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7.地下宮殿

 朝、陽の光と共に目を覚ます。窓から射す強い日差しに恨めし気な目を見せてしまった。

 変な姿勢で眠っていたせいで体が固まっていた。

 長く放置されていた廃城のかびた寝床で眠る気も起きず、部屋の片隅で寝ころんでいたせいだ。


「おはよう、白」

「ん……あと十分……」


 半ば掛け布団のようになった白に声をかけると、お約束のような答えが返ってきた。

 白が掛布団になっていたというか、俺が布団にされていたというべきか。


 部屋の扉からレイスが顔をのぞかせる。半透明の体の周りにほうきやはたきが浮いているのを見ると、掃除をしてくれよう。ということか。

 彼女? にもおはよう、と声をかけると、腰を折って頭を下げたように見えた。

 まだ寝ぼけてる白を連れて、また廃城ツアーを再開しようと思う。


 さて、ひとまずの食糧問題は村に頼ることで何とかなりそうだけれど、飲み水はどうしよう。

 昨日、城の上からみたところ、川が流れるところはちょっと距離が遠い。

 水を汲んで持ってくるのは良いけれど、結構な手間を感じる。


 水のないところで飲み水。と、考えると、井戸、というのが頭に浮かぶけれど、白はそれは厳しいのではないかと言った。

 考えてみれば当たり前のことだけれど、井戸から水を得るには水源まで掘らなくてはいけない。

 山頂は水の貯まるようなところはない。それはそうだ。水の通るスタート地点だもの。


「一般的に、山にある城ってどうやって水を確保していたの」

「雨水を貯水しておく設備が一般的。西洋ならシスタンと呼ばれるような貯水槽とか」


 長い間放置されていた廃城の貯水タンク。とても飲めるようなものだとは思えない。

 なんとか掃除をするにしても、雨が降らなければしばらくは使えないということか。

 白の話から当たりを付けて、迷路のような城を探索する。


 廃城には意外と同居人たちがいると思ったけれど、城の主がやってきたことで、この城は活気を取り戻しているようだった。

 レイスたちはあちこちの掃除に駆け回り、スケルトンたちは壊れた壁や設備の補修に大忙しの様子。


「なんか働かせるのも申し訳ないような気がしてくるんだけれど」

「そんなことないよ。役目を持ててみんな楽しそうだし」


 私も。と白が言いかけていちど言葉を飲んだように見えた。


「私も同じ立場だったら嬉しいかも知れないし」


 そんなものだろうか。

 実際、気さくな様子の不死者たちは、声をかければ手を挙げたり、立ち止まって頭を下げたり、声こそないものの楽し気ではあった。

 死んでなお働かせているような気持ちになるのだけれど。どうなのだろう。実際、彼らは生前があったりするのだろうか。


「城も、このひと達も、主がいなくなってずっと放っておかれたのだもの」


 ようやく表れた主のために働けるのが嬉しい。言葉よりも態度の説得力があった。

 そうして地下への道を見つけて歩いていけば、白が言っていたとおりのものがあった。


「思っていた貯水タンクと違うんだけど」


 入った瞬間、思わず呆気にとられた。

 ひんやりとした空気の中、薄く水の張った地面から石の柱が整然と立ち、アーチを描いて天井に呑みこまれていく。

 天窓からは光が差し、ほの暗い空間を水面に反射した光がきらきらと照らした。広大な空間には音が響き、そこはまるで地下聖堂のよう。


 真ん中に勇者の剣でも刺しておけば、とても映えそう。

 脚を踏み入れると、水を張ったまま長年放置されていた床はよく滑った。


 白は長い銀髪を揺らしながら、水面の上を歩いていく。波紋が広がり、光が散る。


「……綺麗」


 柱の間を抜け、水を覗いてそう呟いた白の姿は、現実離れした幻想的な姿に見えた。


 しばらく見とれていたけれど、このシスタンの状態はとてもすぐに使えるようなものではない。

 水は汚れているし、水量が少ないのは、どこかで導水路が途切れていることを示している。 

 雨どいを伝って、この貯水池に集まる作りのはずなのだ。

 後から追いかけてきたスケルトンの一人に、貯水システムの整備をお願いして見ると、任せておけ、と言わんばかりに存在しない力こぶを見せてくれた。

 あの広さはなかなか骨が折れそうだけれど……作業をするのは骨そのものだ。

 心の中でゲンさんと名付けたスケルトン代表は作業員を引き連れてやる気満々の様子で貯水池に入っていった。


 先ほどのシスタンの景色を見て、洪水を防ぐための巨大地下水槽を思い出した。あれも地下神殿なんて呼ばれていただろうか。

 水を貯めておくための空間となるとなるほど合理的なもので、形も似るということだろう。


「しばらく水が使えないのは困るな」


 城の水供給については分かったけれど、雨水を貯水しているのでは今日明日使えるようなものではない。

 飲み水もそうだけれど、なにより、お風呂に入りたい。欲を言えば湯船が欲しかった。


 その言葉が聞こえたものか、通りがかったレイスが申し訳なさそうに頭を下げる。そんなつもりではなかったのだけれど。

 城にはちゃんと浴室も完備されていた。現在鋭意作業中。ということだろう。


「しばらくは川まで行くしかないかな」

「川か、湧き水はあるかもしれないね」


 湧き水か。どんな場所から出ているのだろう。この辺りの地図を探してみるのも良いかも。

 しかし、いずれにしても今、必要な分はどうにか持ってくるしかない。


「でも、川や湧き水でも飲めるかは分からないよ」


 と、白が水を差す。水の話に。

 そう言われてみると、生水は危険だという話があった。

 運動中に水を飲むな。って話の元になったなんて言われることもあるけれど。


「煮沸とか……?」

「生き物はそれでいいとしても、鉛とか水銀が入ってたら駄目だよ」


 考えてみれば公害や地方病。水由来のものにはいくつか心当たりがある。


「……どうすればいいのかな」

「このあたりに住んでいる人なら、安全な水の事を知っているはず」


 と、中庭に出て話をしていると、城門の方から悲鳴が聞こえた。


「噂をすれば、だね」


 と、白は顔色も変えずに言った。

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