ご兄弟、入国です
電気基礎の小テストが終わり、裕は電卓を片手に簡単なシミュレーションを行う。
食料が100ある。1日1人1使う。1人であれば100日持つ。100人なら1日持つ。
そんな風に考えたときに妖精の国が三ヶ月生きて行くのに必要な数は?
32万5千の民が90日生きて行く。
シンプルに考えれば2925万の食料を必要とする。
だが現状、1万2千人が死ぬと言う。
「つまり……2817万の食料は有る訳だ」
現実、こうだとは思わないが、考え方に添えばそう言う事だ。
29,250,000に対して
28,170,000しか無い
1,080,000の食料が不足分。
「妖精が生きて行く為に必要なハチミツは一日3グラム……つまり計算上の食料1はハチミツ3グラム相当……だから必要なハチミツは3,240kg」
ハチミツの大きな瓶は1kgだから、単純に3,240本のハチミツが居る。
ちなみに一瓶700円なら、226万8千円。
百万円が二つ。
十万円が二つ。
一万円札が六枚。
そして僕達が準備できるのは15万円だ。
ハチミツ換算で214瓶。
だから僕の役目は……この不足分を埋める事。
とまあ……そう思うが他にも考えられることはある。
(二次被害……は有るんだろうな)
あの眼鏡の冷静そうな妖精は1万2千人が消えればと言っていた。
つまり被害はもっと増える……と言う事だ。
考えればすぐに想像がつく。
ご飯が無くなりそう。今はある。だったら人は買いだめをする。
オイルショックでトイレットペーパーが不足するというデマが流れて買いだめをする人も居たし、地震で放射能が漏れたとミネラルウォーターの買いだめによる不足も起こった。
(通貨制度も有るし、蜜の値上がりの概念もある……)
厄介だと裕は思う。
蜜はドンドン値上がりする。低所得者は蜜が買えなくなる。
買えなくなれば、泥棒するひとも増えるだろう。治安はドンドン悪くなる……。
(ってな感じだろうかな……とりあえずは)
裕は自分なりに情報をまとめたノートを、ペンのお尻でコツコツと叩く。
そして現状、この流れは加速傾向にあるんじゃないのか?
眼鏡を外して、眉間を押さえる。
(時間の概念も入ってくる……僕はターン性のゲームをじっくりかんがえるのが好きなんだけどな)
遊び気分かと言われればそうじゃない。
必要なのはシミュレーターだ……予測が出来てない。
いやいや、考え過ぎだ。必要ない、多分……でも兄さんは、うーん。
踏み込みすぎるなと心の声が聞こえるが、あの兄は踏み込んで行きそうだと思う。
考え……とかないとなぁ……。
そんな事を思いながら、裕は指先でペンを回して空白のノートに向き直った。
◇◆◇◆◇◆
放課後、幸彦の部屋で双子は出発の準備を進めていた。
「準備出来たか?」
紺色の長ズボンに水色の長袖のシャツ、足首まである靴を身につけた兄の幸彦がそう尋ねる。
「はいはい。出来てますよ……」
そう答える弟の裕の服装は迷彩色のズボンに、暗いブルーのジャンパー……そして眼だけじゃなくて鼻から顎まで守れるフルフェイスのマスクをしていた。ちょっとした宇宙の戦士って感じに見える。
「それ、どういう格好だ?」
「サバイバルゲームに行く時の格好」
「……戦う格好だな」
「……まずいかな、いざとなるとちょっと怖いね」
裕はそう言って笑い、それを見た幸彦はポケットから野暮ったい眼鏡を取り出した。
「実は帰りに100円ショップで度無しの眼鏡を買って来たんだ」
「……怖がってる姿って言うのは……みっともなく、見えるもんだね」
裕はフルフェイスを付けたままでそう言って、幸彦はそれに面白くなさそうな表情を浮かべる。
「みっともないとか言うなよ、裕だって眼鏡ぶっ壊されてるじゃないか」
「兄貴の腕は包帯巻いてるしね」
「友達から邪気眼って言われたよ」
そう言われた裕はフルフェイスのマスクを外す。
「マスクは置いて行くよ。眼鏡で十分だろうし」
裕はそう言って机の上にマスクを置いた。
「じゃ、いくか」
「エアガンが欲しくなるね」
「やめとこう、誤射で戦争だ」
「……だね」
幸彦は先導する形で四つん這いになって、額縁の中へと入る。裕もその後に続いて額縁の中の通路に入る。
「ここで屁したら怒るよな?」
「やめてよ!」
穴の中の空気はどこか湿っぽく、あまり良いとは思えない。手足を動かし、先へ先へと急ぐとすぐに出口が見えて来た。
「ほっ」
顔を出すと妖精の一団が待ち構えていた。
鎧を着て、全員が身構えている。
思わず幸彦は顔を引っ込めた。
「ぐぉ」
お尻の所からうめき声がした。
「バックしないでよ!」
「さがれさがれ!!」
幸彦は胸のポケットから慌てて眼鏡を取り出して叫ぶ。
洞窟の外はなんだかガヤガヤ言っており、幸彦は意を決して顔を出した。
「攻撃は止めろ!」
幸彦が眼鏡を付けて叫ぶ。
それに対して妖精の兵隊はオロオロと顔を見合わせていた。
しばらく間があり、兵隊の代表らしき者がテントから飛び出してくる。
「攻撃の意図はありません。お迎えに上がりました!」
「……本当か?」
いつでも眼を庇えるように眼鏡の隙を指で覆いながら幸彦が尋ねる。
「本当です」
「……じゃあ、武器を捨てて」
「誰だ、武器構えてるやつはぁ!! すてろぉ!」
その人が叫ぶと回りに居た兵隊達はわたわたと武器を放り投げた。
幸彦はそれを眺めていた。
意を決して外に出る。
それからしばらくは妙な緊張感が合った。
互いにその場から逃げようとする緊張感だ。
じっとりと汗をかき、幸彦は肩の力を抜く。
「大丈夫、攻撃しない。弟を呼びたい、二人になるけど問題はない?」
ザワリと場が騒ぐ。
「問題有りません。そのように聞いておりますので」
「わかった」
幸彦は洞窟に向かって呼びかける。
「裕、大丈夫だ。問題ない」
しばらくしてモゾモゾと裕が顔を出した。エアーガンのM16で武装した状態で、顔はマスクで見えず宇宙戦士みたいだった。




