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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第七章 銀色世界と籠る人たち
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スノードラゴン討伐再び4

 よし、ここだ!

 山一つ向こうにドラゴンがいる。僕は峰の向こうを覗こうと高度を上げる。

 稜線が途切れると同時にブレスが飛んできた。

 僕は回避しつつ『魔弾』を口のなかに放り込んでやった。

 ブレスはあらぬ方向にそれ、山肌を穿った後、空に消えた。

 崩れた岩肌とスターダストがドラゴンの頭上に降り注ぐ。

 この場所にいることが不利だと教えなくてはならないと思っていたが、ファーストコンタクトでいみじくも達成されたようだ。

 念のため、僕は周囲の山肌を削る。

 生き埋めになりたくなきゃ、さっさと飛びやがれ。

 ドラゴンはブレスで反撃するが、こちらの逃げ足の方が早いし、ブレスは大技なので隙もできやすい。

 僕はブレスを吐ききらないうちにぼた餅爆弾を頭上に大量に投下してやる。

 ぼた餅が炸裂するとドラゴンの白い肌に黒く焼けただれた斑点ができあがる。自分の結界がこうも容易く突破されるとは思っていなかったようだ。熱湯に足を突っ込んだように慌てて身をよじり始めた。

 さすがに効いたらしい。

 埋まりかけた身体を必至に揺らしながら這いだしてくる。

 接近させまいと闇雲にブレスを吐くが、僕は稜線に隠れて簡単にやり過ごす。

 僕は今回楽することにしている。だから無理はしない。

 目的だった船の奪還が不可能となった今、もはやこの案件は僕にとってどうでもいいものに成り果てていたのである。

 後はただ、姉さんとヴァレンティーナ様に怪我しないで戻ってきて欲しいだけだ。

「さっさと終らせて帰ろう」

 僕はようやく羽を広げて飛び立つ姿勢を見せたドラゴンに追い打ちを掛ける。

 ブレスが飛んできた。今までと違い魔力は潤沢のようだ。辺り構わず撒き散らす。

 広げた羽の下、脇腹に一箇所、大きな傷跡があった。切り裂かれたようなそれは鱗が剥がれて痛々しそうだった。

「なんだ、居心地がよくてそこにいたんじゃないのか」

 僕は乱発するブレスに巻かれたフリをして一旦距離を置く。この間に奴は飛び立つはずだ。

 案の定、巨体が宙に浮いた。

 巻き上げる風の方が問題だ。僕はそのまま距離を置いた。

 やはりドラゴンは飛んでいる姿が一番美しい。

 などと暢気なことを考えていたら、狙い澄ましたブレスが容赦なく飛んできた。

 僕は急いで高度を上げて回避する。

 味方との待ち合わせポイントを、地形を比較しながら確認する。

 どうやって追い込むか?

 誘い込んでいると分かればこいつらは絶対に裏を掻くに違いない。やはり戦闘をしながら自然を装って移動するしかない。

 僕は反撃の一撃を羽に向けて放つ。

 アイスドラゴンより鈍重だと言われるスノードラゴンであるが、回避はお手のもののようだ。

 でも如何せんアイスドラゴン相手にやり合った身としては、やはり見劣りするのである。

 僕は旋回するタイミングに合わせて、ライフルで攻撃を加える。

 速度を落とすタイミングに合わせられたら、距離を取るしかなくなり、大回りするしかなくなる。ブレスも届かなくなり、戦いは単調なものになった。

 遠距離から加速しながら接近してくる。

 射程に入るとブレスを吐いてくる。

 僕はそれを何度もギリギリで回避する。

 気をよくしたドラゴンは攻撃が有効だと判断して同じ攻撃を繰り返す。

 だが突然目の前にぼた餅がばらまかれた。アイスドラゴンにも使った手だ。減速しても間に合わない。

 アイスドラゴンはブレスを吐いて一掃したが、今度はブレスを吐かせた直後にばらまいた。 続けてブレスは吐けまい。

 案の定、スノードラゴンは爆心に飛び込んで衝撃に当てられる。

『魔弾』の直撃が奴の羽に穴を開ける。

 決して大きな穴ではないが五層の障壁を貫通する一撃だ。

 それにしても味方の姿が見えない。もうすぐ合流ポイントだというのに。

 まだ到着してないんじゃ? 嫌な考えが頭をよぎる。

 ドラゴンは魔力には敏感だ。

 第二師団の連中はこの地でドラゴンと何度も戦っている。そのためのノウハウも持っている。当然ドラゴンの魔力探知に関しても備えているはずだが。それにしても静かすぎる。

 隠れているのか? いないのか?

 雪原には足跡一つ残っていない……

 信用するしかないのか!

 僕は劣勢を脱し切れていない相手にもう一撃を入れた。飛膜にもう一つ大きな穴が空いた。

 そう思った瞬間奴は一気に羽ばたいて僕との距離を詰めた。

 さすがドラゴン、やることは一緒だな。アイスドラゴンに既に一度フェイントを噛まされている。

 僕は待ち構えていたかのように奴の口のなかに『魔弾』を放り込んでやった。

 ドラゴンは後ろに大きくのけぞり、そのまま一回転して地面に落ちた。

 いみじくも合流ポイントである。

 姉さんの雷攻撃はどうした?

 そう思ったときだ。巨大な矢が何本も落下したドラゴン目掛けて撃ち込まれた。命中するそのとき、ドラゴンの結界は消えた。

 地上を見ると、ドラゴンに肉薄する兵士が数十人。タイミングを合わせて『結界砕き』を撃ち込んだようだ。巨大な矢がドラゴンの羽を大地に縫い込んでいく。

 ドラゴンが落下のダメージから我に帰ったときには巨大標本が完成していた。

 そこに魔道士たちの落雷攻撃である。

 巨人の使う槍のようなバリスタの金属の矢を通して体内に雷が貫通する。

 ドラゴンは絶叫して、暴れ、ブレスを吐き出そうと喉袋を膨らませる。が、そこに稲妻が落ちる。

 ドラゴンの意識は刈り取られた。

 やっとお出ましか、姉さん。

 傍らにいるヴァレンティーナ様は腰に手を当てて見学である。

 やがて、精鋭たちによってドラゴンの首は切り落とされた。

 すごい。予想以上だ。手際の良さが半端ない。

 加勢する気で空中に待機していたが、意味はなかった。

 僕は雪原に降りると姉さんたちに合流した。

 将校さんが僕を抱きしめる。

「やってくれたな、少年」

 次から次へと兵士がやって来て僕の肩を叩く。握手を交わす。抱きしめ合う。

「そのボードは本採用だな」

「へ?」

「第二師団の冬装備に加えようと思ってな」

 姉さん?

「デモンストレーションは成功だ! よくやったぞ、弟よ」

 もしかして僕を待っていたって…… そういうこと?

「ただのジョークよ」

 ヴァレンティーナ様が僕の肩を叩いて、フォローしてくれるが、素直になれない。

「ほんとよ」

 ヴァレンティーナ様が笑った。

「レジーナさっきまで泣きそうな顔して空を見上げていたのよ」

 姉さんに聞こえないように呟いた。姉さんは兵士たちのなかに消えた。

「素直に喜べばいいのに」

「充分喜んでるわよ」

 僕たちは姉さんの後を追い、やって来た回収班と合流した。


 僕たちは大宴会を開いていた。

 さすがにドラゴンの肉を焼いて焼き肉とはならなかったが、盛大に酒が振る舞われた。

 僕はスノボーの扱い方をレクチャーしながら、転びまくる兵士たちを見て笑った。

 スノボーを備品にする話は姉さんのまさに照れ隠しであったが、有効な移動手段として来年度予算に組み入れようという話になっていた。空中戦までは想定しないが、斥候や連絡要員が使う道具としては有効であるらしい。

 死んでいった者たちに献杯が捧げられた。

「そういや、なんでみんなの魔力が感じられなかったんだろ?」

 姉さんはネックレスを見せた。それは僕も普段から使っている『認識』スキルを無効化する装備だった。

「強力なものは相手に対して認識障害を起こさせることができるんだ。あくまで受動的な使い方しかできないがな。でないと物騒なことになるからな」

「仕掛けてきた相手に対してだけ効果があるってこと?」

「そういうことだ」


 姉さんたちは残業があるから、もうしばらく残ると言うので、僕は復旧したゲートで先に帰ることにした。

 執事のハンニバルや、留守番をしていたエンリエッタさんも討伐完了の報を受けて喜んだ。

 エンリエッタさんに抱きつかれてしまった。

 今回の報酬はこれだけでいいかも……


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