第5話 魔王でも休みが欲しい
聖霊たちは魔法使いの降臨を喜んだ。
内密にね、なんて魔法使いからは言われたが、やっぱり話したくなってしまうもので。
聖霊は、いまや、大地母樹の管理に追われる存在ではない。
人間種族とある種の契約を交わしたり、他の土地に土着した聖霊も数多い。
故に、既に神降臨の噂はまことしやかに、世界中に広がっていた。
ある宗教関係者は、信仰が揺らぐことを恐れて言及を避けた。
ある国王は、神の存在など認めぬと豪語し、語ることを禁じた。
あるハンターギルドは、接触を図るためにクエストの形で冒険者を集めようとしたが、場所がヘブンズバレーで、しかも先んじて出逢ったらしいS級ハンターナッシュの忠言もあり、半ば断念した。
そして、世に言う魔王の称号を持つ者は。
「かたじけない」
「どうぞ、あまり大したもてなしもできないけど」
魔法使い手ずからの茶をご馳走になっていた。
***
魔王。
魔物の王、魔族の王、魔大陸の王。
魔物は言うこと聞かない奴が多いし、魔族は全体的にプライド高くて扱いづらいし、魔大陸は割りと群雄割拠だ。
だが、とにかく魔王は魔王というだけあって、歴代の魔王はとにかく強かった。強さが基準だった。
それは今代の魔王でもそうだった。
別段世襲制というわけでもないのだが、今代はたまたま親子そろって力が強かったため、なし崩し的に、息子である今代が称号を受け継いだ。
色々と恐怖の対象として噂され、人間種族の中でも浮いている魔王。
その実態は、公共事業の元締めであり、管理職である。
各種族への橋渡しをしたり、摩擦を防いだり、意外にその仕事は地味で、交渉ごとが多い。
力で屈服させればいいと思う者を居るだろうが、この世界の魔族というものは、基本我が強い。
社会というものはそれなりに機能しているが、いざとなれば平気でストライキを起こしたりもする。
魔王なのに、下々のご機嫌伺いは必須というなんとも世知辛い職業であった。
故に、今代はノイローゼになった。
近頃は、勇者と言う名の暗殺者も出てくる始末で、いい加減魔王はキレた。
キレた結果、職務放棄した。
「お前ら、余のありがたさを思い知れ、バーカ!!」
魔王自身がストライキである。
そんなときに、魔王城の聖霊に聞いたのだ。
魔法使い、魔人こと神・センゴクの話を。
魔王は閃いた。
もうこの人に丸投げしちゃっていいんじゃないかと。
神っていうくらいだし、それはもう魔王なんて目じゃないくらい、徹底的に調子に乗って支配してもらえばいいなじゃないかと、あのクズどもと。
そんなことを、やや尊大な魔法使いに話し終える頃には。
「うっ……ひっぐ……余だって……余だって、一生懸命……」
泣いていた。
頭には立派な角が二本。緑に光る黒髪に、やたら肩幅のあるマント。
THE魔王の出で立ちの魔王が男泣きをしていた。
「……魔王も大変だったんだねえ」
センゴクは、聞き役に徹していた。
そりゃあもういいたいことは山ほどある。
けれど、やめた。
この魔王に罪はないのだ。
「ふん……ハイエルフどもなんて長生きだけが取り柄のもやしの癖に……竜人族とか真竜に及ばずで、中途半端にいきがってばかりだし……そんな連中のために、どうして余が板ばさみになって胃をいためねばならぬのか」
「うんうん」
「魔法使い、いや。神よ。世界の半分をくれてやるから、あいつらなんとかして」
「なにを面倒な」
「もう余はいやだもん」
「もん、て……」
「センゴクは、神なのだろう? 神ならば神らしく、傍若無人に振舞うのが筋であろう。彼奴らなら、幾らでもぞんざいに扱っても一向に構わんっっっ!!」
「こちとらのんびり暮らしたいだけだっつーの。ただまあ……それだけ魔王に業務を押し付けてたんなら、意趣返しくらいはしてもいいんだろうなあ」
「――わかってくれるか、魔法使い」
魔王は、思わずセンゴクの手を取った。
これほど包容力のある存在は、魔王は出逢ったことが無かった。
流石神だなあと、内心魔王は思ったものである。
大概のものは、魔王の心力に震え上がるか、警戒するかのどちらかである。
この魔法使いは、魔王を見ても驚かない。まるで、隣人のように接する。
それが魔王には嬉しかった。
「とりあえず、ヘブンズバレーに住んだらいいんじゃない? ここどうも秘境っぽいし、しばらく身を寄せるにはいい場所じゃないかな。他の住人にも声をかけておくよ」
魔王とて、ヘブンズバレーに居続けたのでは命がいくつもあってもたりないが、神のお墨付きを得られたのなら話は別だ。
「うむ、かたじけない。恩に着るぞ、魔法使い」
こうして、魔王がヘブンズバレーに住みだした。
「流石ラインハルトよ。なんという壮大な戦略か」
今では魔王は、どてらを着込み、みかんっぽいものをコタツでついばみながら、地球産の動画を漁る立派な引きこもりである。
そして、その一ヵ月後。
「たのもー、私は、シヴァン国の勇者! 魔王を倒すための力を、魔法使い殿から授かるためにやってきた次第!!」
勇者がやってきた。
魔王「ゆけ、余のカノンガルフ!!」
アイリス「大乱闘スマッシュなんとかで私のメダナイトに挑むとは、百年早いですよ、魔王」
センゴク「電子(二次元)の神のガチプレイに拮抗する魔王パネエ」
レトロゲームが大ブーム!!




