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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第六章 エルーダ迷宮狂想曲
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エルーダ迷宮狂想曲35

 全員、全弾撃ち込んだ。

 が、片腕を盾にされて、凌がれてしまった。

 空になった薬室に『魔弾』を装填している間に、リオナが片腕を切り落としにかかった。

 足掻けば足掻くほど沈み込んでいくゴーレムの背中を蹴り飛ばして三角飛び、空中で一回転しながら刃を立てる。障壁ではなく単に硬いだけなのでリオナの双剣銃の障壁貫通は役に立たない。

「むう!」

 戻って来たリオナは弾倉を換装して再出撃、今度は近距離から通常弾を撃ち込む。結果は最初と同じである。

 再び戻ってくると弾倉を交換しながら為す術なく睨んでいる。

 ゴーレムは穴から脱しようと必死に足掻く。周囲に砂を跳ね上げながら暴れているが、周囲の砂が崩れてきてなおさら足元を締め付ける。

 ロメオ君が爆炎を炸裂させる。この相手に通常弾では無理だと見切りを付けて本領を発揮する。

 熱せられたゴーレムがどんどん赤みを帯びてくる。

 そこへ僕が水流で冷水を浴びせかける。ジュージューと音を立てて水蒸気がゴーレムの身体から立ち上る。

 表面に細かいひびが入る。

 ゴーレムが身を捻る度に表面がボロボロ崩れて、痩せ細っていく。自重に耐えきれずに更に大きな亀裂が生まれる。

「核は頭だ」

 僕の『一撃必殺』が反応する。が、今回はリオナに任せる

 リオナが弾丸をぶちまける。

 先ほどとは違ってボロボロと崩れ落ちる。

 指が落ち、肘が砕けて、残った腕も粉砕された。

「誰だよ、苦労するって言った奴は」

 リオナは背中を駆け上がり、後頭部まで上り詰めた。

 頭を吹き飛ばした。

 勝負あった。ゴーレムは活動を止めた。

 だが、ここで僕たちは驚愕する。なんと破壊した腕が既に再生しかけていたのである。

「まさか、そういうこと?」

 ロメオ君が一人納得したように頷いた。

 サンドゴーレムは再生能力があったらしい。

『魔物図鑑』にはその指摘はなかったので、恐らくこのフロアー限定なのだろう。

 マップ情報にも『しぶとい』としかなかったが、恐らく魔力が尽きるまで再生を繰り返していたためだと思われる。


 普通ゴーレムから魔石は取れない。

 それは核を破壊することがゴーレムを倒す一番手っ取り早い手段だからだ。

 核を失った遺骸は、収穫目的で中心部位を取り除いた収穫物と同じ判定になる。

 それはサンドゴーレムでも同じはずなのだが、魔石を回収する冒険者が多いのである。マップ情報にも土の魔石(大)が取れると記述がある。

 だが、魔石を得ようと核を破壊しない方法でゴーレムを戦闘不能に追い込むのは、実は相当面倒なことなのだ。

 何せ首を刎ねても止まらないのがゴーレムだ。核さえ無事なら、ひたすら動き続けるのである。

 だから大抵切り刻むことになる。そして魔力をそぎ落としていき、最終的に魔力を枯渇させて息の根を止めるのである。

 でもそうなると魔石を取り出しても屑石にしかならないのが常識である。


 サンドゴーレムに関する結論。

 核を破壊するより、魔力切れによる崩壊を待つのが一般的な狩り方であったと考えられる。

 巨大な図体のために核まで攻撃が届かず、再生を繰り返すことによる魔力消費を狙った方が結果的に早かったのだろう。身体本体もほぼそのまま残るので、魔石も大になることが多かったと推察できる。


 ロメオ君の長い講釈の間に、ゴーレムの身体をチェックする。取りあえず分離と精製を繰り返す。練習だと思えば苦にならないが、成果はあがらなかった。全くもって無駄骨であった。全身ただの砂岩であった。剣を磨く砥石にしてやろうか。

 どっと疲れた。

 僕たちはオアシスに移動して昼食にすることにした。

 無人のテントのなかに荷物を置き、腰を落ち着けた。

 収穫ゼロとは此は如何に……

 残り半分もあるかと思うと気が重い。

 リオナは荷物のなかから誰よりもでかい弁当箱を取り出すと、蓋を開けた。

 焼き肉がごっそり入った肉炒め弁当をぱくついた。

「美味しいのです」

 相変わらず幸せそうに食べる。

 一番幼いリオナが元気にしてるのに、こっちが落ち込んでどうする。

 出口までには後一匹ぐらい遭遇できるだろ。

 オアシスの池から吹き込む涼しい風が心地よかった。

 動きたくない衝動に駆られる。でも日が暮れてしまうと今度は寒くていられなくなる。

 長めの仮眠を取ると僕たちはオアシスをあとにする。


 余りのイベントのなさに口数も減り、歩みも遅くなった。

 太陽は益々強くなり、僕たちの身も心も焼いた。

 脱出用の転移結晶を何度も使おうと思った。

 でもリオナもロメオ君もへこたれない。

 リオナに万能薬を渡された。

 一瞬なんだろうと思ったら、どうやら僕が魔力を使いすぎて、無理しているのが分かったらしい。

 僕は万能薬を飲み干した。

 溜め息が出るほど、五臓六腑に染み渡った。

 なるほど、意識がしっかりしてくる。

 砂丘をいくつも越えて、何回かの休憩を挟んで、また歩く。

 そして念願のゴールがようやく見えてきた。

 僕たちの歩みも早く、もう敵のことなどどうでもよくなっていた。

 この砂漠を出られること以上の報酬は今の僕たちにはなかった。

 そんなときに限ってやって来るのは砂嵐。

「来たのです」

「もうスルーでいいよね」

「そうだな」

 僕たちは塹壕を掘って身を潜めた。

「任せたのです」

 リオナもすっかりやる気が失せていた。

 ロメオ君もごめんという顔をする。

 砂嵐の襲来をやり過ごし、サンドゴーレムが現れた。

『魔弾』装填で『一撃必殺』を発動させる。核の位置は大旨一戦目で把握している。

 僕は一撃を放った。

 ゴーレムはあっという間に事切れて、砂漠に倒れ込んだ。不自然に身体が砕ける。

 すると砕けたところから、見たことのある輝きが……

「金なのです!」

 リオナが飛び跳ねた。

「やった。やった!」

 ロメオ君も相当鬱積していたのか、ここぞとばかりに弾けた。

「まさかね」

 さすがに全身金などということはなかった。取れたのはリュックに収るぐらいの塊が五つだ。僕たちは、修道院に転送した。サンドゴーレムから金が取れることは既知のことなので、今回は堂々と送りつけた。


 三十億ルプリ、金貨三万枚の収入であった。修道院の取り分や税金を差し引くと約一万九千枚。一人頭、六千三百枚になった。


 出口に辿り着くと僕たちは一目散で外に出た。

 大金はそれなりに嬉しかったが、それより涼しい空気と固い地面の方が有り難かった。


 家に戻るとアイシャさんとロザリアが悔しそうな顔をする。

「明日狩りに行かない?」という言葉に、僕たちは口を揃えて「二度と行かない」と返した。


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