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未知の領域は王様も怖い

「しかし何ですな。トントン拍子で話が進んでしまった感じが有りますな」


長年、王の右腕として職務に励んでいる将軍のその言葉に、朱色の鎧を着込んだ王は全くだと頷いた。


「天下分け目というのかもしれん。どういう形にしろ、ここで行く末が決まるだろう」


「私の仕事は民の粛正ですかな?」


「……暴動の鎮圧だよ。予想できる暴動の鎮圧を粛正だと言うのなら、間違ってはおらんがな」


そう言って王は髭に隠れた口元をへの字に曲げる。


「アルマ卿は話を上手く運んでくれた……が、それでもだ。我々に出来る事は少ない」


「いえいえ、大成功の部類でございましょう。現状は」


「そうだな……何をやっても無駄な可能性があるがな」


王は悲観的にそう言葉をこぼして肩をすくめる。


「……自虐で?」


「そうだ。わしは既に二度しくじった」


王はけだるげな様子で指を二本上げ、指折りながら口を開く。


「一つはあの子を生け贄に出した事、そしてあの子を取り返そうとした事……さらに言えば、あの子を守ろうとした事もだ。三つもある。数も数えられない」


王はそう言って、はぁと溜め息を吐き出す。


その表情は優れず、どこかふてくされたようでも有り……その様子に将軍は眼を芝炊かせる。


他者を引っ張って行く、多少の強引さは有るがそれは王の資質とも言える。若い頃から知っているだけにその落ち込んだ様子はやけに小さく見え、将軍は生きてきた年月を感じつつ、意外だと言わんばかりに口を開く。


「……ずいぶんと気落ちされてますな」


「まあ、な。わしは名君として名を残せないとは思っていたが、だが暴君に成るつもりも無かった。だが、悲しいかな。その才能は合ったらしい……知っていれば、もう少し我が身の有り様も考えたが……この年でやらかした後に気がついても今更遅い」


ひらひらと手を振って、王はやる気無さげに肘掛けにほおづえを付く。


「まだ決まった訳でもありませんでしょうに」


「巨人の庇護にすがれば……だろう。すべては神頼みと言う訳だ。これが王のやる事か……」


その問いかけは王だけの責任ではないと言えた。

だれのせいと言い出せば、もはや誰のせいにでも出来るが、責任は上に上げて行くものだと言ってしまえば……結局は王のせいでもある。


「……全員がそう感じておりますよ。そもそもは天候がもたらした事、神がやった事にあらがえるはずも有りません」


「……神か。あの巨人は神に見えたか?」


「……ではないでしょう。直接話したアルマ卿もそう言っておられたでは有りませんか。あれは体は大きくとも、交渉できる相手だと」


「わしは不安だよ。あれが実は本当に神ではないのかと。王を罰しに現れた使いのように思えて成らんのだ。まったく嫌になる。自分の臆病さに嫌気がさす」


「……いっそ、震えてベッドに寝てしまっては?」


「それでも出来ん。かっこうがわるいと意地を張りたくなる。そんな自分が嫌いで堪らん」


そう言って鼻を鳴らす王に、将軍は笑い声を上げた。


「意地が張れるようなら、まだまだ大丈夫ですとも」


じっさいのところ、状況は悪くないと言う事が出来た。


そもそもすぐに暴動が起きるのではないか……そんな危機的状況は今日の会合で回避できるはずだと言うのが、王と上層部のまとまった意見だった。


最悪の状況は変化する。


だがそれはみんな助かり万々歳と言う訳ではない。


これからは今まで経験した事が無い行動をして行かなければならないのだ。


これまでのノウハウはこうだった。責任を現体制からそらしながら……民を見殺しにする。これだ。


だがこれからは巨人の援助を受けながら、被害を最小限に抑えなくては成らない。


そしてそれはこれまで歴史が保証してくれていた行動から外れる。


誰も上手く行く保証はしてくれない。


一つ間違えば……現体制は烏合の衆にしか見えなくなる。民はそのときどうするのか? 巨人にすがるのか? 巨人はそれを受け入れるのか?


そんな事は誰もわからないのだ。


たとえ……飢饉を乗り越えても、その後王が王として、国が国として今のままだとは……誰も保証してくれない。


「結局、信用の問題か……我が采配も信用できぬのに、なぜ巨人の言う事が信用できようか」


王の呟きに将軍は静かに答える。


「信用は出来ずとも、信頼は王の名に付きますとも。民とて飢えたくて飢えはしませぬ。救われたいのです。王は救う側でなくては」


「……難しいことだ。まま成らぬ。王は誰が救ってくれる?」


「なればこそです」


「……そんなものか?」


「そんなものです。人事を尽くすことにこそ価値がある……と考えるより他有りますまい」


将軍の言葉に王はハアと溜め息をついた。


「結果より経過を見ると言う訳か……わしも年をとったなぁ。保証が欲しいと思うなど」


「……まあ、互いに邪魔だと思えば首をはね合いましょう。剣はいつでも研いでおりますれば」


「……ゾッとする話だ」


王はやれやれと首を振り、げんなりとした顔で収まりの悪いほおづえを付き直した。


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