スノードラゴン討伐3
翌朝、補給の済んだ船に乗り込み出航する。
本当に速くなった。もはやワイバーンは敵ではないだろう。
それにしても…… 誰だ、コタツを持ち込んだ奴は!
ご丁寧に脚まで床に固定してある。
「棟梁?」
「すまん、あの子たちにお願いされるとついな……」
そりゃ、あの子たちは誘拐されるほど可愛いけど。頼む方も頼む方だ。
「これも実験だと思って」
「どこがだよ」
搭乗の際騒ぎがあった。席取りである。戦闘がない限り基本的に暇なピノとピオトが真っ先に席に着いた。チコも座ろうとしたとき、姉のチッタは妹を叱りつけた。
チコは泣き出してしまった。ばつが悪くなったのはピノとピオトだった。結局、誰もコタツに入ることなく、それはその場にぽつんと残された。
棟梁のそのときの顔といったらなかった。
僕は往路を子供たち全員にやらせて、復路を僕たちが替わることで、堂々と休ませてやることにした。
これによって、リオナや、オクタヴィアがまず、コタツを占領した。
「子供たちは帰りの方がいいよね」と自分たちに言い含めていた。
「申し訳ないんだけど、補給後、山越えをします」
マギーさんが言った。
全員が一斉に僕を見た。残業をどちらのチームがやるのか、戦々恐々である。
当然、年上たちがやることになる。リオナとオクタヴィアが頭を垂れる。
オクタヴィアは別にいいんだけどな。
「戦闘に参加するんですか?」
ロメオ君の質問にマギーさんは首を振った。
「兵士の運搬と、偵察よ」
「運搬ですか?」
「なんだか様子がおかしいらしくてね。先行しているレジーナさんたちを乗せて前線に偵察に行って貰うことになるわ」
「おかしいって?」
「山岳側にいるドラゴンが山から下りてこないんですって」
「まさか、もう一匹と歩調を合わせているとか?」
「同じ種族となるとその可能性は大きいらしいわ」
「ドラゴンが集団行動ってのは止めて欲しい」
僕の素直な感想にマギーさんは笑った。
「正直、わたしも違和感を感じるのよね」
「遊びじゃ。猫が鼠をいたぶるようなものじゃ。たまたま通り掛かったところに第二師団の駐屯地があっただけのことじゃ」
アイシャさんの言葉にオクタヴィアがくしゃみした。
「でも同時に自信家よ。簡単に落せる相手を遠巻きにする連中じゃないわよ」
ロザリアが言った。で、何持ってる?
ロザリアの手には黄色くて丸い物が…… 持ち込んだのか…… ミカンを。
「行くしかないようじゃの」
子供たちの前にミカンが置かれた。
「二匹目が迫ってきている以上、手をこまねいているわけにはいきません」
「了解した。やるしかなさそうだ」
「て言うか一番艇は?」
僕は棟梁を見た。
「既にヴァレンティーナ様と駐屯地に入ってる」
「ヴァレンティーナ様は出ないんですか?」
「二匹目の急襲に備えているのよ」
「偵察だけなら出せばいいのに」
「この船の性能を知りたいんじゃよ。わかっとるだろ?」
この船の性能次第では一番艇もということか。決まっていることとは言え尚早だろ。
「金がないと騒ぐ癖に、結構ミーハーだよな、ヴァレンティーナ様も」
「おかげでわしらは儲かる」
棟梁が笑った。
僕たちがキャンプに辿り着くと、昨夜と打って変わって歓迎された。疲労困憊したなかでは喜ぶこともできなかったのだろう。眠って少しは楽になったようだ。
多くの者が船を物珍しそうに見上げた。
船にはユニコーンズ・フォレスト騎士団の旗と、近衛騎士団の旗が揚げられている。紋章はヴィオネッティー家だけれど。我が家の家紋は余り有名ではないので誰も気にしない。
騎士団の手を借りて、すべての補給物資を下ろすと、僕たちは出航した。
夜と違って見晴らしは最高にいい。
景色も最高だ。
狭い渓谷は無視して上空を飛ぶ。
休憩するはずだった子供たちですら、合流するまではと任務を買って出た。
それ程までに雪山の景色は美しかったのだ。
「足長大蜘蛛が凍ってる」
地上を見ると蜘蛛が凍り付いているのが見えた。どうやら冬眠しているわけではなさそうだ。
あちこちに寝ていた方が幸せだった奴らが事切れていた。
ドラゴンとはそれほどまでに圧倒的な相手なのか?
姉さんたちはどの辺にいるのかな?
マギーさんは地図で位置を示した。
「この辺りにいるはずです。ここに村がありますから。ここまでは道があるはずです」
先に行ったとしても、そこからスノードラゴンまで繋いだ直線上にいることになる。
チッタが細かい説明をしに操縦室に向かう。
「レジーナ姉ちゃん、発見!」
山の稜線にキャンプを張っていた。こちらに手を振っている。
ドラゴンを囲い込むように部隊が配置されつつあった。
「確かに山岳地帯では戦えないな」
巨大なバリスタが部隊ごとに配備されていた。
聞くところによるとあれの矢は『コートルーの疾風旅団』の姉さんたちが使っていた魔法の矢を大きくしたものだという。さらに障壁突破を即席で刻み込んだ姉さん特製の鏃らしい。銃弾と違ってあれだけでかいとやり様はいくらでもあるようだ。
一発でも命中すれば、羽一つはやれるとマギーさんは豪語する。
船は雪原に降り立った。
姉さんを始め、全員が雪の上を足を埋めることなく歩いていた。
全員魔法に長けた連中だ。もしかしてこれが魔法騎士団?
「早かったな」
姉さんが乗り込んできた。
「お、温かいな」
兵士たちが四人乗り込んできた。
「第二師団の作戦参謀補佐のベッロッキオ。この隊の隊長のデ・ガスペリと部下のふたりだ。ベッロッキオには何度か会ってるだろ?」
ラヴァルのときや祭りのときに、会話こそないが何度か顔を見ている。
「お、コタツじゃないか」
姉さんは早速コタツに入った。兵士たちにも座るように促した。
おい、公務中じゃないのか?
「出してくれ。望遠鏡で見える位置まで来たら教えてくれ」
スタッフ総取っ替えである。操縦はロメオ君に交替だ。
「あー、コタツが」
大人たちが占領しているのを見て肩を落とす子供たち。だったら働いていた方がいいと持ち場に戻っていった。
ロザリアが姉さんたちにお茶とクッキーを出した。
一瞬、自分のクッキー缶を心配したオクタヴィアだったが、無事だと分かってほっと胸を撫で下ろした。
それからしばし、目的の山岳地帯を散策する。
魔法に敏感なドラゴン相手に探知スキルは使えない。
獣人の耳と鼻が頼りだ。
「見つけた」
遠くに点のように小さい物が見えた。相変わらずの高性能である。
望遠鏡でも小さくてよく分からなかった。
姉さんがのっそり起きてきて窓の外を見る。
「もう半分接近しても大丈夫だ」
「それはドラゴンが鈍感ということ?」
「逃げおおせられるということだ。アイスドラゴンだとこうはいかない」
そこで僕たちが見たものは意外な景色だった。
凍ってる…… 雪というより辺り一面が凍っているのである。
望遠鏡を覗いていた姉さんが言葉を失った。
そこにいたのは半身を氷付けにされたスノードラゴンだったのだ。
「道理で移動しないわけだ」




