段取りを考えるものども
上手く行く……の定義さえもモヤモヤしている。だが、言わんとせん事は全員に伝わった。
巨人がここに居るのはそう言う事で、人を束ねる役職が有るのも結局はそう言う事だ。
上手くやるのだ。いろいろと。
「……おっしゃる通りだ。ではそのように我らも努めよう」
王は疲れた顔でそう言って、背もたれに体を預ける。
「お二人の提案はアルマ卿を通じて聞いている。その後こちらはこちらでその提案を踏まえて会議を重ねた。その結果とこちらから要望を交えてお話させていただきたいがよろしいか?」
レイガスター王の言葉に幸彦と裕は頷く。
「感謝する。ではアルマ卿、後はお願いする」
王はそう言って目配せを行った。それにアルマは頷き、立ち上がる。
「それでは……まずは現状の確認から。現在、我々は食料危機にみまわれております」
後を引き継いだアルマが良く通る声で説明の言葉を口にする。
「蜜を新たに収穫するのには少なくとも後三ヶ月は掛かります。これは早摘みの蜜の収穫を見込んでの話となります」
その言葉に集まっていた妖精達はそれぞれウムウムと頷いた。
「問題をわかりやすくするならば、この三ヶ月の間を乗り越える為に不足分の蜜。これを入手する事がまずは第一目標となるでしょう」
アルマの説明には裕も頷く。事前に話を聞いていた通りの事だ。
「まずはこれに対する対処と致しましては、こちらにおられる、幸彦殿、裕殿の巨人両名にご協力いただき、巨人世界の蜜を購入すると言う形を取る……と言うのが基本的な考えとなります」
リリィもその言葉にそうだとばかりに力強く頷く。
「ただし、我々の通貨そのものでは巨人の蜜を購入する事は出来ません。これは我々の世界の紙幣……つまりは経済を混乱させない為の処置です」
アルマは流れるような発言を一旦切って、唇を下で湿らせる。
「故に、なにか物資を巨人両名に提供。これを巨人の世界で売買していただき、その売り上げをもって、必要な物資の購入に充ててもらう……と言うのが巨人から提案を受けた案となります。私個人からも言わせていただきますが、この案は非常に合理的です」
おおよそ、先日話したことをなぞる形で、アルマは妖精側の基本的な方針を説明する。
それに対して、椅子に座っている年配の妖精が一人手を挙げる。
「よろしいかな?」
「どうぞ、ヴアマール卿」
「我々は小さい。巨人のお二人にお聞きしたいが、蜜の援助はそれほど難しいのですかな? 蜜は欲しいが、その為に我々の資源が大量に国外に持ち出されれば、私どもの生活は危うくなります」
その質問に裕は頷き、アルマの方を一瞥する。それに対してアルマは静かに頷いてみせた。許可を得た裕はその質問に答える。
「先ほどの質問にお答えします。まず、私とこちらに居る兄は出来うる限り資源が高く買われるように努力します。そして手数料を取るような事もするつもりは有りません」
その言葉に妖精達からは「おお」と言う感嘆の声が漏れる。
「労力は無料奉仕……あるいはこの危機が落ち着いてから、改めてと言う事です」
「危険が落ち着くと言うのはどの段階を言っておられるのですか?」
一人の妖精が手を挙げて、そう質問する。
「三ヶ月。つまり早詰みの蜜が取れたころが一つの目安であると考えています。ただ——」
裕はそこで一旦言葉を区切った。言うべきかどうか少し悩み、言葉を付け加える。
「早摘みは早く取れる分、収穫量は落ちると聞き及んでいます。であれば結果として、全体の収穫量は落ちる事でしょう。その場合にはお手伝いを延長する事も考慮しています」
妖精達は顔を見合わせ、ざわざわと話し合う。
裕の言葉を聞いて、アルマは感心していた。そして巨人が本気でこちらの事情を汲んでくれている事をありがたく思う。妖精二人、ミルラとアンディから話を聞いて、こうした問答を予想してきていなければ今の発言はあり得ない。
「我々から要望を告げてもよろしいですか?」
裕は小さく胸の前で手を挙げて、発言の許可を求める。何かルール的な物は学級会のそれと変わらない。
「ええ、お願いします」
「では……我々は巨人の中ではごくごく一般的な、それも学生……いわゆる子供であると言う事を先に知っていてほしいのです」
その裕の発言に妖精達のザワザワ声はさらに大きくなった。
「個人的な手伝いの範疇を越える場合には巨人の国との交渉となります。そうなった場合、どのような結果がこの国に起こるかは私の想像の範疇を越えます。お約束しますが、私たち二人の能力を超えなければ、私たちは妖精の存在を他の巨人には伝えません」
裕の言葉に妖精達の幾人かが手を挙げる。
「どうぞ、ファミファ卿」
アルマがそうつげると、手を挙げていた一人である太った妖精は口を開く。
「能力を超えるとは例えばどのような事ですかな?」
「具体的には金銭的な援助です。私たちが個人的な采配で使える金銭は非常に少なく、また借金の申し入れなどには対応できません」
「……我々では巨人の国との交渉は難しいとお考えですが?」
「私としては自分たちは理性的であると思っています。ですが一度関係を結べば、今後の関係は続くと考えていただく事になるのではないかと思います。むしろ、これに関しては選択肢はあなた方にあります。そうなった場合、援助を受ける事は可能かもしれません。ですが、その結果が今後どうなるかは分かりかねます」
「あくまで我々に選択肢が有ると?」
「そうです。私たちは善意であなた方を助けます。それ以上を求めるのであれば、出来るだけ手を尽くし、国家間の交渉が出来るように頑張ります。繰り返しますがそれを選ぶ選択肢はあなた方に有ります」
次々と上がる質問に裕は出来るだけ真摯に答えて行く。その度にざわりざわりと周囲の声は大きくなる。
実際の所、この話はある程度妖精達に伝わってはいた。だが、その考えはまとまっては居なかった。
国同士の結びつきを求めた方がよいとする意見もある。巨人からの干渉は最低限にすべきだと考える者も居る……現状、答えはまとまってはいない。
「これに関してはあなた方が相談して決めていただきたいと言うのが私からに要望です。同時に連絡をスムーズにする為に私たちとの交渉役を決めていただきたい」
毅然とした態度で裕は最期に要望を伝える。内心では余計な事を言ってしまったかなと少し後悔していた。発言としては交渉役を作れで十分であったかもしれない。
裕の要望に答えたのは褐色の鎧を身に着けた妖精の王だった。
「余の権限を持って、その交渉役の代表はアルマ卿に一任する。合わせて、余の名代としての権限を与える事とする。その権限の範囲は……アルマ卿、どの程度が妥当か?」
まるで示し合わせてあったかのように、アルマはその問いかけに滞ることなく答える。
「巨人への対応のすべて。加えて飢餓対策の指揮権および決定権を頂ければ」
「よろしい。加えて、飢餓対策には第二、第三、第四騎士団を編入させよ、申請があればさらに増やす事も視野に入れる事とする」
王の発言に妖精達がひときわ大きくどよめいた。
騎士団の数は六つ。その内の三つが臨時に編入されると言うのはかなりの数になる。
「そ、それはさすがに権限として大き過ぎるのではないですかな!?」
一人がそのように声を上げるが、王は静かに首を振る。
「理由は二つある。一つは物資の移動がかなり必要になる事だ。万事上手く行くとは限らんが……蜜は巨人の国から、この国中に配られる事になる。それを考えると、騎士団の人員は不可欠だ」
「それは……そうかもしれませんが」
モゴモゴと言葉を漏らす部下に妖精の王は説明を口にする。
「二つ目は治安の維持の為だ。お二人には……協力してもらう事になるが、それは彼等がある程度はこの国で行動すると言う事になる。護衛もそうであるし、また国民への配慮も必要になるだろう」
王はそう言って、静かに首を振ってつづける。その口ぶりは滑らかで、それはもう事前に決められていた事は明らかだった。
「何が必要になるのかわからんのだ。柔軟に対応する為には権限を多く渡しておくのが良策であろう?」
「それは……そうかもしれませんが」
「無論、アルマ卿は文官であるから、兵の運用はわからぬだろう。ゆえに将軍達の協力も必要になる。ここは国民を守るため、協力し合い、一丸となってほしいと言うのが私の考えだ。何か異論の有る者は居るか?」
王の問いかけに、将軍の一人やせ形の男性が手を挙げる。
巨人が来る前に王と話していた、戦争時には王の右腕とも言われていた老人だった。
「よろしければ私がアルマ卿の下に付きましょう」
あっさりとしたその発言に再び妖精達はどよめく。
そんな様子を幸彦はよくわからんなーと言う視線で眺めていた。何かぽんぽん決まっているのはわかるのだが、いまいち何が行われているのかはわからない。
わからないが、別にわからなくてもいいか……と幸彦は思っていた。
と言うのも幸彦には飢餓を何とかできるイメージが全く湧いてこないからだ。
食料が足りないなら、それを持ってくれば良い。幸彦の想像の限界はその程度だ。
実際には食料をどのように分配するか、その方法や手段を考えなくてはならないし、効率よいやりかたも考えなくては行けない。やらなくては行けない事は山ほどあるのだ。
故にその横に座っている裕はその話し合いで決まってゆく事柄をザッと頭に納めて行く。
読み取れる事は数多い。
文官と武官の違い、今回アルマに与えられる権限が破格である事。将軍が居る事。それがアルマの下に付く事が衝撃的である事。
それから推察する事はもっと有る。
妖精の国……この国以外にも国は存在していること。戦争が無い訳でもない事。文官が権限をもっていることから、ある程度安定している期間が長い事などだ。
(巨人はそれでも居ないみたいだな……外国にも居ないと言う事は、妖精と小人ばっかりなのか?)
裕は疑問に思ったことを用意していたメモ帳にしたためていく。
そして話が長くなりそうなので、途中で口を挟んだ。
「失礼、よろしいですか?」
全員の眼が裕に注がれる。
「すいません。私たちがここにとどまれる時間は長くないんです。先に連絡の方法を伝えておきます」
そう言って裕がポケットから取り出したのは子供用とおぼしき腕時計だった。
「これは時間を見えるように下道具です。これが17時、この文字を描いたら、こちらの世界に来てください」
裕はそう言って事前に書いていた時計の表示を現した紙を妖精達に見せる。
妖精達の何人かがそれをメモしたのを見て、裕は紙を引っ込めて、さらに口を開く。
「それと、おかねになりそうなものを準備してもらえてますか?」
「ええ、準備しています」
「その説明を聞きたいです。とにもかくにも、それが必要ですから」
その言葉に妖精達は、ではしかたがないとばかりに白熱していた話し合いを沈静化させる。
「では準備していたものを運んできてください」
アルマがそう言うと、妖精や地上人たちがあらかじめ用意されて居たものを幸彦達の前に並べ始める。
「あの! 並べる間に、私の提案を聞いてください!」
その隙を見計らい、リリィが元気良く手を挙げた。上層部の妖精達の顔が引きつる。
特に妖精の王の顔は言葉にならないと言った物だった。
だがそれに構わず、呆れる様子でもなく、アルマはあっさりとリリィに許可を出した。
「どうぞ、姫様」
「はい! 慰問をしてほしいんです!!」
リリィは力強くそう言った。その眼には情熱で燃えていた。




