最終話 Re:Start
俺の名前は九重善三継。
しがない90のジジイだ。
俺にはもったいない美人の嫁さんを貰い、娘二人に息子一人と子宝にも恵まれ、孫、ひ孫もいる。
若い頃は精力的に働いて、最後には専務の役職まで経験した。
今は老後ののんびりした時間を嫁さんと過している。
そんな中、一つの訃報が俺の下に寄越された。
槙島千国が亡くなったのだと。
センゴクという奴は、俺の会社での同期だった。嫁との馴れ初めも俺の出世も、こいつが切っ掛けをもたらした。
そして奴は、魔法使いだった。
冗談ではない。こいつは魔法で何度も俺を、俺達家族を救ったのだ。
VRMMOに精神を閉じ込められたときも。
嫁の出産が難産で、命の危機が迫っていたときも。
だが、そんな恩人に、俺は恩を仇で返すような真似をした。
当時人事部だった俺は、センゴクを始めとする多くの社員の解雇処分を行ったのだ。
奴の仕事ぶりは、決して優秀とはいえなかったが、顧客からの信頼と信用は厚く、その真摯な仕事ぶりは数字に表れないものの評価されていた。
俺は上役にセンゴクの解雇処分の取り消しを上申したが、それが認められることはなかった。
まだ40代に入ったばかりという頃だった。
当時のセンゴクは、まだ結婚もしていなくて独り身だった。
そういう意味で奴は身軽で、だから余計に解雇の枠に入ってしまったのかもしれない。
俺は会社の規約を破って、いち早くセンゴクに解雇のことを伝えた。
「たはー、参ったな」
それが、解雇を伝えられた時の第一声。困ったような半笑いを浮かべていた。
俺は奴に謝った。謝り倒した。守れなくてすまないと。恩を返せなくてすまないと。涙ながらに謝った。
「気にするなよ、九重。なるようになるさ」
そういって、奴は俺の肩を叩いた。
確かに、センゴクには魔法の力がある。金なんて幾らでも稼ぎ出せる。
だが、コイツは、俺の知る限り私利私欲で魔法を使ったこと殆ど無かった。
魔法を見せ付けるために、アイドルのスキャンダルを暴いたり、専務の裏切り行為を暴いたりもしたが、俺に言わせればそもそも暴かれるようなことをしていたほうが悪い。潔白であれば、そもそも暴かれはしないのだから。
センゴクはいつも誰かのために魔法を使っていた。
自分のために使っていたら、もっとアイツは会社でも、いや会社にこだわらずもっと派手なことを出来たはずだ。
「20年に満たない付き合いだったが、この会社にも世話になった。もちろん、九重にも。お前が同期で本当に良かったよ」
いつの間にか、俺が泣いていた。俺が慰められていた。涙もろいわけではない俺が、あんなにも泣くなんておれ自身驚いたことだ。
そして奴は、俺の前から去っていった。
その後聞く限りでは、奴は家も引き払って諸国を放浪の旅をして廻ったらしい。
時折、センゴクは添付画像つきのメールを俺宛てに送ってきていた。
写真ファイルの中の奴はいつも人に囲まれ、バカみたいに笑っていた。奴の周りには笑顔が溢れていた。
年を経ても奴の報告は続いた。それが途絶えたのは1年ほど前だったが。
奴には、親戚の類も居なかった。天涯孤独だった。
では、やつの葬儀は一体誰が執り行っているのか。
訃報を知らせるはがきの裏面の端にそれはあった。
NGO<蒼穹の風>。
なんの組織かさっぱりわからなかった。グローバルネットで検索してもそんな組織の詳細を知ることは出来なかった。
だが、わざわざ訃報を送りつけてるのだから、嘘だとしたら余りにたちの悪いことだ。
俺は真偽を確かめるべく、妻を伴って会場へ向かった。
***
「……なんじゃこりゃ」
俺も妻も絶句した。
会場には、日本人もいたが、それ以上に外国人の数が圧倒的だった。
日本も随分と国際化が進み、英語の公用範囲もそこそこ増えていたが、島国という立地の関係上、現地人が圧倒的大多数を占めている。
だが、葬儀会場に集まっているのは殆ど外国人だ。
しかもただの外国人などではない。
チャリティ活動を積極的に行っているミリオンセールスを連発する世界的女性シンガー。
紛争で片足を失ったものの、政界に進出してしまいにはとある国の大統領にまで上り詰めたことのある初老の男性。
医療技術を10年進めたといわれ、ノーベル賞を受賞した鬼才の教授。
陸上競技の世界記録を塗り替え、オリンピックでも金メダルをいくつも取った小国の英雄。
他にもメディアに姿を見せたことのある著名人が多数、そして名も知らぬ多くの青年達。
老若男女、その全てがセンゴクの死を悼んでいた。
「ゼミツグ=ココノエさまでいらっしゃいますね?」
驚きっぱなしの俺に流暢な日本語で声をかけたのは、品のいいスーツを着こなした、若い欧米系の青年だった。
「NGO・蒼穹の風代表、ヴィルマー=M=ニュートンと申します。父の葬儀に足を運んでいただき、ありがとうございます」
俺はまたも開いた口がふさがらなかった。いま、この男は、センゴクを父と言ったのだ。
「父、だと? では君はあのセンゴク息子だと言うのか? ……全然似ていないが」
はっきり言ってあの幸薄そうなセンゴクとエリート然とした目の前の青年になんら類似点を見つけることは出来なかった。
「はは、私は養子なのです。どうぞ、ご案内いたします」
俺達は、ヴィルマーに促されるまま、奥へと案内された。
***
供された最高級の紅茶を前に、ヴィルマーは嬉しそうに話した。
「父が、貴方にはとてもよくしてもらったと、話していたことがありました。自分の自慢の友人であると」
そんなことを。俺は奴自身に何もできなかったと言うのに。
「父、センゴク=マキシマの子供は私だけではありません。そもそもNGO蒼穹の風は、センゴクの子供達の一人が提唱し、始めた組織でして。構成員はその殆どが、父の子供なのです」
一体奴は、会社を辞めたあとの数十年で何をやってきたのか。
「私なんかは、スラムの出身でしてね。初めて父にあった時、おまえら全員纏めて面倒見てやるからついてこいと言われたときには、本当に面を食らってしまいましたが」
センゴクは、世界各国のスラムを掃除してまわったそうな。
「はは、さすがドヤ顔の魔法使いだ。海外でもやるときはとことん常識外だな」
「……やはり、父は貴方に魔法のことを話していたのですね」
「うん? どういうことだ」
「父は、センゴクは、魔法のことをあまり人には話しませんでした。信用の置けないものには、ちょっとした手品、という言い方でしたかね。とにかく魔法の存在を大っぴらにはしていませんでした」
おいおい、あいつ。俺には言いふらしたかっただけとかどうとか言っていたくせに、実際には秘匿してたのかよ。
「あの会場に居た、歌手や大統領なんかもセンゴクの子供の一人です。公にはなっていませんし、里親が居るものも多いですが」
もう驚かない、驚かないぞと思っても、やはり驚きは隠せない。
妻などは、既に話が頭に入っていないだろう。
「父は、言っていました。情けは人のためになると。自分が多くの人に手を差し伸べれば、手を取った人は、そのことを忘れず、また違う誰かに手を差し伸べるだろうと。そんな繋がりを、世界に広げたいのだと」
センゴクは、人の力を信じた。心を信じた。魔法という奇跡に依存せず、魔法を始まりにして人の力を動かすことで大きな、新しい流れを作り出そうとしたのだろう。
一介のサラリーマンを解雇したことが、まさかこんなことに繋がるとは、誰も思うまい。
俺はその後もヴィクターの話す、センゴクっぽい奴の半生を心地よく聞いた。
そしていよいよ葬儀が始まり、奴の死に顔と対面した。化粧を施され綺麗なもんだ。苦しんだ様子もなく、穏やかなものだった。
センゴクよ。我が友よ。おまえの幸せが一体何処にあったのか、俺にはわからない。
だが数百人の子供に囲まれ、数千人の恩を受けた人間に見送られるおまえは、きっと幸せだったのだろう。
これだけの感謝と尊敬を受けるおまえが、不幸であったはずがない。
おまえが人生を全うできたことを、俺は心から嬉しく思う。
センゴク、ありがとう。
そしてさようなら、だ。
***
「引くなあ……」
自らの葬儀を天より眺めていた青年――センゴクは、その盛大に執り行われた葬式に頬を引きつらせていた。
そんな金があるなら、もっと別のことに使えよと。
変な贅沢をしてんじゃねえよと子供達につっこんだ。
「まあまあ、いいじゃないですか、マスター」
それをたしなめたのは、白銀の髪をした美少女アイリス。
二人はそれぞれ元の存在から高次の存在へと完全な進化を果たし、天界へ赴いていた。
「ま、俺の死にあれだけ悲しんでくれる者たちがいたのなら、俺の種まきも決して無駄では無かったろうさ」
センゴクは、自分の慈善活動を種まきと称していた。様々な問題を抱える人類の先を見据えた布石だ。結局のところ、魔法はただ使うだけでは駄目であると、センゴクはよくよく承知していた。
だから、人の和の力を信じて、親切を振りまいた。いつかその親切を、違う誰かに分け与えられるように。
「さてと、本当にいいのかい、アイリス。せっかく電脳世界の神になれるのに」
アイリスは首を横に振った。
「いいえ。それはもういいのです私が手をかけずとも、電脳世界は人の手で掌握できる日が来るでしょう。それに、今の私は、貴方と居ることが何よりも大事なのです、センゴク」
「そっか、うれしいことを言ってくれるねえ」
「それに今度の世界では、流石に私も、その、貴方との子供が欲しいと思います。愛の結晶として」
「ははっ……DTで不調法だけど、お手柔らかに頼むよ?」
「お任せください。しっかりとセンゴクを導いて差し上げます」
そういってアイリスは、形の良い胸を張った。
そもそもセンゴクたちは、一体何の話をしているのか。
センゴクたちは、地球とは異なる異世界への移住を計画していたのだ。
事の発端は、前回のラグナロック=カーニバルで、ヨシュアと共に引き起こしたビッグバンだった。
センゴクはその新しく生まれた世界の神になるよう打診を受けていた。
というよりも、天界が手一杯で、誰も手が出せないのである。
センゴクと共同作業で生み出したヨシュアは、地球のことで手一杯だ。
必然的に、センゴクに生み出した責任を取れというような塩梅になったのだ。
もっとも、センゴクもただで神になる気はなく、
「向こうの住人として暮らすことにします。神を気取るのはどうも苦手で」
気取るも何も神様だぞ、おまえ。
まあ、地球には地球の常識があって、センゴクには少々手狭だったという事情はあるのだが。
そういうわけでセンゴクとアイリスは、表向き一般人、実際には創造神の夫婦として新たな世界に旅立つのだ。
「さて、それじゃあ行こうか、アイリス」
「はい、センゴク」
二人は互いの手を取って、Dimension Transport魔法を発動させた。
新たな世界で待ち受けているのは、腐敗の進む帝国に、魔物の大発生に、魔王の出現エトセトラ。
魔法使い、縮めて魔人センゴクの魔法伝説は、これからも続いていくらしかった。
地球救世編 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
今現在、小説家になろうは大異世界時代です。
ランキングを上からずらっと眺めても異世界ばかりです。
チートの誤用と安売りに、(逆)ハーレム、現代知識の転用、転生、トリップ、TSなどなどジャンルと作風の違いはあれど、ここではないどこかでがんばるというのは一貫しているように思います。
かく言う小生も、D世界や花嫁などの異世界作品を書いています。
かように異世界作品が多いのは、我々の現実がどこか閉塞で希望が無いもののように感じられてしまうことの反動(希望ももちろんありますが)で、努力が報われる世界や、ゲームのような設定が通じる明快さが通用する世界を望み、好まれるからなのでしょう。
そしてもっと単純に言えば、商業作品全体を見ても、異世界を扱うファンタジーというものが、昔に比べれば少なくなっているような気もします。そのため、商業で無いなら自分で書けばいいじゃないという精神で、異世界ものが増えているという側面もあると思います。
商業で見れないものを自分たちで作ってしまうという発想は、ネットを得て、大きく飛躍したと思います。
と、まあ長々と戯言を垂れ流したのですが、そんな異世界作品に囲まれていると、その反動で、俺達の地球だってファンタジーに負けてないよね? という思いがむくむくと私の中で立ち上がったのです。
仏教とか、あんな昔に三千大千世界とかとんでもないスケールの世界観を持ってるし、インド神話とか、善悪二元のゾロアスターとか、北欧神話とか、宇宙人とか、地球にも昔からとんでもないファンタジーがあるよねと。
そんな思いを出発点に、センゴクを書いていました。地球もやるじゃん的な思いで。
まあ神話の世界もファンタジーで、ある意味異世界じゃんといわれればそうかもしれませんが(汗
とにかく地球でも物語は生まれるし、地球もいいものだと、自分で再確認したくて、この作品を書きました。それが読者の皆さんに伝わったかどうかはわかりませんが、やりきった思いはあります。
あ、そんなわけなので、第2部とかはありません。ジャンプで言う第一部完です。
この上異世界を書いても、魔法で一発KOという流れは変わりません。センゴクさんなんで。
でも想像することは出来ます。
魔法使いと電脳の神の子供なんて、わけわからんことになりそうですしね。
取りとめもないですが、これにてセンゴクも終了でございます。
沢山の感想、応援、ありがとうございました。




