親知らず、子知らず
城の最上階のバルコニーでは妖精の王と、将軍を始めとした代表者が巨人の動きを見つめていた。
巨人は必死になって叫んでいる。その声の中にはリリィと言う呼び名が合った。
「……リリィと言うのはリリララノナ様の事でしょうか?」
誘拐されたと叫ぶ巨人の声に将軍が王に訪ねる。
「自分のものだとでも言いたいのだ。そうはいかん、大切な娘をやれるものか」
王は憎々しげな声でそう発し、巨人を睨む。
巨人とはいえ、若く見える。まだ子供だと言って良い。しかも男だ。
リリィは親の目からも美しい。亡くなった妻が「気品が、王家の格が」と嘆いていた事も知っているが、父親の目から見ればかわいく思える範疇だ。
何よりもかわいい愛娘だ。馬鹿な子ほどかわいいというではないか。
幸せになってほしいと言うのは嘘偽りの無い気持ちだ。だが花よ蝶よと愛でていても、彼は王だった。
役に立つと思えば、使わねばならない。それが実の娘であろうともだ。
リリィが自身の無力さに打ち拉がれていることを知っても、巨人の生け贄にしたのは”巨人がいない”からこそだ。もしいると知っていればそんな事はしなかった。
たかだか村一つを救う為に愛しい娘を捧げるものか。
「絶対に渡さん。渡さんぞ、巨人め」
深い皺の浮いた顔を歪めて王は目を血走らせてそう呟き、マイクを再び口元に向ける。
『警告する、即刻この場から立ち去り、未来永劫この地の踏むなどと考えるな!!』
その力強い王の声に城から再び戦士達の咆哮が上がった。
しかしその咆哮が別の声に遮られる。
『止めてください! お父様!!』
バルコニーの下から飛び出してきた人影の発した綺麗な鈴の音のような声が王の町に響き渡った。
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もう、どうしたものかわからない。
幸彦はとにかく狼狽えていた。それでも心が折れていなかっただけ、立派だと言ってよかった。なにせここまで強い拒絶をされるとは思っていなかったのだ。
けれど彼は想定していなかったが、そうなる予兆がなかった訳ではない。初めて妖精の国に来た時、小人達は幸彦の姿を見た瞬間に全力で逃げ出した。
なぜかと問えば理由は単純だ。
見上げるような巨人の姿が恐ろしくない訳が無いのである。
『警告する、即刻この場から立ち去り、未来永劫この地の踏むなどと考えるな!!』
攻撃までされて、ここまで言われて、引き下がれるものなら喜んでしたい。
幸彦はそう思っていた。そう出来ないのはリリィの事があるからこそだ。
リリィが攫われた。たった一晩の付き合いだが、彼女が優しい事を幸彦は知っていた。誰かの為に泣いていた姿を見た。だから助けたいと思った。
そんな人が攫われたのだ。助けなくてはならない。
とにかく絶対に助けねばならないのだ。
その考えが幸彦の足を踏みとどまらせ、喉が枯れても構うものかと声を上げていた。
だがそこに聞き覚えのある声が聞こえた。
『 止めてください! お父様!!』
その良く通る綺麗な声に幸彦は目を見開いた。どこから声がしたのかはわからない。
だが今聞こえた声はリリィのものに違いなかった。
「リリィ!!」
幸彦が叫ぶ。その声に答えるかのように中心部にそびえ立つ城の一番上の方で金色の何かが翻った。
その距離は百メートル以上はある。その先にいる二十センチの姿は点のよう見えるだけだ。だからそれはほぼ勘だ。しかし、幸彦はあれはリリィだと確かに感じた。




