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第20話 暇を持て余した神と魔人の全力

*ジェフティことトト神は、知恵と学芸の神

 準決勝の相手。センゴクの目の前に立つ青年は自然体だった。

 自然体でありながら、その立ち居振る舞いには黄金比が成り立ち、黄金律を纏う。

 人類の有史以前に数々の偉業を成し遂げ、この世を見守る役目を背負った神の子。

 信者であれば彼を見るだけで、同じ空気を吸うだけで絶頂を迎えるだろう。

 そうでなくとも溢れんばかりの神気は、見るものを取り込む。

 あらゆる物を愛し愛された、一挙手一投足のことごとくが奇跡。

 それがセンゴクの相手であるというヨシュアという青年だ。


 だが、センゴクは特に影響を受けた様子はない。

 センゴクは神に疎いということもあって、ヨシュアに対する色眼鏡は殆どない。

 故に、ヨシュアもただの人のよさそうな温和な青年、としか見ていない。


 そんな見方をするセンゴクは、神の威光をものともしないそのあり方は、まさに化け物だ。


 数々の神々と相対しても、神々の世界にいても正気でいられるその性根。神々と対等に渡り合うその力。まさに魔人の名に相応しい、人間の世が生み出した突然変異ミュータントたるところだろう。

 

「こういう予感は、どこかあったんだ。君とはこうして会えるって」


「俺の方は、全然です。ここまで来れたのも出来すぎなくらいです」


 種目を決めるスロットが回転する間、二人は談笑していた。

 ファイナリストを決めるこの戦い。

 ベスト4の戦いに観客の盛り上がりも相当なものとなっていた。

 だがそうであっても、二人は自然体。

 戦いに対する気負いなど、まるでない。それは二人がこの『祭り』を楽しんでいるからに他ならない――。


 種目のスロットが停止し、二人の戦うルールが決定した。


 ベースボール――野球だ。


 途端、会場がその姿を変化させ、よく整備された広大な野球場が出来上がった。


 二人だけでやる野球なので、ルールは2種類あってどちらかを選択する。

 一つは、一方が投手、もう一方が打者となって、安打を叩き出せるかの勝負。

 もう一つは、互いに打者として立ち、どちらがより遠くへ打球を飛ばせるかという勝負。


 それを聞いたヨシュアは、センゴクにこんな提案をした。君がより(・・)全力を出せる方を選んでくれと。


「隣人を愛せとは、私の言葉だ。それを私が守らないのはおかしいだろう?」

 

 なんとも説得力のある言葉に、センゴクはじゃあと、投手として戦いに臨むことを選択した。


「俺、バッターのセンスないんですよ。バッティングセンターの一番遅い子供用の球でも平気で空振るんです」


 そう苦笑して言ったセンゴクには、10球の投球練習の機会が与えられた。


「では捕手は、この我が引き受けよう!」


 そう言って会場へ乱入したのは、The Greatest One、ヨシュアの父親であった。

 彼は、既にトーナメントで敗退していた。最高の神である彼も、このカーニバルでは、負けることもあるのだ。


「センゴクよ。主の全力、存分に発揮するが良い。それで我が子が負けることがあっても、我は一向に構わんッ!! 主が全力を出せんことこそが、我らはもっとも危惧するところだ!」


「さすが父さん。私の望みを良くわかっている」


 センゴクは、TGOさんにお礼を言って、ワインドアップから硬球を投じた。

 100kmに届くかどうかの平凡な球だ。

 センゴクは飛んでくる野次を気にも留めず、一球一球丁寧に投げこんでいく。


 一方、ヨシュアも弟子にバットも持ってこさせた。大会が用意したバットを使わずにである。


『ほう、あれは……』


 解説であるジェフティが、唸り声を上げた。


『ご存知ですか、ジェフティさん!』


『あれは、生命の樹から削り出して磨き上げられたミレニアムモデル。折れず曲がらず、反発力をボールにキッチリ伝える至高の一本です。ヨシュア選手、これは本気ですよ!』


 ジェフティがやや興奮しながら解説し、会場もそれに沸いた。

 それはそうだろう、あのヨシュアがマイバットを持ってくるという意味は大きい。

 同時に、センゴクがやっているあのへろへろの投球練習にも何か意味があるのだろうと、観客達も予想し始める。

 そしてついにセンゴクの投球練習が終わり、センゴクとヨシュアは互いに定位置へ移動した。


 センゴクとヨシュアは互いに目配せだけをして、瞳の色を真剣なものへと変えた。


「コード・クアドラブルアクセス」


 センゴクが初球から、神の奇跡と同等の魔力を硬球に込めた。

 魔力を受けた球は、黄金の輝きを持つ。

 

『さあ、センゴク選手、そのゴールデンボールを振りかぶって――投げた!』


 センゴクの手許から離れた呼吸は、空間そのものを破壊しながら、ミットへ吸い込まれるように向かっていく。


 ヨシュアが内角気味のボールを見切り、バットを振るった。ボールを真芯に捉えた理想の一打。

 そのままボールは反発力を受けて快打になるかと思われた。


――みしっ……!


 瞬間、バットが爆ぜた。

 ボールはそのまま、TGOの構えるミットの中へ。


「ストライクっ~~!!」


 一球投げるだけで、会場が大歓声に包まれた。

 強引過ぎる力業。小細工抜きの真っ向勝負。神々だって、そんな勝負には憧れるし、心躍るのだ。


 続く2級目、センゴクが放った球はなんと変化球。横滑りし、袈裟切りのようにスパッと鋭角なカットスライダーだ。

 

「ふっっっっっ!!」


 しかし、ヨシュアは、この球をカット。ファールとなって天空高く舞い上がって、戻ってくることはなく……爆発した。

 白い光は、超新星爆発のそれだ。

 上位の神とそれに順ずるものが本気でぶつかると、このようなことが頻繁に起こる。

 なまじ暇と力を持て余しているからいざ全力を出すと歯止めが効かないのだ。


 カウントは2-0、すでにヨシュアが追い詰められた格好だが、ヨシュアの顔にかげりはない。


 それからセンゴクは三球ほど投げたが、すべてカットされ、そのたびに超新星爆発が起きた。


 センゴクもヨシュアも、互いに汗をかいていた。互いに絶大な集中力と力を使っていたのだから無理もない。

だが冷や汗などではない、心地の良い汗だった。


「これで最後にします。これで駄目なら、どうやっても俺の負けです」


 センゴクが宣言して、振りかぶった。


「コードマキシマム・アルティメイタムトライアル」


 黄金の輝きから、白銀の輝きへ。

 後に振り返っても、この投球がセンゴクにとって生涯最初にして、最後の全力の魔法行使になる。


「来るがいい……!」


 ヨシュアのバットもまた、白銀の光を帯びていく。


「これが俺の全力、センゴクボール三号だ……!」


 投げた。

 センゴクが、その力を解き放った。

 光の速度で、白銀球が飛び出した。


「があっ!!」


 ヨシュアが、初めて吼えた。

 小細工のないストレートボールをヨシュアのバッドが捉えた。


「ふん、ふぬううう……!」


 力は拮抗。だが徐々に、バッドの方が悲鳴を上げる。


「おおおおおおおっ!」


 だがヨシュアは、バットを振り切った。

 その結果バットは再び折れてしまう。

 だが、ボールは? ボールは何処へ?


――バンっ!


 ボールはセンゴクのミットの中へ。

 だが、そこで終わるヨシュアの打球ではなかった。


「うおおおおおっ!?」 


 ミットに収まったボールはしかし勢いを止めない。センゴクの手からミットがはずれ、そのまま天空高く、白銀の光が舞い上がっていった。

 

 判定;場外ホームラン。


 センゴクの敗北が決定した。

 

 瞬間、会場が沸きあがり、歓声に満たされた。


 センゴクは、吹き出る汗をぬぐうと、バッターボックスにいるヨシュアに近づき、手を差し伸べた。


「完敗です。本当に、ありがとうございました」


「こちらこそ、いい戦いをありがとう」


 センゴクが差し出した手を、ヨシュアはしっかりと握り返した。

 二人の健闘をたたえる、より一層大きい歓声と拍手が鳴り響いた。

 

 アイリスは、感動で顔をぐしゃぐしゃにしていた。

 センゴクは、晴れやかな気持ちで、会場を後にした。


 何はともあれ、センゴクのラグナロック・カーニバルはここでその幕を閉じたのだった。


 槙島千国・戦績:ベスト4。



***



 センゴクが投げ、ヨシュアが打ち返した白銀の球は、天界の管理委員会によって、天界の外に放逐された。

 それは天界に残しておくには、あまりに危険だったからである。

 二人の超越者が全力を込めた力は、超新星爆発どころではすまない。

 やがて白銀の球はビッグバンを引き起こした。


 宇宙創世の光である。

 センゴクの力が、ヨシュアの奇跡が、新たな宇宙を、世界が作り出したのだ。

 

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