スノードラゴン討伐再び3
お酒を垂らした紅茶を飲んでなんとか落ち着くと、三人で話の続きである。将校たちは数刻前に出ていった。
「健在なんですね?」
「そうなるわね」
スノードラゴンのことである。
「結界一つ貫通できんで手傷一つ負わせられんとは情けない」
「五層結界、健在ですか?」
「どういう意味だ?」
「先に倒したスノードラゴンは三層だったでしょ。アイスドラゴンも魔力が枯渇して結界を満足に張れなかったっていうし」
「爺さんに会ったのか?」
「お肉頂きました。ついでにここへ来る算段も」
嘘も方便だ。
「なるほどね」
ヴァレンティーナ様が呟いた。
「またお前か……」
え? ばれた? なんで?
ふたりは頭を抱えた。
「なんで爺さんが都合良くしゃしゃり出てきたのかと思えば、そうか…… お前繋がりだったのか」
なんでばれるの? なんで!
「手を出すなと言わなかったかしら?」
ヴァレンティーナ様の顔が近い。
「不可抗力ですって! 向こうから来たんだ! 姉さんがスノボー使えって言うから、練習しようと思ってナスカに飛んだら、山のなかで絡まれたんだ」
「ボードを使って戻って来いと言ったんだ」
「いきなりあんな仕掛け使えるわけないだろ! 第一、一番近いナスカの町からここまでだって、簡単に飛んで来られる距離じゃないだろ!」
「それを飛ぶのが姉弟愛でしょうが!」
「だったらそっちが迎えに来てよ!」
「できたらとっくにやってるわよ!」
なんで天才にできないことが僕にできると思う?
「ちょっと、ふたりとも。今は最後の一匹を片づける方が先でしょ」
「なんの話だっけ?」
「スノードラゴン討伐の話だ」
姉さんに鼻をひねられた。
「痛っ!」
「飛んできて欲しかったのよ」
ヴァレンティーナ様が僕に耳打ちする。
「次があればそうする」
新たな移動方法を構築した今、スノボーはないけどな。
でも最近、万能薬飲み過ぎだ。
身体が慣れてしまって、効力を失うのが怖いな。中毒になるのとどっちが早いか……
「万能薬って飲み過ぎるとどうなるのかな?」
「飲み過ぎてるわけ?」
「最近ちょっと」
「前例ないから分からないわね」
がぶ飲みしたくてもできないか、普通。
ヴァレンティーナ様が僕たちを壁に貼られた地図の前に来るよう手招きする。
「お前の薬は純度が高い。中毒は心配しなくていいだろう。でも、慣れには気を付けないとな。舐める程度なら問題ないががぶ飲みはよせ」
「了解……」
ドラゴンとの連戦、『楽園』の連発。ここ数日で大瓶一瓶は飲んでるよな。
「そうは言っても、これからもう一戦やって貰うんだけどね」
「僕も参戦するんですか?」
「『待ってた』って言ったろ?」
意外だった。出る幕はないと思っていたんだけど。
「第一師団のおかげでまずいことになってしまってね」
僕は姉さんと目を合わせた。
「奴らドラゴンを渓谷に追い詰めたらしい」
それの何がいけないんだ?
「罠にはまったとも言うわね」
罠?
そういやドラゴンは狡猾な奴だった。
「渓谷の狭い一本道に逃げ込んだフリをして、半転、ブレスで一網打尽」
「そんな馬鹿な!」
誘いだと気付きそうなもんだろ?
「やられたフリをしながら、体よく誘ったのさ」
「ブレス対策してなかったわけ?」
「してたけど想定外だった」
「敵が一枚上手だったのよ。ブレスをもう吐けないと演技までして見せたそうよ」
「ドラゴン賢いわ」
「指揮官が馬鹿なのよ」
故人に酷い言いようであるが、残念ながら同情する気にはならない。
不憫なのは付き合わされた真っ当な部下たちだ。ご冥福を祈りたい。
「僕が必要って、ブレスの盾になれってこと?」
「わたしがそんな人でなしに見えるかしら?」
僕は頭を縦に振った。
「当たり。わたしが接近するまでお願いするわ」
「ふたりだけ?」
「ほんとに一本道なのよ。飛空艇がなくなっちゃったでしょ。断崖を登って上から襲うにも、限定された足場ではまともに戦えないし。被害を最小限にするためにもふたりで行くしかないのよ」
僕が盾となり、ヴァレンティーナ様が矛となるのか?
残念ながらそれじゃ、駄目だと思う。
「ブレスが防がれたと知ったら、奴はさっさと空に帰るんじゃないかな?」
「スノードラゴンは長距離を飛べない。地上に降りたところを、第二師団精鋭で囲んで殲滅する」
魔力探知に優れているドラゴンを囲むなんてそう簡単に、できる人が横にいた。
そのために姉さんは別行動なのか。姉さんの雷撃で地上に引きずり下ろすわけだ。
「だったら僕ひとりで行くよ」
「お前また!」
「誘い出すのは僕がやるよ。ヴァレンティーナ様はみんなと一緒に討伐班に」
「できるの?」
「空から行く」
僕はスノボーを指した。
「スノボーよね?」
訝しんでヴァレンティーナ様は姉さんに確認を取る。
「『浮遊魔法陣』が仕込んであるけど、普通のスノボーだな」
それもう普通じゃないから。
「アイスドラゴンより飛ぶのがうまいようなら逃げてきますよ」
僕はボードに飛び乗り、雪原を滑る。
出撃準備をしている部隊全員が見送りだ。
僕は曲芸よろしく雪の上を跳ねた。そして一気に上昇。垂直ターンを一回決めて、みんなの惚けた顔を拝んでからドラゴンがいるという山脈を目指した。
一時間ほどして山のなかに眩しい輝きを発見する。
スノードラゴンの反応である。
僕は山の稜線を盾にしながら空を行く。




