すすめ、河原道
幸彦はなんだか護衛の妖精との距離を感じていた。
原因は裕だろう。フルフェイスのマスクが思いのほかインパクトが合ったのだろう。
あれはどちらかと言えば鎧の範疇であるので、びびったらしい。
ちなみにM16がどう思われたかは全く不明だ。『あれなんだと思う?』と気軽に聞ける雰囲気ではないからだ。ちなみに銃は入り口においていた。
『これ強制連行みたいじゃない?』と裕は携帯電話で文字を打ってこちらに見せてくる。声を出さない気遣いなのかもしれない。
それに答える為に携帯電話を取り出そうとして幸彦は止めた。
「ああ、まるで強制連行みたいだな」
横にいた裕が驚いた表情を浮かべるが、幸彦は構わず続ける。
「ちょっと兵隊さん」
回りで飛んで回っていた妖精の兵士達がその声に反応する。
「な、何か問題が有りましたでしょうか」
そう言ってくる妖精の距離は遠い。具体的には手を伸ばしても届かない距離だ。
「まず体の回りを飛び回らないでくれ。死角に入られると顔が痒くなっても気を使って掛けない。案内なら俺たちの前を飛んでくれればそれで良い」
幸彦はそう言って前を指差す。指差す方向には、ずっと河原道が続いている。
森の木々をなぎ倒すのも忍びなくて、前と同じように河原から上がって行くようにしたのだ。
「もう一つ、何かするつもりは本当に無いんだ。ただ、何かを踏みつぶすのは怖いから、先行して足下を注意してくれたらいいから」
「はっ、了解です。ゆっくり飛べ、きさまらー!!」
号令と共に妖精達の飛び方が変わる。しばらく眺めているとなんだか大変そうにも見える。
「……もしかして妖精って飛びっぱなしは苦手なのか?」
「というか、低速移動が苦手なのかも。自転車と同じである程度加速した方が楽なのかもしれない」
幸彦の疑問に裕がすらりと予想を口にする。
「お、御気遣いは無用です」
裕と幸彦の言葉に恐縮したように妖精の兵士が口を開くが、幸彦は構わずに注文をつける。
「楽に飛んで、というか道案内も良いから」
「い、いえ、そう言う訳には参りません。任務ですので」
「……じゃあ、せめて楽に飛んで」
「高度を取れ! 旋回、お行儀良くだ!」
羽ばたいて飛んでいる妖精の飛び方が変わる。
その様子を眺めていた裕は感心したようにそれを眺める。
「飛び方はトンボみたいだ」
「……そうだな」
加速するその飛び方を眺めて呟いた裕の言葉に幸彦は同意する。
背筋を伸ばして、ひゅんひゅんと飛んでいる。羽は羽ばたいていたり、居なかったりする。
「ツバメみたいにも見えるな」
その動きを見て、幸彦の言葉に裕も頷く。
「羽は虫みたいだけど……そうとは限らないか。飢餓には関係ないけど、いつか研究してみたい」
河原を歩きながら、裕がそう漏らす。
研究ってなんだと幸彦は思うが、まあ、どんな感想を持とうともそれは自由だ。
歩きにくい河原の道をがちゃがちゃと進みながら、幸彦は口を開く。
「研究って言うと悪役みたいだ」
「マッドサイエンティストはマッドだから悪役なんだ。サイエンティストは立派な職業だよ。人生ゲームの職業欄にもある」
「あったか?」
「なかったかもしれない、でもそう言うのは大事だよ」
裕はそう言って適当に笑った。それに答えるように幸彦も笑う。
「人生ゲームが?」
「……まさか、ちゃんと調べる事がさ」
敵を知れば百戦危うからずと言おうとして、裕は口を閉じた。妖精が飛んでいる中で言うのは、いささか不適切だと思ったからだ。
「あと、どれくらい歩くの?」
代わりに裕がそう尋ねると、幸彦は河原道の先の方を見つめて口を開く。
「一時間と少しだ。夕飯前には帰りたいな」
「……結構長いね」
「ハイキングみたいなもんさ……100円ショップで温泉の元も買って来たんだ」
「そりゃ、いいね……筋肉痛も吹き飛ぶよ」
裕はそう言って肩をすくめ、王都までの道のりを歩いて行く。
予定通り小一時間も歩くと王都前の橋が現れた。どっしりした橋を指差して、幸彦は口を開く。
「裕、ああいうの好きだろ」
そう言った視線の先には裕がどんよりとした表情を浮かべていた。
「きつい……」
裕は絞り出すようにそう漏らしながら眼鏡を外して、汗を拭う。
「そうか?」
「僕はスポーツはサバイバルゲームしか興味を持った事が無いんだ」
「……荷物もって走るんだから、ハードだと思うけどな」
「だから僕はディフェンス役しか、しないんだ。そして走らないから、すぐやられる」
「……まあ、楽しみ方はそれぞれだけどな」
「でもこの往復はキツいだろうね。蜜の持ち込みの方法も考えるべきだ……。瓶は割れるかもしれない……」
ぜいぜいと息を吐き出しながら、裕はそう呟く。
「そうだな……いろいろ有るよなぁ」
「まあ、僕らの考える事じゃないけどね」
裕はあっさりとそう言って、どっしりとした橋を眺める。
「でっかいなぁ……妖精のサイズじゃなさそうだ」
「この橋は最初に巨人が作ったものだと言う伝承が有ります」
飛んでいた兵士がそう説明してくれる。
その言葉に裕はなるほどと頷いた。
「前の人か。一日二日の仕事じゃないね……上手くやってたのかもしれない」
「仲良くしてたんだろうな」
腰に手を当てて、橋を眺めている幸彦の言葉に、裕は静かに首を振った。
「かもしれない。でも、もしかしたら金銭的な繋がりが合ったのかも」
「……どういうことだ?」
「橋を造る代わりに何か貰ってたかもしれない。何かは判らないけど、それが金銭に替えられるなら僕たちもそれで蜜が買える。記録とか残ってれば良いけど」
現実主義な裕の言葉に幸彦は夢が無いといった表情でやれやれと頭を振った。




