

「鰐?」

「セベク」

「鰐顔はしばらくいいかな……」

「なんで?」

「こないだまでドラゴン倒してたです」

「はあ?」

 詳しい説明をしたら、また「なんでドラゴンスレイヤーが二十二階層辺りでのんびりしてるのよ!」とか言われそうなので、言葉を濁して窓口を後にした。


 セベクの皮は高級鰐皮として高値で取引されていた。丈夫な革は盾や甲冑やベルトや鞄など身近な革商品に重宝されている。

 ま、今は蛙のことだけ考えよう。

 こちらが脱出用の転移結晶を購入している間、リオナは事務所の隅っこで『認識計』に手を載せていた。

「どうだった?」

 リオナが嬉しそうな顔をしていたので聞いてみた。

「増えたです。『ソニックショット』なのです」

「『ソニックショット』?」

 それは本来弓スキルで矢を高速射出するスキルだ。貫通力、攻撃力が上がる弓使いなら誰もが欲しがる定番スキルである。それが銃でも取得できたというのは、僕の『一撃必殺』にも通じるところである。何よりリオナにとっては初めてのアクティブスキルとなる。

 つまらない蛙狩りに、目的ができた。

「よかったな」

 僕はリオナの頭をポンポンと叩いた。リオナはいつになく嬉しそう笑い、尻尾をフリフリしながら事務所を後にした。

 そういや、ふたりきりの狩りはいつ以来か……

 僕たちは手をつないだまま、転移ゲートを潜った。


 二十一階層と同じような景色が広がっていた。が、泥沼は清流になり、空は晴れていた。

 道は河川に沿って続いている。

 しばらく行くといきなりこんもりしたものが目に入る。

「発見したのです。数は一なのです」

 やるべきか悩む距離だった。道からやや外れた場所にいたのだ。

「やるか?」

 リオナは大きく頷いた。リオナは青柄の方を取り出して構える。早速試すらしい。接近してから試すわけにもいかないからな。

「『ソニックショット』!」

 小声で呟く。

 次の瞬間、遠くにあった小山の頭三分の一が消し飛んだ。

 リオナの尻尾がピンとなった! 撃った本人が口をぽかんと開けている。

 僕はリオナの魔力の減りを見た。

 よかった。スキルは魔力依存の攻撃ではなさそうだ。

 それもそうか、元々弓使いのスキルだからな……

 僕たちは獲物の亡骸を確認しに行く。

「きれいに吹っ飛んでるなぁ」

 へモジサイズの蛙の頭が消し飛んでいた。

 赤柄の方で撃ったら何も残らないんじゃないのか?

 リオナは戦果に納得いかない様子だった。

「だめだめです」

 リオナ曰く、魔石を回収するのに、欠損が大きすぎるのは美しくないらしい。

 そうは言っても、この破壊力、嬉しくないわけがない。

 耳をピンと立て、頬を赤らめ興奮気味だ。

 水の魔石(中)になったところをすくい上げてリュックに放り込んだ。


 二匹目は数匹が屯している場所にいた。どうやら巨大蛙は水辺を好むようだ。

 一匹ずつ仕留めて残りは臨機応変ということになった。

『一撃必殺』を発動する。リオナと同時に最初の一匹を仕留める。

 予想外のことが起きたのはその後だった。

 巨体が飛んだのだ。

 攻撃を免れた残りの五匹ほどが一斉に飛び跳ね、一回の跳躍で奴らの射程距離まで接近してきたのだ。

 完全に油断した。

 距離はまだあると思っていたのだ。

 咄嗟に結界を発動したが、敵の動きの方が早かった。一匹の長い舌がリオナを捕らえた。

 リオナの小さな身体が蛙の舌に巻き込まれて、口のなかに!

「リオナァ!」

『ステップ』を発動した。

 全力で舌を切断しに掛かる。

 蛙の頭が目の前で吹き飛んだ。

 リオナはちぎれた舌と一緒に地面に落っこちた。

「痛ッ!」

 とんでもないバランス感覚だ。それにあの一瞬で的確に反撃を加える反射神経。

 十歳にして既に最強クラスだ。本気でやったら爺さんはおろか、国王にも勝てるんじゃないか?

 僕はヘモジを召喚して外の蛙を相手させる。召喚獣に毒は効かないし、あの巨体は飲み込めない。その間にリオナに巻き付いた舌を剥いでいく。

「ベトベトなのです」

 粘液を洗い流し、すぐに浄化を掛ける。

「ごめん、油断した」

 リオナが頬をプーと膨らませて怒りを表す。

「毒は?」

「平気なのです」

 ドスンッという音で振り返るとヘモジが蛙の頭に重い一撃を加えたところだった。

 四体を瞬殺か…… こいつも凄くなったな。

「ナーナナー」

 お、レベルアップだ。ヘモジを一旦開放した。


「なんか見えるかー?」

「なんもなーい」

 リオナは再召喚したヘモジの肩に乗って遠くを見渡している。

 僕も一緒にと言ったら罰ゲームだと行って地面を歩かされている。

 ドラゴン戦の後で気が抜けていたのは否めない。心のなかで蛙を舐めていたのだろう。

 十歳児に怒られても文句は言えない。

 時たま頭の上で銃声が聞こえる。

 ヘモジとふたり楽しそうである。


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