お昼は考える時間
社会の時間が後半に入り、先生の雑談が始まった所で幸彦はいろいろと考えていた。
漠然とした事であるが、妖精を助けるにはどうしたら良いかと言う事だ。
とはいえ、当ては無い。
とはいえ、考えずにはいられない。
ノートに落書きをしながら、あれこれ考える。
一つにお金である。無理である。
二つには現物であるが、無理である。
うぬぬと幸彦は声には出さずに唸る。
(時間がないって言ってたからなぁ)
求められているのは即効性のあるアイディアだ。
ハチミツ泥棒かなぁ?
思い浮かべて無理そうだなと諦める。熊じゃあるまいし……とも思うが、今の所一番のアイディアでもある。
しかしいかんとも蜂に対抗する装備も無い。長袖長ズボンではどうにもならない。
あるいはどうにかなるのかもしれない。試すのはちょっと怖い。
捨てちゃう、甘いものってあるのか……?
蜂の巣とか? 砂糖も大丈夫だったら、さとうきびの搾りかすとか……。いや、賞味期限が過ぎた砂糖とか?
砂糖って腐るのか? 塩は腐らなさそうだけど……何となく、砂糖は腐りそうな……そうでもないような。
そんな事をあれこれ考えていると、先生の言葉が耳の中に滑り込んでくる。
「———というわけで、公共事業は善し悪しがあるわけだ。特に現代は土木作業であろうとも専門技能が必要となる。単純な労働力が求められていた時代とはまた違ってくるわけだ」
不景気の話をしているらしい。
ふと思いつき、幸彦は手を挙げた。
「んっ? どうした。えっと、吉崎」
「飢饉の時ってどうすんですか?」
あまり質問をしない幸彦の質問に先生は感心したように頷いた。
「ふむ、飢饉か。不景気ってのは金がない。飢饉はそれこそ食料が無い状態だ。こうなってくると外から運んでくるしかない。天明の大飢饉と言うのが江戸時代の中期に合った。これは複数の火山が噴火する災害も重なって、全国的な被害を受けたんだ」
教壇の上の先生はそう言って、黒板にかつかつと絵を描き始めた。
「金がないのと、食料が無いのとでは話は全く違う。言い換えれば、金がないと言うのは仕事が無い。仕事が無いから生活する金がない。と言う訳だ」
そう言って先生が書いたのはお米らしき物だった。
「仕事が有るなら、働かない者が飢えるのはもう個人の問題だ。だが社会的に仕事が無いのではそれは行政に問題が有ると言える」
先生はそう言って先ほどまで書いていたのだろう公共事業と言う言葉をチョークでかつかつと叩く。
「だが飢饉は基本的にこれらの考え方とは違う。働いたが、天変地異であるべき食事が無い状態だからな。ではどうするか、というと食べられる物を食べるしか無い」
お米に罰印を書き、葉っぱを書く。
「江戸時代には飢饉対策の「かてもの」という非常事態に食べるもの。その調理方法などが記されたマニュアルもあったそうだ」
なるほど、別の食べ物……妖精の世界に有れば、それもありかも。
「まあ、なってしまうより事前準備の方が重要だ。とはいえ、現代は物流が発達し、そうしたことも無くなった。世界中で飢饉が起こることはまず無い。とはいえ、地球温暖化などの———」
雑談が地球環境に関する事に移って行くなかで、幸彦の考えはまた別の方向へと走って行くが特にまとまると言う事は無い。
ただ飢餓は大変だと言う事はまた何となく理解し直した。
一方、同じ時間。
城へと戻ったリリィは自分の部屋の立派なベッドの上であれこれ考えていた。
と言うのも彼女は役に立ってないような気がしていた。
交渉ごとはアルムに任せっぱなしである。むしろ邪魔扱いされている。
(いけません。私も何かしなくては!!)
グッと拳を掲げて、天を仰ぐが、力なく眉根を垂らし、掲げていた拳がするりと下がる。
「でもなにすれば良いんでしょうか?」
うーんと、唸る。
何もしないのはやっぱりちょっと違うんじゃないかとリリィは思っていた。
昨日の話で自分に出来る事は何も無かった。
恩返しをする事……それが自分の役目のように思っていた。
「でもどうしたら良いんでしょう?」
首を傾げる。
生け贄ですと行くのは、考えてみれば気楽だったような気がする。何が出来るかはわからないが行けば良かった。だが役に立ちたいと思えば、それはなんと言うか……。
「私、特に何が出来る訳でもないですし」
ゴーンと音がしそうなほどリリィは肩を落とす。
頑張れば何とかなるなら、それはまあ、頑張るのだが……。
「お片づけとかでしょうか……」
頬に手を当てて、自分が働いてる姿を想像する。
……それで喜んでもらえるのなら良いのだけれど、命の恩人にするのとはなんだかちょっと……地味?
「そんな事言ってる場合でもないのかもしれませんけど」
うーむと唸っていると部屋のドアがノックされる。
「あのー、お嬢様、アルマ様がお越しになっているのですが」
ドアの向こうからメイドのユフィの声がそう言った。
「はい、どうぞ」
返事を返すとドアが開き、そこから姿を現したのはやや青い顔をしたアルマだった。
アルマは「失礼します」と言ってドアを閉める。
それをサッとユフィが遮った。
背の高いアルマが、冷血な瞳でユフィを見下ろす。ユフィは喉の奥で「ひぎぃ」と悲鳴を上げたものの足を引っ込めはしなかった。
「姫様、人払いを御願いしたく」
「わかりました。ユフィ大丈夫ですよ」
リリィがそう声をかけるとユフィの足が引っ込み、アルマは扉を閉めた。
「大丈夫ですか? 顔色が悪いですけど」
「少し徹夜を……ずっと会議をし続けてましたので」
アルマはそう答え、頭を軽く振る。
「出来る事が急に増えましたから、考えが広がりすぎまして。ややとりとめも無いくらいです」
「そうですか……私は逆に何をすれば良いのかわかりません」
しょんぼり肩を落とすリリィにアルムは掛けていた目を光らせる。
「そう言う事でしたら、私に案がございます。それをお聞かせしたく」
「本当ですか!?」
アルマの言葉にリリィは弾んだ声を出した。
役立つかどうかはさておいて、彼女は彼女で頑張る方向性を掴んでいた。




