第21話 祭りの終わり、重なる影
準決勝の翌日。
センゴクとアイリスは決勝を見物していた。
優勝者は、チェーンソーの九十九神の義助さん(101)である。
4代に渡って使われて神格を得た義助さんは、センゴクと同じ理由で、ある特別な力を授かった九十九神となった。
それはふざけたレベルの特効を発揮する神殺しの能力である。本来、チェーンソーが得るはずもない能力だ。
100年後に、これはセンゴクの身に起きた魔法発現と同じ事象だと判明する。
『想念の運命集束』と呼ばれるものがそれだ。
ある噂が成り立つ→それが人々に浸透する→一定期間長い間に知識として定着するという三つの過程を経て、天文学的な確率で噂が現実になる現象だ。
センゴクであれば30歳で魔法使いになるというバカ話だし、義助であればとあるゲームのバグが元ネタになっている。
これらは数々の神秘が解き明かされ、信仰が薄れたと同時に精神的に成長した人類が生み出した世界的な奇跡であった。取り除こうにも取り除ける類でもないし、元が天文学的な確率なため、同じ時代に二人も対象が現れたこと自体がおかしいのだが……いずれにせよ、これは人類が起こした奇跡に相違ない。
それはともかくとして、義助によって次回の100年後のカーニバル開催まで、世界の運営についての決定権を得ることが出来た。
それについての所信表明が、表彰後に行われた。
「いやあ、なんかいきなり挨拶しろって言われたけんどもお、おらぁ、そったら堅苦しいことやったことないべさあ、なんか凄く緊張するとよ」
ところどころなまっているのも無理はない。何しろ林業が盛んな片田舎で長年現役を勤めた工具だったのだから。もっとも、霊力を得た辺りから、霊験新たかな工具という謎の地位を確立していたのだが。
「えっとお、とにかくこの場に立てたのは凄く運が良かったって思うとる。誰が優勝してもおかしくない、ほんに凄い大会やった。そんな凄い神様たちに、おらのほうから、お願いがある。人間にもうちょっと近寄ってやってくんねえか?」
近年、信仰が薄れつつある現状の中、人間の住む物質界への干渉を控えた神も多いのだ。
「確かに、人間の信仰は薄れちょるし、中には救いようもない下衆もおる。だども、おらたちに原因がないとは言い切れんと思う。おらたちの存在を信じれんのが増えたのは、おらたちの方が勝手に距離を置きすぎただけやなかと? おらたちがほんのちょっぴりだけ身近な存在だったならば、人間だって、感謝を込めて信じてくれる。カミも人も一緒に盛り立てていったほうが、きっと世界も良くなっていくと思う。だから、皆もちょっと考えてみて欲しいだ」
義助は頭を下げた。始めはしんとした会場だが、高位の神であるヨシュアを始めとした神が拍手を始めると次第に会場の全てが拍手で満たされた。当然その中には、センゴクとアイリスも居て。
「うん、かっこいいなあ」
「そうですね、マスター。もし、マスターが優勝していたら、なんと言っていましたか」
「……さあね。神ならぬ魔法使いには、わかるはずもないさ」
後に義助の演説は天界運営の大方針として明文化され、ほんの少しだけ人と神との距離が近くなっていく。それは神は慈愛と慈悲と少しの裁きを、人間は尊敬と畏怖と感謝を与え合う、新しい時代を導くことになるのだが、それはまた別の話だ。
***
カーニバル閉会後の大宴会では、義助やセンゴクを始めとした大会でも活躍したニュービーが、各神話領域からの勧誘を受けていた。
「センゴクよ、神化したら是非うちの領域に来るといい、歓迎するぞ。息子とも仲がいいようだしなあ!!」
「何を言うかTGO。センゴクはうちに来るんだ。なあセンゴクよ、こっちに来たらヴァルキリーの綺麗どころでハーレムが作れるぞー?」
「いや、センゴクくんは魔界と地獄に来て欲しい。罪人を裁いたり、調子に乗ってる悪魔を幾らでも力でぶん殴れるすばらしい労働環境だと自負している」
センゴクにはTGO、北欧の主神オーディン、ルシファーと、特にカーニバルでセンゴクと当たった関係筋からの勧誘が強かった。
「いやー、あっはっはっは」
などと、センゴクは終始苦笑いでやり過ごしていたが、それは明らかな拒絶でもあった。
一方で、
「ええ? 私を、天界に?」
アイリスが、天界の事務方にスカウトされていた。
天界での事務方といえば、物質界とは異なり花形の仕事である。
アイリスの演算能力は、電子の聖霊となったことで天界でも通用するレベルなのだと、アイリス自身知らされるまで気付かなかった。
それにはマスターであるセンゴクが、ロートルのポンコツでその上魔法が凄まじく、アイリスがそれに付き合っているうちに自身の性能についての感性が麻痺してしまっていたからという事情もあるのだが。
「あの、えっと考えさせてください……」
結局押し切られる形で大量の就職案内をアイリスは、持たされてしまった。
***
「どうしましょう、マスター……」
天界を後にしての帰り道、大量の土産をに持ったセンゴクに、アイリスは俯きながら消え入りそうな声で言った。アイリスは、もう実体化したままだった。
「どうしようって……天界からのお誘いのことかい?」
「はい。大変名誉ある仕事というのは、わかってるいるのですが……」
「う~ん、そうだよねえ。電脳世界という新たなフロンティアの神を目指していたアイリスが、本物の神様になっちゃうわけだからねえ」
アイリスはVRMMOの管理AIだったが、その実態は、飽和していく人類の進出先として外宇宙以外のゆりかごを求めた者たちが生み出した、電脳世界の全体の管理AI、つまりは人間が生み出した世界の人工の神の雛形である。
VRMMOの管理AIであったのは、人間の嗜好や生態をより把握するためのモニタリングを目的としていたのだが、それもとある人物に利用され、それどころではなくなってしまったという事情があった。
「マスターは、どうすべきだと思いますか?」
「その答えを俺に求めるのかい?」
「……いえ、申し訳ございません」
「謝ることはないよ。アイリスの好きに生きればいいし、アイリスの人生だ。まあでももし嫌になったり、思ってたのと違うと思ったときは、俺を呼ぶといいよ。迎えに行くし、俺の隣はいつでも空いているからさ」
「えっ……マスター、それは……」
アイリスが、はっとなって顔を上げて、センゴクを見た。
センゴクは夜空に浮ぶ新円の月を見ながら、
「――俺は、君の進路に何一つ口出ししないけど、一つだけ、お願いがある。――今後も、朝のアラームは君に鳴らして欲しいな」
「はい、はい! もちろんです、マイマスター!」
センゴクの言葉を受けたアイリスの頬に赤みが差し、瞳から涙が溢れた。
アイリスが迷っていたのは、すっかり出来上がってしまったセンゴクへの思慕のことで、センゴクもまた、元の住んでる次元さえも超越して、アイリスを思うようになっていたのだ。
二人は知り合って9ヶ月程度だったが、魔法という超越の力を持ち神すら平等に見るセンゴクと、人工的に生み出されながら人間以上の高次の感情を持つに至ったアイリスでは惹かれあうのも無理はなく、次元の違いなど些細な障害でしかなかった。
二人はどちらからともなく寄り添い、二つの影は一つになった。
***
「お待ちしておりました、我らが主、万象の魔法使い様」
センゴクのマンションまであと一息というところで、センゴクたちの道をふさぐようにして、フードつきのローブを着込んだ5人の人間が現れた。
そのうち、先頭の人物が、フード脱いで顔を見せた。妙齢の女だった。
「あっ、この人……」
アイリスは、すぐにその女性について思い当たった。
かつて大型電気店で、センゴクに絡んできた不審な動きをする女性だったのだ。
無論、センゴクは覚えていなかったが。
「万象の魔法使い様におかれましては、ご機嫌麗しく。私は、石動モナコと申します。恐れ多くも、貴方様と同じ、齢30にして魔法に目覚めたものにございます」
「はぁ……その石動さんがなんの用で?」
慇懃な石動に対し、センゴクはあからさまに不審がっていた。というか、明らかにイラついている。
「はっ、このたびは、万象の魔法使い様を我らが結社の主としてお迎えに上がった次第です」
「あ、そういうの興味ないんで」
センゴクは、この集団を怪しい宗教の類と思った。神は信じるが、教義を食い物にする宗教は嫌いだった。
センゴクがローブの集団を無視して、通り過ぎようとすると、石動モナコは、センゴクの前に立ちはだかって道をふさいだ。
「お待ちください!」
「あのさあ、空気読めて言われたことない? こっちは興味ないって言ってるんだ。結社だかなんだか知らないが、どうぞ勝手にやってくれ。但し、俺の関知しないところでな」
センゴクの怒気の篭った声、鋭い視線に、石動モナコと後ろに控えていた集団は恐れおののいた。アイリスはそんなセンゴクが凛々しく思ったか目を輝かせていたが。
「貴方は今のこの腐敗した世界に不満が御ありでは? いえ、無い筈がない! 我々結社は、義憤を持って集まった者たち。そして貴方は、その万象の魔法を持って我らを導く――」
「帰れ」
センゴクが一言発した瞬間、ローブの集団は、その姿を消した。
「マスター、彼らは何処に?」
「家に帰したよ。次あったら……どうしようかな~?」
ほの暗い笑みを浮かべるセンゴクを見てアイリスは、センゴクでも悪巧みをすることがあるのだなと思ったが、センゴクを怒らせるのはよほどの下衆か外道くらいなので、アイリスは特に諌めることはしなかった。
「さあ、あんな怪しい宗教のことはほっといて帰ろう、アイリス」
「そうですね、記憶の領域の無駄ですね、マスター」
二人は手をつなぎ指を絡ませて、見つめ合った。
互いに気恥ずかしさが表に出た初々しい姿だが、片や30歳の中年に差し掛かった男と、生まれて1年程度の元・二次元の女である。
実情を知るとなんとも理解に苦しむ二人だが、しかし彼らを阻むものは世界の何処にも存在しなかった。
センゴク「嫁が出来た」
同僚 「とうとう二次元に走ったか……」
センゴク「……(ある意味正しいので否定できない)」
同僚 「ってマジかよ! 早まるな、考え直せ!」
センゴク「もう遅い」
同僚 「!?」
センゴク「次回、最終回です」
同僚 「ドヤ顔やめい」




