第1話 オール電化のログハウス
相変わらず500~3000字程度のショートショートです。
超々高位の魔物が、真竜が、古代種が住まう地。
そこは世界の英知と危険が濃縮されたような特異点、ヘブンズバレー。
破滅と栄華が表裏一体。故に二つの意味で天国に一番近い場所と称される自然豊かなこの場所に気でも触れたのか一軒のログハウスが立っていた。
地球とは異なる次元、法則の世界、リィーンベル。
心力と呼ばれる万能にして、あらゆるものに宿るその力を以って発展してきたこの世界において、そのログハウスは異彩を放っている。
生活にも渡って活躍する心力が、そのログハウスでは一切利用されていないのだ。
ログハウスは『おーるでんか』といって、火を用いず鍋に高熱をもたらすIHクッキングヒーターに、湯沸かし器、オートロックに監視カメラ、冷蔵庫……そんな『家電』で満たされた。
家電など、この世界には存在しない。家電って何? 美味しいの? そんなレベルだ。
ではそんなログハウスに住まうものとはいったい何だというのか。
当然、この世界の人間ではない。
だが、この世界には深いかかわりがあった。
「おお、うまそうに焼けたなあ」
なぜなら、そのログハウスに住まう男、槙島千国はこの世界の――■■■だからだ。
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Sランクハンター、ナッシュはヘブンズバレーの中ほどの森林地帯で生涯を終えようとしていた。
彼は、人類最高峰のハンターだ。
ハンターとは、いわゆる冒険者稼業という奴で、様々な依頼をこなすプロフェッショナルだ。
秘境を旅し、高位の魔物を撃破し、戦争を終結させる。
Sランクともなれば、まさにそうした偉業を成し遂げる英雄と呼ばれる英傑と同等の評価を得られるほどだ。
その英傑であっても探索が憚られる場所がある。
それが、ヘブンズバレーだ。
ハンターの聖域にして禁猟区とも言われるヘブンズバレーに足を踏み入れたのには、訳がある。
彼の仕事上の相棒にして、思いを寄せる女性が奇病に罹ったのだ。
体中に黒い斑点が出来る奇病だ。
見た目にも悪いが、なにより恐ろしいのは、その伝染能力。
接触感染するのか、彼女の周りの人間は、次々とその奇病に罹ったのだ。
Sランクの相棒たる彼女は強かったが、その奇病の前には無力で日に日にやつれ、仕舞いには自慢の長髪も抜け落ちてきたのだ。
ナッシュは探した。この奇病を治す方法を。
私財を投げ打ち、自身も奇病に冒されながら、たどり着いたのは失伝したとされる伝説の万能薬エリクサー。
かつて先祖がヘブンズバレーに住んでいたというハイエルフからその材料を聞き出したナッシュは、一人ヘブンズバレーに挑んだのだ。
結果、万全の状態でも危ういヘブンズバレーの数々の苦難に膝を屈し、今まさにその人生を終えようとしていたのだ。
「くそ、フローラ、すまない……俺はここまでのようだ」
無念。その一言に尽きる。
弱っていく恋人の傍に居てやることもできずに。これでは死んでも死に切れないではないか。
「よう、そんなところで寝ていると、風邪を引くぞ」
今際の際に、そんな能天気な言葉をかけてきた男がいた。
印象はとっぽくて、田舎臭い。純朴そうだが、それだけだ。
だが、そんな男がこんな場所に居ることはおかしいと、朦朧とした意識の中でナッシュは思った。
そのことが、疑問が、ほんの少しだけ彼の生存時間を延ばした。
「……これは、脱水症状かな? ちょっと待ってな」
男は背負い袋から水筒を取り出し、男に飲ませた。
「な、何を……のませ……!?」
抵抗もせずについ飲んでしまったナッシュだったが、驚くべきは、すぐにやってきた。
「身体が、軽い……!?」
奇病による衰弱と高位の魔物から受けた傷が嘘のように消えてなくなったのだ。
ナッシュは慌てて自分の腕をめくった。
「ない……斑点が、消えている……!!」
ナッシュの腕にあるはずの、奇病に冒されたものの証である黒い斑点が消えていた。
「あれ、怪我まで治すつもり無かったんだけどな……」
ボソッと男は何かを呟いたが、しかしナッシュには聞き取れなかった。
驚きのあまり、呆然としていたのだ。
そして奇病を治すという事実が、ようやくナッシュの中で噛み合い、ナッシュは男に迫った。
「あ、アンタ! 俺に何を飲ませたんだ!」
「何って、ただの川の水だけど? 軟水だから飲みやすかったろ?」
「川……川だって!? ヘブンズバレーに川が!」
「そりゃあ、川ぐらいあるだろうよ」
「頼む! 俺をその川のところまで連れて行ってくれ!!」
ナッシュの必死の懇願を受けた男は、苦笑しながらもナッシュの頼みを了承した。
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「凄い……これは……」
川が陽の光に反射してまぶしかった。
溢れんばかりの生命の輝き。
その川には、絶滅したとされる魚や甲殻類などの水棲生物がいくつも見られた。
流石ヘブンズバレーといったところだが、恐らくその秘密は、この水だ。
ヘブンズバレーに満ちる濃密な心力。それがこの水には溶け出しているのだろう。
そして奇病を治すというのなら、この水は、奇病の治療薬の材料、大地母樹のエキスをも染み出していることになる。
これはまさに世界を揺るがす大発見といえるだろう。
だが、ここは人の手の届かぬ人外魔境の奥深く。そしてなにより、これは人の手が入っていいものではないと、ナッシュのSランクの勘が告げていた。
しかし、今はこの水がどうしても欲しかった。
「頼む、アンタの水筒、俺に譲ってくれないか」
既に装備の殆どを失っている状態だったナッシュは、男に頼み込んだ。
「……なんで? この水を欲しがる理由は? アンタが真っ当じゃないなら、俺は水筒を上げないよ?」
男は少し考えた後、神妙になって告げた。
ヘブンズバレーに居るとは思えない軽装の男の言うことだ。
ここは黙ってしたがっておくべきだろう。なにより、ナッシュにはやましさは一つもないのだから。
「……俺の大事な人がある病気に罹っている。その周りの人たちも。それをどうしても直してやりたくて全てを投げ打ってここまで来た」
Sランクとして溜めた財産は殆ど吐き出した。
また一度出直す必要がある。
だがそれも、最愛の人が隣に居ればこその話なのだ。
「そっか……いい人なんだな」
「ああ、俺にとって最高の女だ」
男は笑顔を浮かべると、水筒を差し出した。
「ほれ、持っていけよ」
ナッシュは、男から水筒を泣きながら受け取った。
何度も何度も、礼を言った。
そして、早速清流から水を水筒に汲んで、男へ礼を言い、立ち去ろうとした。
男の胸の内は希望と決意にあふれていた。
ここから帰るのは、至難の業だが、必ず抜け出し、相棒の下へたどり着くのだ。
「待てよ、ここからあんたの家まで結構遠いんだろう? 今からのんびり帰って、間に合うのか」
男に改めて事実を突きつけられると、ナッシュはくじけそうになる。
だがそれでも行かねばなるまい。一分一秒が大事なのだ。
早く彼女の下へ、この水を――
「俺が送ってやるよ」
男が、とんでもないことを言い出した。
家までどれだけの距離があると思っている――ナッシュは男にそう言った。
「ああ、そこな。わかった、転送してやるよ」
コードアクセス。
男が呟くと、ナッシュの足元に幾何学模様と五芒星が光で描かれた陣が現れ、ゆっくりとナッシュの身体を上がっていく。
するとどうだ。陣が通った後には何も残っていない……陣がナッシュの身体を別の場所へ転移させているのだ。
これはまるで御伽噺。
その事実に、納得も理解も追いつかないまま、ナッシュは叫んだ。
「アンタ、いやあなたはいったい何者なんだ!」
ナッシュの疑問に、男は答える。
「俺はセンゴク、魔法使いだ」
魔法。それは心力の究極頂点のといわれる神の御業。
ならばそれを使うその男の正体は……そこまで思ったところでナッシュのからだはヘブンズバレーからは完全に消え、ナッシュは自分の家の、相棒が住む部屋の前に立っていた。
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ナッシュは、すぐに相棒にヘブンズバレーの水を飲ませた。
眠っていたから口移しのような形になったが。
するとどうだ、青白くなっていた肌は血色が良くなって赤みが差し、斑点も消えたではないか。
ナッシュは、目を覚ました相棒にすがりつくように泣いた。
相棒は、自分の身体に起こった異変に戸惑いながらも、泣いているナッシュを抱きしめた。
その後ナッシュは、同じ奇病に悩んでいた近隣住民に水を配った。
少量でも効果があったため、水がなくなる頃には、全ての奇病の患者を救うことが出来た。
奇病治癒を祝って、数日後には祭りが開かれ、ナッシュは英雄として祭り上げられ、そしてその冒険譚をせがまれ、皆に語った。
「俺は、魔法使いに会ったんだ」
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ヘブンズバレーには一軒のログハウスがある。そこには魔法使いが住んでいる。
槙島千国が、住んでいる。
「マスター、お湯が沸きましたよー」
「おう、今行くー」
ちなみにナッシュが飲んだ水は、センゴクの家に通っており、彼は風呂にも料理にもその水を使っていた。
商会・政府・ギルド「「「その水の場所を詳しく」」」
ナッシュ 「おいバカやめろ俺は殺されたくない」
商会・政府・ギルド「「「「!?!?!?」」」




