巨大な偶像
「慰問ってなんだ?」
こっそりと弟の裕に、幸彦はそう尋ねる。
「苦労している人をねぎらったり、励ましたりする事だよ。飢餓で苦しんでる人を応援するって事じゃない?」
それに対して裕も質問に答えるべく、声を小さくしてそう答える。
「はあ」
良くわからず、幸彦は間の抜けた声でそんな返事を返した。
自分がねぎらってもなぁ……と言う感覚がある。お腹がすいた状況で、自分みたいな人間が元気を出してと言ってきても腹しか立たないような気がしたからだ。
だがリリィには考えが有るようで——それが誰から教えてもらった意見なのかは、ある程度透けて見えていたが——言葉を続ける。
「いま、民の心は不安で一杯です! 蜜の収穫が少ない事は知られています。そして巨人の世界の蜜を買うにしても時間はかかります。ならば今ある蜜を理性的にやりくりする必要があるそうです!」
あるそうですと言ってしまったリリィでは合ったが、言いたい事はともかく伝わる。
裕も心配していた食料危機に起因する二次被害の抑制をしないと行けませんよと言う話の一つなのだ。
「……巨人が慰安する事で安心感を与えるということだな?」
王の言葉に、お姫様はそうだとガッツリ頷く。
「そうです!! 巨人が助けてくれると知れば、皆安心するはずです」
なるほどと幸彦は合点する。確かに不安に思う人が居るのもわかる。
このままでは、この先食べ物が無くなってしまう! と不安に思っている人間に、大丈夫ですよー、食料は何とかしますよーと言うお知らせをすると言う事だ。
そうすれば食料の事に関しての考え方や、不安も収まる。冷静で落ち着いた対応を皆が取る事が出来れば、いろいろな面倒ごとは発生しにくくなるだろう。
限定の商品が有れば奪い合いが始まるが、全員に行き渡るとわかっていれば、礼儀正しく列に並ぶ……とまあ、幸彦がイメージしたのはそう言う事だった。
なるほど、わかりやすいじゃないかと幸彦は納得し、それが必要な事も理解する。
「よし、それは俺がやる」
裕と同じように……けれど、元気よく手を挙げて幸彦はそう言った。
その同意の言葉にリリィの顔がパッと明るくなる。
「ありがとうございます! 幸彦様!」
「正直、俺はあんまり商売とかはわかんないからな。でもそれなら俺もできそうだ。何が出来るってわけでもないけど、顔見せて大丈夫だって言えば良いんだろ?」
なっ? と横に座っていた裕に確認するように幸彦は尋ねる。
それに対して裕はふむと顎に手を当てて頷いた。
「確かに……そういうのも必要かもしれないね」
考えてはいなかったが、中々的を得た意見であると思う。実行案としても中々のものだ。
巨人の存在はインパクトが有るのだろうと言う事は、何となく理解できる。
それが大丈夫ですよと言うのは安心感に繋がるだろう。
本当に大丈夫であるかは……不確定なのが玉にきずだが、本当に大丈夫かどうかはわかりませんが、現在努力中です。と正直に言うよりは不安を与えないのは間違いない。
食料の奪い合いが行われた時点でその対処も必要になってくる。それよりもそうした行為が行われないように予防策をとるのは有益かつ有効な行動だ。
「巨人の協力を得られてると示す事は、必要な事です。百聞は一見にしかず、巨人が直接慰安するというのは民の理解を得られるでしょう」
リリィの発言を援護するようにアルマもそう言って同意する。
なるほど、必要な事だろうと王自身も思案する。
問題を抜本的に解決する手段を蜜の入手であるとするならば、問題がこれ以上広がらないようにする防護案は巨人の慰問だということだ。
姫を生け贄に差し出すと言うパフォーマンスの上位互換とも言える案だ。
お伽噺と思っていた存在が現れて、大丈夫だと言えば……なるほど、納得する気持ちも理解できる。
同時に王はリリィの事も考える。リリィは国の人間に慕われている。巨人と一緒に行動させれば、巨人と王族の友好性を示す事にもなるだろう。
雨振って地が固まるというわけではないが、先日の騒ぎがあっても巨人は王族の味方であると示す事も出来るかもしれない。
父としては愛娘の近くに、目の前の巨体が有ると言うのは不安を抱かないではない。少し事故が有れば——例えば転んだりしたら、娘が下敷きになってしまうのではないか——と言うような懸念もあるが、それはそれ。これはこれだ。
「これも頼めるか?」
アルマに視線を送ると冷徹の異名を持つ優秀な彼女は頷いてみせた。
「では、姫リリィの案も採用する。その指示権もアルマ卿に一任する。リリィ、お前は巨人と共に民の心の平穏の為に行動しなさい。くれぐれも勝手な事はしないように、よいな?」
釘を刺す王の言葉にリリィは張り切って返事を返す。
それを眺めながら、幸彦は「でも励ますってアイドルみたいだな」と呟き、自分がアイドルって顔かと内心で呆れ……自然と苦笑した。




