巨人、接近。
良く照った太陽。青く澄み切った空。
左には緑溢れる自然が広がり、右手には河原が広がっている。耳を澄ませば水のせせらぎが聞こえてくる。
それはちょっとした癒しの旅のようである。
しかし実際はそうではないと幸彦は気を引き締める。
妖精のリリィが攫われたのだ。
これは救出劇だった。敵はどこに要るかわからない……だが、しかし、どうにも。
幸彦は額に吹き出してくる汗を拭った。
暑い。
体中から吹き出してくる汗は止まる気配を見せてくれなかった。
最初は敵が要るから辛抱しなくてはならないと思っていた幸彦も、我慢できずにダウンジャケットを脱いで腰に巻いていた。マフラーも、マスクも、そのポケットの中で、日差をさける為の野球帽すら煩わしく感じ始めている。
昨日の事を、なんだかずいぶん前の事のように思う。
隣のおじさんに洋館を見てくるように頼まれたときは、まさかこんな事になるとは微塵も思っていなかった。
妖精だ、飢餓だ、生け贄だ、と考えた事もない問題のカーニバルだ。
さらに誘拐と救出をしなければならない。問題のカーニバルは現在進行中だ。
「裕は信じてくれたけど……他の人は信じないだろうなぁ」
実際は双子の弟に、頭がおかしくなったと疑われていたともしらず、幸彦は能天気に呟く。
額縁を抜けると不思議の国でした……不思議の国のアリスか。
どちらかと言えば、桃太郎とか、西遊記とか、一寸法師とか……敵をやっつけておしまいの話が好きなんだけども。
「……巨人が現れて、妖精助けて。ハッピーエンドと行きたいところなんだけども」
そう呟いたときだった。
ふわりと何かが香り、顔を川の方へと向けた。
それは火だった。小さな火がいくつも灯り、その周りに男だらけの集団がパンツ一枚で暖をとっていた。
目が合う。
その距離は3mほどだろうか。
無言で幸彦を見ている集団はポカンとした表情を浮かべていた。
なんでパンツ一枚なんだ?
火は照っていて暖かいが、それでも秋である。パンツ一枚は寒かろう。
やや的外れな事を考えていた幸彦は、そうだと思い立ち、軽く手を挙げてそちらを向く。
虫取り網を持っていない方の手を軽く上げて、幸彦はやや大きめで声を出す。
「あのすいませ——」
「ぎゃああああああああああああああああああああ!!」
遮るようにして帰ってきたのは悲鳴だった。
男達は妖精だったのだろう。悲鳴を上げながら、散り散りに飛び去っていく。
「あ、わっ……ありゃ」
四方八方飛んでいく妖精を視線だけで追いかけると一方向に向かって飛んで行った。
視線で追えたのはそこまでで、後にはきょとんとする幸彦と燃えているゴミだけが残されていた。




