薪集め秋祭り1
「薪が足りない?」
ユキジさんの報告に僕は思わず聞き返した。
こんなに樹木だらけの森なのに薪がないってどういうことだ?
人族側の冬越しの薪が足りなくなる可能性があるという。
どうやら、人族の一部にいざとなったら獣人の森で調達できるという気運があるらしい。
その一方で町の外で取れる薪を大量に転売する動きがあり、冬に向けての懸案事項になっていた。
このままでは人族のなかに冬を越せない者が現れるかもしれない。
早めの対応が必要だ。
この町の特殊な事情、それは森の管理がユニコーンに委ねられていることである。
そもそもこの森はミコーレの砂漠を阻止するための防砂林として、ユニコーンが長い年月心血を注いで守り抜いてきたものである。
当然森の伐採は厳しく制限されている。
つまり足りないからといって無闇に伐採することは許されないのだ。すべてユニコーンとの相談の上で開発が行なわれる決まりであり、それらは入植時に守るべき憲章としてこの町の法律にも記載されていることである。
森に関して人族側の勝手は許されない。
それでも倒木や、間引き、枝の伐採で町が年間消費する分の何倍ものも薪が調達される計算になっている。
恐らく、スプレコーンの憲章を知らない、あるいは守る気がない、他の領地の商人たちが勝手をしているのだと思われる。
新しい町故、利権を既成化しようと躍起になっているのだろう。
町の商人が既に利権を抑えているところに、後から来て強引に入ってこようというのだから無理が出る。
町の周囲は町の住人が自由に森に入り薪を調達していい決まりになっているにも関わらず、その住人たちを閉め出して、自分たちのものにしようとしているのだ。
「それで最近トラブルが増えておりまして」
獣人の森は言わずと知れた僕個人の土地である。そこに生えている雑草一つ許可なき者が勝手に採ることは許されない。薪とて同じこと。
「トラブル?」
「人族が勝手に森に入ってくることが多くなって、住人との摩擦が」
「…… 新参者か何かですか?」
「町の外で森の囲い込みが行なわれているようで、弾かれた者たちがこの森に」
「ヴァレンティーナ様には?」
「報告いたしました。守備隊の巡回や、摘発など行なって貰えるそうですが、町の外を先に潰したいから、こちらは少し待ってくれとのことでございます」
「困ったな。業者は分かっているのだろ?」
耳のいい獣人たちが知らぬはずはない。
案の定ユキジさんは頷いた。
「脅しを掛けますか?」
「いや、獣人に対して悪感情を抱かせたくない」
この手のトラブルはいつか起こるだろうとは思っていたが、まさかこのタイミングとはね。
町が落ち着いて大分経つというのに。
今更感全開である。
「人族側でなんとかしないとな」
そうこうしているうちに、問題が飛び込んできた。トラブルは待ってくれないとはよく言ったものだ。
僕たちは急ぎ現場に向かった。
そこはまだ中央広場に近い公園だった。
「ふざけんな! なんで採っちゃいけねえんだよ! ここは公共の場所だろうが!」
「だから違うと言っている! ここは若様の私有地だと。この森には貴重な薬草も育てられているし、ユニコーンだっているんだ。勝手に入っていい場所じゃないんだ」
「じゃあ、なんでお前らはここにいるんだ!」
「我々はここに住むことを許されている。ここはれっきとした獣人の特区でもあるんだ。我々にはこの森を維持する義務があるんだ」
「だったらなおさら頼むよ。薪を分けてくれよ!」
「俺たちに凍えて死ねって言うのか!」
人族が数人強引に獣人のバリケードを突破しようとする。
「それ以上進むと五体満足では済まないぞ」
僕は言った。
「誰だてめえ? ガキは引っ込んでろ!」
「この土地の所有者ですが何か?」
「俺たちは薪を取りに来ただけだ。それをこいつらが邪魔しやがって……」
「ここは私有地です。そして彼らはこの地の管理人です。言うことにしたがって頂きたい。でないとあなた方を捕らえねばなりません」
「なんだと!」
「貴族の屋敷の庭に無断で侵入……そして窃盗…… 領主の注意喚起も無視と来ればどうなるか分かりますね」
彼らも家族のために必死なのだ。気持ちは分かる。
「もう少し待ってくれませんか? 領主様も動き出していますから」
取りあえず、お引き取り願った。
「この森の余分は?」
「既に獣人たちが集めた後ですから、恐らく二、三割かと」
「いざとなれば魔石もあるから人死にはないだろうが…… 一罰百戒…… 物騒なことにならなきゃいいんだが」
答えは意外なところからもたらされた。
「ねー、若様。お祭りってなーに?」
チッタとチコがうちで読み書きを教わっているときにチコの口からぽろっと出た言葉だった。チッタもチコも『祭り』という単語は知っていても、経験したことがないらしい。前にいた村では子供たちが参加して収穫を祝う集まりはなかったようだ。牛が数頭丸焼きにされ、おこぼれに預かっただけらしい。
「その手があった!」
僕は早速領主館に出向いた。
「お祭りをしましょう!」
僕は祭りの趣旨をヴァレンティーナ様と姉さんに話して聞かせた。
「相変わらず悪知恵が働くわね」という感想を頂いた。
数日後、町のあちこちの掲示板に御触れが貼り出された。
それは『薪集め秋祭り』を開催するという御触れであった。
これにより町の周囲での薪の回収は一時的に禁止された。




