エルーダ迷宮狂想曲36
翌朝、リオナが朝練に参加していた。
爺さんはゴーレムの刻み方を教えてくれというリオナに困っていた。
そもそも爺さんは無理せず使える物を使えという主義だ。切れないものを無理して切るより、切れるもので対処した方が優位性が保てる。リオナもそれは分かっているのだろうが、昨日歯が立たなかったことが、どうにも悔しいのだろう。
元々リオナの欠点は、特殊弾頭で補う予定だったのだ。貫通弾も元はと言えばリオナのために作ったものだ。それが随時許可制になった時点で補う手段を用意しておくべきだった。
「リオナ、ドロップアイテムを漁りに行くぞ」
僕は最後の選択肢を探ることにした。使用者の魔力を必要としない武器はもう充填型のドロップアイテムしかないと結論づけた。ただ、迷宮ドロップ品の性能がいいものは恐ろしく高価な物になる。
僕は貯金の切り崩しのため、保護者のヴァレンティーナ様にお伺いを立てに屋敷に出向いた。
すると宝物庫に最近手に入れたばかりの剣があると案内された。
それはきれいなミスリル製の剣だった。
「これがドロップ品?」
「詳しくは聞いてないんだけど、長年埃を被っていた物らしいわよ」
見るからに細い。リオナの手には合わない気がする。
「硬い装甲を切り裂くためならちょうどいいわ。軽いから予備に携えていても気にならないでしょ」
名は『霞の剣』、『近接二百五十。魔法付与、魔法攻撃力プラス四百。魔力消費、十。魔力貯蔵量、三百。魔力残量、ゼロ』の一品だ。ドロップ品では最高クラスの剣らしい。
魔石の消費も『嫌がらせの剣』とは桁違いだ。貯蔵量三百と言ったら、十倍だ。さすがに魔石(小)以上が必要だろう。
使わないときはリュックに差せるようにしておいた。リオナの身長では腰に差すと地面を擦ってしまうから。専用の鞘とベルトも新調して帰った。
リオナは早速エルーダに行く準備を始めた。リュックの底に追いやられていた魔石を堀り返して、確認し、さらに数個魔石を追加した。
十六階層のゴーレムとガーゴイルをお薦めしておいた。
ロザリアとアイシャさんは一日遅れで砂漠攻略に出かけた。恐らく今頃後悔していることだろう。オクタヴィアが焼き猫にでもなって戻ってこないか心配である。
僕も迷宮に出かける。ヘモジの教育をしておくことにしたのだ。小さな迷宮では使えなくなるが、砂漠のようなケースでは荷物持ちやそりを引かせたりもできそうだからだ。
今後のことを考えると是非強くなっておいて貰いたいものである。
こちらの狩り場は地下四階、スケルトン先生のいるフロアーだ。スケルトンなら打撃系の攻撃に弱いし、体力も少なめで面倒な特性もない。
そこでまずレベル二十ぐらいまで上げることにする。
後は図体がどこまで大きくなるかにもよるが、それは昼飯のときにでも決めるとしよう。
リオナとやって来たエルーダでは騒ぎが起きていた。
それは昨日僕たちが持ち込んだ金塊によるものだった。
金塊が手に入るフロアーは地下二十階層、サンドゴーレムであると、情報が飛び交っていた。
何を今更と思いながら、迷宮の入り口を目指した。
転移ゲートの前にはいつも以上の列ができあがっていた。
僕たちはそれぞれのフロアーに別れた。
「ヘモジ召喚!」
ヘモジが現れた。
「ナー」
緊張感のない声である。
スケルトンを見つけると僕は凍らせ、とどめをヘモジに任せた。
ヘモジはハンマーを振り上げると豪快に頭を叩き潰した。
スケルトンはあっという間に粉々になった。アイテムを回収すると次に向かった。
スケルトンナイト発見、僕が速攻で剣と盾を抑える。ヘモジが後方から接近、ハンマーアタック。跳躍してハンマーを頭目掛けて振り下ろす。豪快な一撃。粉々である。
ソーサラーがいた。ヘモジが突っ込んで直撃を受けた。痛そうである。僕は追い付くと結界を張る。
「コラ、勝手に行くな。リオナか、お前は!」
ヘモジのハンマーシュートでソーサラが沈んだ。レベル差が十以上もあるのに破壊力は圧倒的だった。
カードが輝いた。
「ナーナナー」
「はいよ。再召喚」
ヘモジレベル十一にアップである。
レベル十五を超えた辺りから、成長が頭打ちになった。
予定より早いが、狩り場を変えることにする。
十七階層アースジャイアント、香木のフロアーにやって来た。このフロアーには先客がいるので、ヘモジを隠して進む。
誰もいないことを確認してヘモジを召喚する。巨人はヘモジには少々厄介である。僕はまず先行して、武器を取り上げる。足の腱を切り裂き身動きができないようにしてからヘモジアタックである。ハンマーで膝を砕き、倒れたところでとどめの一撃である。
ううむ、トロールとは思えない俊敏さ。
カードが光った。さすがにレベルが十も違うと成長も早いようだ。
ヘモジが段々大きくなっていく。
目標のレベル二十になったとき、ヘモジは僕の背の一・五倍ほどになっていた。三メルテ程のアースジャイアントとも互角に渡り合えるようになっていた。ただし本来のトロールの大きさに比べればまだまだである。
武器も段々豪華に進化していく。ハンマーも身体に合わせて大きくなり、突起が付いて凶暴性が増していく。
鳴き方は相変わらず「ナー」であったが、段々可愛らしい声からしわがれ声になってきた。その分魔法の消費も大きくなってきたが、まだまだ余裕である。
昼になったので外に出た。食堂は一杯だった。
金塊目的の新参者で店のなかも外も大騒ぎだった。
砂漠用の装備もせずに飛び込み、干上がって逃げ帰ってくる者。サンドゴーレムの姿すら拝めず装備一式傷だらけにして敗走してくる者等々。
儲かっているのは転移ゲートで二十階層への案内をする、寺銭稼ぎの小者たちだけである。
攻略困難な状況も手伝って、噂は真実味を増し、食堂のなかでは話がさらに膨らんでいた。
リオナが少し遅れてやって来たので相席した。
「あいつら馬鹿だったのです」
ゴーレムとガーゴイルのことである。
リオナたちが硬いだけで実入りがないからと、僕の話を聞いただけでスルーしたフロアーだということを思い出した。
「ガーゴイル落っこちてきたか?」
「勝手に死んだです。着地失敗して羽根とか脚とかもげたです」
食事を済ませると僕たちは十八階層の岩蟹取りに向かった。
僕は結界を張るだけ。リオナが今までの鬱憤を晴らすかのようにさくさく切断していく。
他のパーティーが多いのでヘモジは自宅待機である。
岩蟹を猛烈な勢いで狩り尽くす。十五匹ほど狩り取って、脚を売りさばき、ギルドポイントを稼いでおく。
修道院にお裾分けに行ったついでにロザリアたちの帰りを待たせて貰った。
できあがったばかりのだだっ広い物品倉庫に金塊がぽつねんと転がっていた。名札を確認するとアイシャさんのサインがあった。
どうやらうまくいったようだ。
夕刻になるとロザリアとアイシャさんがやって来て、獲物の精算を行なった。
本人たち曰く、「ゲートクリアーは必要なかったから気楽なもんだったわ」だそうだ。
ひたすら砂嵐を追いかけていたらしい。
宝石の原石を二つほどさらに追加していた。
ロザリアとアイシャさんが金塊と宝石の原石を持ち帰ってきたことは、あっという間に知れ渡った。ギルドがわざと名前だけ伏せてリークしたのである。
さらに火に油が注がれた。
「みんなのおかげよ」
マリアさんはホクホク顔である。
「現物の威力は計り知れないわね」と事務所に置かれた金塊を注視する。
昨日、僕たちが売り払ったリュックサイズの金塊がこれ見よがしに飾られていた。
アルガスから続く蟹の道は、大勢の金塊目的の者たちで溢れていた。
エルーダ迷宮はさながらゴールドラッシュで沸いているかのようであった。
登録冒険者の数も倍に増え、その数はまだまだ増えそうである。
たまに金塊が獲れたと話に聞く。
僕たちはそんな喧噪どこ吹く風、今日も楽しく迷宮通いである。




