目を見張るジオラマのような町
……なんだったんだ、いったい?
まあ、妖精の国なんだから不思議なことが起こるのも変じゃないけど。
パンツ一丁の妖精達が散っていったのを見逃した幸彦は彼らが残していった火種を踏みつぶして消してあげていた。
「巨人を見てびっくりしたんだろうな……こっちの人は小さい人ばっかりなんだろうか?」
何はともあれ、また河原を歩くしかないと歩いていくと、見事な人工物が目に入ってきた。
いわゆる橋だ。長さは三十メートルはある。
「時代劇とかの橋みたい……」
木で出来たその橋を見て、幸彦は感心する。妖精や、小人というからなんだか不思議な生活をしているんだろうと思っていたが、そうでもないらしい。
その考えが間違っていなかったと感じたのは橋に近づいてからだった。
森が無くなり、畑が姿を現したのだ。
最初は地面がむき出しになって居るだけだと思ったそれは畑に間違いなかった。
掘り起こされた茶色の地面。よくよく見ればそれは小さな凹凸が溝のようになっていて、幸彦は昔博物館で見た洗濯板を思い出していた。
「畑もあるのか……妖精って言っても、そんなに変わらないのかな?」
花の蜜を食べるとリリィは言っていた。
そう言われたときに幸彦が思い描いたのはミツバチだった。そこら中を飛び回って花の蜜を集めてくるのだ。しかし考えてみれば、妖精はそれで良いかもしれないが羽のない小人はどうしているのか謎だった。
しかし畑があるとなれば話は別かもしれない。木だって小さいのだから、花もきっと小さいに違いない。
道路だって……さすがにアスファルトじゃなくてむき出しの地面だけど、綺麗に舗装されてるし、意外と都会なのかも。
ちょっと楽しみにしている自分の頭を振って考えを改める。
しっかりしろ、俺。リリィを助けにきたんだぞ。楽しみなんてしてる時じゃない。
幸彦は拳を握って気合いを入れて、緩やかに右回りになっている通りを進んでいく。
左手には畑が広がり奥には森。右手には同じように畑が広がり、そのお国はちょっとした丘がある。木の種類はよくわからないが伸び方がまっすぐで杉のようにも見えるが、何かが違うような気がする。
幸彦自身、そんなに植物には詳しくない。
杉のことだって、叔母が花粉症で花粉注意報を発するテレビに向かって、中指を立てて発狂したのを見て覚えていただけだ。
ちなみに叔母が発狂したのは幸彦の知るかぎり、自分が面倒を見ていたアイドルが不倫報道をされた時と、花粉のニュースが流れた時と、自分に歌の特訓をした時だ。
最後にあげた自分の音痴に対する罵声が一番ひどかった。幸彦のトラウマである。
話によると、仕事を辞めるかどうかすら悩んだらしいと聞いたのはずいぶん後のことだ。
「……妖精も花粉症になるのか?」
ふとわき上がってきた疑問に首をひねった時だった。
それが見え始めたのは。
「おおー」
思わず声が漏れるくらいにはその光景は目を見張る物があった。
大きな大きな人工物の固まり。ミニチュアのジオラマ。
目に入るいっぱいに広がる人口の町を前にして幸彦は目を丸くしていた。
妖精のおじさんの言っていた事は間違いではなかったらしい。なるほど、これならすぐにわかる。
歴史の教科書や、映画で見る西洋の町のような石造りの家や、木で造られた家が多い。
今歩いている地面の道が途中から石畳になり、大きな通りが中心にあり、左右には建物が並んでいた。
町の至る所には塔のようなものが建っていて、異様に高い三本の白い塔がその中でも目を引く。
しかし一番目立つのは中心に建つひと際大きな建物……中心の街道の突き当たりにあるおそらく、お城だろうと思われた。とにかく他の建物とはまるで存在感が違っている。
石の壁に覆われ、灰色と土色の壁は見るからに重厚な作りをしている。入り組んだそれのあちらこちらで赤く大きな旗がたなびいていた。
少なくとも、ここだったらリリィの事も聞けるだろう。
意気揚々と幸彦は足を進めていく。何はともあれ、リリィを助けなくては行けない。
しかし。
『止まれ、巨人』
鈍く響くような大きな声に幸彦は足を止めた。
「なんだ?」
思わず小さくそう呟くほど大きな声だった。
左右を見渡しても声の主はおらず、後ろを振り向いて上を見上げても誰もいない。
首を傾げながら前を向くと声が再びした。
『警告する、このまま引き返したまえ』
再び声がする。次はその声が王城から聞こえたのだとわかった。
『君は領地を侵している。即刻引き上げろ、さもなくば武力を行使せざるを得ない!』
こうして幸彦は呆然としたまま、警告を受ける事になった。




