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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第七章 銀色世界と籠る人たち
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スノードラゴン討伐4

 そうなると気になるのは「何と戦っていたのか?」ということになるわけだが。

 周囲の状況を見るとなんとなく分かってしまう。

 三匹目である。それも、厄介な方の一匹だ。

 しかも戦闘は僕が夢を見た後に起きたということになる。あるいは最中か。ブレスを吐くのを見た気がする。

「このまま仕留める!」

 姉さんが宣言する。

 嘘だろ? 

「ほっといても死ぬんじゃないの?」

「死ぬものか。春になって氷が溶ければ再生して復活だ。今のうちにとどめを刺さないと」

 戦った相手がどこかにいるかも知れないのに? 戻ってこない補償だって。

「子供たちは全員コタツのなかに入れ!」

 全員がコタツのなかに押し込められた。

「いいと言うまで出てくるなよ」

 姉さんはそう言うと耐冷術式を施した魔法陣を天板に貼り付けた。一応この船にはそれなりの対魔結界を施してあるのだが。貫通必至か。

 それぞれの装備で残りを相殺する算段だ。棟梁だけには姉さんが術式を施した。

「奴の首は後ろまで回ると思うか?」

「さあ、一周はしないと思うけど」

 旋回しながら距離を縮めるように指示が出る。

 リオナは二階の旋回窓に向かった。

 兵士たちも窓から赤い弾倉を差し込んだライフルを構える。

 僕は操縦席に向かう。

 ブレスが突然吐かれた。

 真っ白な冷気を纏った一撃だったが、この船の障壁を破るには距離が遠かったようだ。

「すごい、魔石が一気に空になった」

 ロメオ君が新しい魔石を障壁展開用のスロットにセットする。

 僕たちは余りの出来事に笑うしかなかった。

 見た目以上にあのブレスは痛そうだ。

 大概の敵はあの距離からでも葬れたんだろう。

 突然スノードラゴンが痛みに悶え、苦しみだした。

 身体をひねりすぎて凍った身体を傷つけたようだ。

 次の一撃は僕もカバーしないといけないな。

 必中モードのライフルはもう撃てる距離だ。

 曇った窓の霜を払って、外を見下ろす。

 砲撃が始まった。

 障壁貫通能力を持った特殊弾頭が次々命中する。

 ドラゴンが咆哮を上げる。

「凄いな。三連障壁だよ」

 ロメオ君が感動している。

 障壁がもう少し分厚かったら特殊弾頭も通過しなかっただろう。さすがに転移障害までは持ち合わせていないようだし。

「全開なら五連だ。負傷しているせいで全力が出せないでいるだけだ」

 姉さんが操縦席にやって来た。

「この船の障壁は使えそうだから、あんたも攻撃に参加しなさい」

「でも魔石がすぐ空になるから、長時間は持たないよ。それに魔法陣のレベルも城壁ほどではないし」

「だからわたしがここにいる」

 姉さんは魔石に手を置いた。

「障壁のことは気にせず撃ちまくりなさい」

 姉さんは万能薬の瓶をポケットから取り出して見せた。

 僕はメインデッキに戻ると窓からライフルを構えた。

 特殊弾頭が効いているのかいないのか、二発目のブレスを撃つ様子がない。

 誘っているのか。

 それとも防御で手一杯なのか?

『魔弾』を装填する。

『一撃必殺』を発動させるが、発動しない。魔力を増幅する。『千変万化』も発動する。魔力に注力する。

 すごいな、『一撃必殺』が反応する様子がまるでない。

 仕方がないので、発動しないまま撃ち込む。

 障壁三層が消失した。

 スノードラゴンの白い身体が削れたが、障壁のせいで威力は削がれ、軌道もずれた。

 もう一発!

 障壁は復活しなかった。『魔弾』は直撃した。

 咆哮が轟くとブレスの直撃を受けた。

 このタイミングでッ!

 船体が軋んで悲鳴を上げる。

「『一撃必殺』ッ!」

 今度は反応があった。

 僕はブレスのど真ん中に向けて『魔弾』を撃ち込んだ。

 断末魔と共に吹雪は四散し、景色が晴れたときには、船は大分遠くまで押し戻されていた。

 ドラゴンの首が雪原の上に落ちた。粉雪が舞った。

 子供たちがコタツから出てきて窓に貼り付いた。

「あれがドラゴン……」

「でけえ……」

「すげえ……」

 船は再接近する。

「肉なのです!」

 リオナが二階から飛び降りてきた。

 子供たちの目の色が変わった。

「肉……」

「肉?」

「肉だ!」

「ドラゴンの肉だーッ!」

「にーく、にーく、にーく、にーく……」

「うるさいわね」

 姉さんが操縦席から戻ってきた。

「好きにしなさい。残りはあとで回収するから」

 姉さんにしては寛容だ。

 リオナたちが肉の回収をしている間、僕たちは船の点検をする。

 外装の一部が凍っている。こちらの障壁を抜けた証拠だ。

 簡単に倒せそうなことを言いながら、ここまで追い込まれるとは。

 改修前の機体だったら空中分解してたかも知れない。

「軽微だったな」

「どこがだよ!」

「お前の『魔弾』もまだまだだな」

 誰と比べてるのか知らないが、十分だろ。三発だぞ。

「自分はどうなんだよ。貫通されてるじゃないか」

 凍った装甲を指した。

「この船の魔法陣が城壁以下の魔法陣なんだから、わたしの努力とは関係ないだろ? あとで飛びきりの障壁を稼働できるようにしておいてやるよ」

 何が『だからわたしはここにいる』だよ。やっぱり限界分かってんじゃねーか。

 まあ、それでも行けると踏んだんだろうけど。

 山の上では回収作業が進んでいた。子供一人一人が持てる分だけのこぢんまりとした作業だが。

 回収するだけ回収すると、アイシャさんは魔法で雪を巻き上げ、亡骸を雪で覆った。そこに目印の棒切れを立てる。


 船は飛び立つと近衛の各部隊を巡った。

 戦闘が取りあえず終結したことと、新たな敵がいることを伝えるためだ。

 バリスタの移動と共に、亡骸の回収部隊が編成された。

 これも貴重な軍資金集めのためである。ドラゴン一匹狩れば第二師団の来年の予算は潤沢なものになる。ありったけのソリと馬車が大量に用意された。

 この船もと言いたいが、この船には他にやることがあった。

 ヴァレンティーナ様が待つ、駐屯地に姉さんたちを送り届けることだ。


 訓練場のど真ん中に着陸早々、すぐさま打ち合わせが行なわれた。

 僕たちは部外者なので、コタツでミカンを食べながら指示を待つ。

 一時間もしないでヴァレンティーナ様たちがわざわざやって来た。


「船を徴発?」

「話し合いの結果、この船の有効性が証明されたのよ」

「もちろん問題が終結したら返すわ。レンタル料も払うし、壊れたら修理費も払う。他人に扱われるのは嫌でしょうけど、不測の事態なの。協力してちょうだい」

「でも――」

 僕は言いかけて止めた。

 これは軍の作戦だ。これ以上出しゃばるべきではない。これもヴァレンティーナ様が考えて出した答えだ。

 僕は大人しく町に戻ることにした。

 子供たちを抱えてこれ以上、あんな敵と戦うわけにはいかない。手負いのスノードラゴンでさえあの強さだったんだ。アイスドラゴンだったら……

 素人が勝手をしていいわけがない。ここは信じよう。

 用意して貰った木箱に肉を収納して、背負子で背負うと、全員転移ゲートで町に戻る。

 帰りがけに姉さんが言った。

「わたしの私物のなかに頼まれた物が入ってる。できあがってるから、好きに使いなさい」と。

 何を言っているのか分からなかったが、言われた通りにすることにした。

「帰ったら焼き肉パーティーだァ!」

 子供たちのテンションは最高潮だった。リオナもオクタヴィアもノリノリである。

 船の徴発の件も余り気にしていないようだ。

 棟梁が僕の肩を叩く。

「面子を立ててやることも必要だ。我慢してやれ」

 皆、好きでこんな寒い場所に駐屯しているわけじゃない。こういう有事の日のために彼らは頑張ってきたのだ。彼らには彼らの戦いがあるはずだ。

 僕はなんとか気分を切り替えようとするが、それができれば苦労しない。

 転移ゲートを潜るといつもの石橋の上に出た。

 雪が降っていた。積もるほどではないが、今夜はいつも以上に冷えることだろう。


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