スノードラゴン討伐改め、アイスドラゴン討伐1
「スノボー?」
姉さんが言っていたものは、スノボーだった。
これでどうしろと?
まさか東の果てまでこれで行けと?
「何か仕掛けがあるのか?」
雪がない以上ここでは試せない。雪がある場所まで行かなければならないが、そのためには峠を越えなければならない。
もしかして…… 僕はその場でボードに乗ってみた。そして魔力を加えた。
いきなりボードが浮いた。
「うわっ!」
僕は転んだ。いきなりボードが垂直方向に浮いたのだ。
「何これ? 推進用に『浮遊術式』を仕込んで貰ったはずなのに」
これじゃ、滑るんじゃなくて…… 浮かぶだよ。
そりゃ、元々浮かせるための術式だけど。
姉さん、もしかしてスノボー知らないんじゃないのか?
取りあえず明日こっそり練習してみよう。
食堂に戻ると既に肉取り合戦が始まっていた。
「あー、それわたしが焼いたの!」
チッタがピノに抗議する。
「別にいいじゃんか、どれでも」
ピノは気にすることなく口に放り込む。
「もぐもぐ」
ピノの前に置かれていた肉をピオトがとる。
「あーッ!」
「何よ?」
チッタがにらみ返す。
「なんでもない」
自業自得だな。ナイスだピオト。
「お姉ちゃん早く取って」
「今入れたげる」
チッタがチコの分を皿に載せる。チコは嬉しそうに笑顔を返す。
テトは早いペースで肉を焼いていく。隙間が空いていたら肉を置いていくタイプだ。これも性格だ。テトは自分の焼いた分は自分で消化するのが基本で、他人の肉には手を付けない。それでいて他人に取られても何も言わず、空いた場所に次の一枚を置いていく。
一方ピノは自分では焼かない。取るばかりだ。面白いことに誰かしらピノの前に肉を置いていく。自分の肉を取られて怒ったチッタでさえ、なぜか一番大きな肉はピノに与えるのだ。そして次に大きい肉を妹に、一番小さい物を自分が取る。なんというか、お姉さんである。ただし、ルール無用の介入は許さないらしい。
ピオトは基本的にテトの焼いた肉を食べる。肉皿に手が届かない位置にいるからだが、チッタの焼く方には余り手を出さない。暗黙の了解だろう。ピノの世話はチッタが、ピオトの世話はテトが引き受けているようだ。不文律を乱すと、先ほどのような諍いになるようだ。
そうは言ってもピノもピオトも自分が食べたい肉を誰も焼いてくれなければ自分で焼くし、チコには皆甘すぎるほどやさしい。
一方大人たちはというと、アンジェラさんとアイシャさん、それと爺さんは酒をお供にスローペースだ。
アンジェラさんは息子の様子を見に行く度に、お酒のお代わりを持って戻ってくる。
因みにこの三人の肉は必ず残るのでいつも子供たちは狙っている。
もう一角にはリオナたちがいる。ロザリアとエミリーだ。今日はそこにロメオ君がいる。ここは基本的に和気藹々としている。肉にこだわっているのはひとりしかいないからだ。自分の分を囲ったら、残りはお好きなようにとロザリアもエミリーも思っているのだ。
まさにリオナ天国である。
さて、猫はどこにいるかというと、最近専らリオナと一緒である。理由はリオナの横に僕が座るからである。
飼い主は最近、放任主義に宗旨替えしたようで、酒を飲むときは相棒の面倒を他の連中に任せるようになった。
難しい話に興じることもできず、オクタヴィアは流れ流れて今の位置に定まったのである。
エミリーはオクタヴィア専用に肉を小さく切ってやり、僕はオクタヴィアの皿に焼けた肉を乗せていく。熱いと食べられないので、冷ます時間も考慮しなければならない。
リオナは肉があれば楽しそうだし、それに吊られて、ロザリアもロメオ君も楽しそうにしている。
僕の分の肉はエミリーが焼いてくれる。同席できないときは仕方がないが、同席しているときはいつもそうだ。使用人としてというより、リオナが何もしないので世話焼きが高じているのだ。
最初に皿の肉がなくなったのは子供たちだった。
アンジェラさんの所から、皿が回される。するとどういうわけか、リオナとオクタヴィアのペースが上がる。が、結局最後、大きなお腹を出して転がるのはこのふたりだ。
問題は一人一人の食べた量なのだが、ふたりはそれをテーブル単位で考えるから、こうなるのである。
いつも通りの展開である。
子供たちは満足して家路に就いた。途中まで爺さんの護衛付きだ。
爺さんも離れに戻って、ほろ酔い心地で今日一日を終えるだろう。
ロメオ君も家族の分の肉を持って、家路に就いた。
ちらついていた雪も上がった。
明日、どうしたものか。
暖房器に火を入れて、僕は眠りに就いた。
翌朝、澄み渡る青い空が広がっていた。
リオナは朝の散歩に出かけ、僕は朝食を取るとスノボーを抱えて外出した。
きのうの東の様子を見た限り、ナスカの町なら雪はありそうだった。
僕はナスカに飛んだ。
思った通り、一面銀世界だった。
対ドラゴン用のバリスタが無骨な石の城壁の上で雪を被っていた。
僕は周囲を見渡し手頃な山の傾斜を探す。
一見する限り、ヴィオネッティーほど滑れそうな地形はなさそうだった。
どの山も勾配がありすぎる。
それでも何とかなりそうな場所に当たりを付けると、魔法に物を言わせて山登りである。かんじきを履かなくても雪に沈むことはない。てくてくとひたすら歩く。
雪質は悪くない。
これで晴れていたら最高なのだが、生憎、こちらは低い雲が空を覆っている。
ライフルは邪魔なので本日は短銃である。咄嗟のときの護身用に弾を込めておく。
小山の頂に登ると僕はボードを下ろす。バインディングにブーツを固定する。
まずは普通に滑る。
「ひゃほー」
森のなかの比較的開けた緩やかな傾斜にシュプールを描く。
おおっ、久しぶりだけど結構滑れるもんだ。
速度は推して知るべしだが、やっぱり楽しい。
ヴィオネッティーに雪が降ったらみんなで遊びに行こうかな。
段々昔の感覚が戻ってきた。
エッジの切り替えも我ながらスムーズだ。
そろそろ試してみようかな。
傾斜がほぼない場所に来ると僕は足元に魔力を注いだ。
この雪質なら転んでも怪我はない。そう思えたのは一瞬だった。
僕は飛んだ。
信じられない高さまで。
「ちょッ!」
エッジが利いている感じはないが、反発する感覚はあった。
僕は空中で一回転して逆さまになる。
身を縮めてなんとかもう半転回りきろうと思うが、回りきれずに頭から雪に突っ込んだ。
咄嗟に結界を張って衝撃を緩める。
バフッ。
「なんだこりゃ?」
おかしさが込み上げてくる。
それからの僕は結構面白い体験をすることになる。




