エルーダ迷宮狂想曲34
がむしゃらに進んでも暑くてやってられないので、今日は切り上げることにした。
家に帰ると、似たような理由でリオナたちも先に帰って来ていた。
「どうだった?」
居間でだれている女性陣に尋ねた。
「ハズレだったです」
リオナがソファーでクッションを抱えながら答えた。
「尾行が多くて、婿養子部屋にも行けませんでした」
ロザリアが不愉快そうに言った。
「しばらく、あのフロアーはお預けじゃな」
アイシャさんも怠そうに答えた。
「エルリンは何してたですか?」
「ヘモジクエスト」
「ヘモジクエスト?」
僕は世にも珍しい召喚カードをゲットした経緯を説明した。
女たちはただ呆然としながら、ヘモジカードを手に取り見つめた。
「ずるいのです。エルリンばっかり! ヘモジ欲しいのです」
魔力的にそもそもリオナには無理なのだが、ごねるので道場の地下で召喚して見せた。
「…… いらないのです。弱そうなのです」
催促しておいてひどい言い草である。
「これから成長するんだよ」
リアルサイズになってから、欲しくなっても知らんからな。
「それで明日、砂漠なんだけど」
「わたしたちはパス。日焼けしたくないので」
えー? そんな理由で?
ロザリアとアイシャさんが速攻パスした。
「リオナは?」
「行くのです」
「オクタヴィアは?」
「お留守番。黒猫太陽苦手」
黒いから熱吸収しそうだもんな。それに砂に埋まりそうだし。
「ロメオ君は行くかな?」
本人に聞かないと分からないと言われた。
どの道砂漠攻略の準備と短銃購入で広場に行くから、そのときギルドに顔を出すことにする。
砂漠攻略は魔法があれば別に難しくない。ただ、砂地を歩くのが億劫なだけだ。
マップ情報によると二十階層は一面砂しかないらしい。マップの中央に小さなオアシスがあるのみである。そこに井戸と休憩用のテントがあるらしい。
入り口はマップ最南端の岬、出口は北の端である。見るからに長丁場である。
実際の砂漠と違って、蠍や巨大砂虫はいないので、余計な心配は無用なのだが、その分超巨大なサンドゴーレムとストーンゴーレムが徘徊している。
ストーンゴーレムは他のゴーレム同様相変わらず屑金属しか落とさないが、サンドゴーレムは当たるとでかいらしい。主に金、銀、各種宝石の原石が出るようだ。魔石も普通に大が出る。
ただし相当厄介な相手で、倒すのは苦労するようだ。このゴーレム、石人形の癖に常時、砂嵐を纏っている。接近すると砂ヤスリでガリガリ鎧を削られるらしい。
僕の結界がどこまで役に立つか分からないが、恐らく地下に塹壕を掘れば、砂嵐はやり過ごせそうな気がする。
サンドゴーレムに一撃を与えると嵐は止むらしい。サンドゴーレム自体普通のゴーレムの倍の大きさがあるが、強度は他のゴーレムと大差はないようだ。
町に出ると実際、ミコーレの砂漠が隣接しているので、砂漠用の一式はすぐに揃った。装備は元々耐熱効果があるので購入しなかったが、口を覆う布と色の付いたゴーグルだけは購入した。
結界があれば照り返しを防ぐためのゴーグル以外要らなさそうだが、念のため。
銃砲店に行くと短銃を物色する。手持ちのライフル並みの強度が欲しいと言ったら、高い銃を奥から出してきた。黒光りする見たことのある材質で銃身ができていた。金細工がこれまた渋い。ドワーフ村のゴリアテ工房製だ。僕は即決で購入した。金貨一千枚。お小遣いの上限があるので十回分割で購入した。代わりにライフルを整備に出して、標準十発弾倉やホルスターなど小物を揃えて店を出た。
ロメオ君の所に行くと、明日もちろん参加するという話になった。
地下二十階はなんにもなかった。ただ一面焼けた砂だらけだ。
砂紋を踏みしめながら僕たちは出口を目指す。
一応コンパスは持ってきたが、オアシスの水の匂いを既にリオナは嗅ぎ取っていた。
天候は穏やかで見晴らしがよかった。起伏もほぼ平らでまだ遠方を見渡せた。
「ストーンゴーレムだ」
ロメオ君が望遠鏡で位置を確かめる。もちろん雑魚はこの際スルーである。
向こうから来てくれるならまだしもお出迎えには行く気はない。
僕は結界を張りながら、冷風モードである。砂漠に不似合いな涼しい風が僕たちを取り囲む。
直射日光だけでも十分熱かった。
氷を口に含みながら僕たちは進む。
砂山の起伏が激しくなり、次第に尾根伝いを進むようになる。
途中砂で壁を作り、日陰を作って休憩を取る。
全員が最初の休憩でぐったりしている。砂原の行進はやはりきつかったのである。万能薬を飲んで心も体もリフレッシュする。
万能薬様々である。
塩分と水分を補給すると僕たちは歩みを再開した。
大きな谷間が現れた。
一度下りてまた上るのか。
僕たちは砂山を下りた。そして坂を上ろうとしたそのとき、砂のなかからストーンゴーレムが現れた。
「なっ!」
全員が銃をぶっ放した。
あっという間に蜂の巣にした。
魔石に変わるまで一服して、そして坂を上り始めた。土の魔石(中)だった。無理してここで集めるものじゃないと判断、以後魔石もスルーすることに。
砂山を乗り越えると視界にオアシスが入ってくる。森の緑が眩しい。
「やっとここまで来たか」
「砂嵐なのです!」
リオナが叫んだ。指差す方を見ると真っ青な空がそこだけ砂塵でぼやけていた。
「まだ距離はある」
あれがサンドゴーレムが作り出した砂嵐とは限らない。
僕たちは取りあえずオアシスを目指すことにする。
後一歩という所で砂嵐がやって来た。
「仕方がない。穴掘るか」
といっても落とし穴をいくつか掘って自分たちが収るだけだが。
やがて空が真っ暗になると、風が吹き出した。遅れて舞い上がった砂が襲って来る。
「うわっ!」
結界がなかったら大変なことになっていた。僕たち三人は身を寄せ合った。
第一波が通り過ぎたと思われたとき、ズン! ズン! 鈍重な地響きが伝わってきた。
「サンドゴーレムだ!」
僕たちは塹壕から首を出して周囲を見渡す。
「青空がどこにもない」
ロメオ君が呟いた。まるで砂漠全体が日陰に入ったようだった。
「いたです!」
ズン! ズン! 僕たちの横を巨大な山が大股で通り過ぎようとしていた。
僕たちは全員顔を見合わせ、頷いた。
「行くよ!」
僕は巨大なゴーレムの足元に落とし穴を作った。
ズズーン!
ゴーレムが両足を砂に呑まれて身動きが取れなくなった。
僕は新しい銃の銃口をゴーレムに向けた。




