19話 ホシゾラノ症候群
煩悩を振り払えませんでしたが私は元気です。
年が変わっても改善されない語彙力で紡がれる物語を今年もよろしくお願いします。
「きゃぁぁぁぁ!」
ラーメン屋の昼はいつも騒がしい。
……つい最近真逆の事を言った気がするけど。
今、ラーメン屋の大半を占めているのはバタバタしている客達。
普段は皆座って食事やカードゲームしている人が武器を取って戦っている。
その戦っている相手は……
「大将、何が起きたんですか?」
「ああ、タピオカが孵化してな……」
「この騒動で気でも狂ったんですか……?」
そう、タピオカなのである。
咄嗟にめっちゃ失礼なことを言ったのには目を瞑ってほしい。
「ダー! ダー!」
今ダーダー鳴いたのがタピオカらしい。球体の小さな……スライムの半分くらいの大きさの生命体。
「こいつらどうしたんですか?」
「フクシマくんが作ったタピオカから孵化してきてね……」
「ああ、この前聞いたやつ……本当なんだ……」
こんなことあるんだな……
「こいつらから出る液体に呑み込まれたらタピオカ化する。ほら。」
大将が指差した方を見ると、タピオカ(モンスター)の液体にまみれた椅子があった。
……昨日まで木の椅子だったものだが、やわらかくて黒っぽいものになっていた。
ヤバイな。
「兄ちゃん、退治手伝ってくれるか?」
「わかりました。できる範囲でお手伝いします。」
何とか一度も死なずに全滅させることができた。
といってもスライムと一緒に傘を振り回してただけだが。
だが、店の備品のほとんどがタピオカ化していた。
「お疲れ様。兄ちゃん。」
討伐参加者に一通り声をかけ終わった大将が戻ってきた。
「結構骨の折れる仕事だったろ? ほら、これでも飲んでくれ。」
と、ストローの刺さったコップを俺の前に置いてくれた。
「ありがとうございます。」
コップを持ってストローを吸った……のだが、
「……!? ゲホッゲホッ! なんですかこれ!」
「タピオカドリンクだ。お礼のつもりでな。あ、俺が作ったからもちろん孵化しないぞ。」
「したら困りますよ……あと、先に言ってください。喉につまったじゃないですか……」
手を見たら少しホログラムが薄くなっていた。
マジかよ。ダメージ受けてるじゃねーか。
「あと俺、ナタデココ派なんです……」
「……至極どうでもいい情報だが、参考にしておく。」
で、だ。
「結局このタピオカ化した椅子達どうするんですか?」
普通に考えたら廃棄だろうけど。
「おはようございまー……っと、派手にやられてるね。」
と、魔王サマがやってきた。
「おお、丁度いいところに。治してくれるか?」
「りょーかいです。」
魔王サマが椅子に触れると、椅子が元の木の椅子に戻っていった。
「すげぇ。」
タピオカから木に。凄い錬金術だ。
逆も逆でおかしいけど。
「これどうなってるんですか?」
「闇の兄ちゃんな、モノを本来のものに戻す能力が使えるんだ。」
大将が説明する。
「といっても元々の能力はモノをハリボテにする能力なんだけどな。」
と言って魔王サマはポケットから何か取り出してこっちに投げてきた。
受け止めて見ると……小さな厚紙の剣? みたいなものだった。
「どこかで見たことないか?」
「……模様とかはあのときの大剣と似ているけど……」
「お、よく分かったな。貸してみ。」
剣を投げ返す。魔王サマが受けとるとその剣は大きくなってあのときの大検になった。
「すげぇ。」
「じゃ、問題。これ何だと思う?」
魔王サマはポケットから鉄板を取り出した。
「サイズ的にスマホ。」
「お、正解。」
鉄板がスマホに変わった。
「そうだ。この際だし連絡先交換しよ。持ってるよな?」
「あ、ああ。」
スマホを左手から取り出す。
「ん? それスキャンか?」
「あ、ああ。結構便利だぜ。」
「へー。」
連絡先交換終了。スマホをかざすだけでつながるのってすごいな。
「何してるのー?」
と、そこに秋葉がやってきた。
「ん? 連絡先交換。折角だしって。」
俺が答える。
「へー。いいじゃん。私とも交換しよ。2人とも。」
「ああ。」「いいぜ。」
3人で連絡先交換。こういう機会って生前は少なかったから結構嬉しい。
「皆揃って何してるの?」
と、渚さんがやってきた。
「あ、渚。連絡先交換してるんだ。」
秋葉が答えた。
「へー。私も加わっていい?」
「ああ。」「いいぜ。」「いーよー。」
4人で連絡先交換。多人数対応ってすごいな。このスマホ。
「楽しそうだけど何してるの?」
と、今度は知らない人がやってきた。渚さんと同い年くらいの女の人だ。
「あ、遥。連絡先交換してるんだ。」
渚さんが答えた。
「へー。あ、折角だし私もやっていい?」
「あ、ああ。」「いいぜ。」「いーよー。」「いいよ。」
5人で連絡先交換。……あれ? ループしてない?
「何やってるんだ?」
また知らない人がやってきた。俺らと同年代くらいの男だ。
「あ、タクオじゃん。連絡先交換してるんだ。」
「へー。俺もいいか?」
「あ、ああ。」「いいぜ。」「いーよー。」「いいよ。」「やろやろ。」
6人で連絡先交換。
「何やってんの?」
……無限ループって怖くね?
大交換会が終わった。人数は述べ47人。それまでこの無限ループが続いてた。
「どうしてこうなった……」
と言いつつも、ずらっと並んでいる連絡先の欄を見ると少し嬉しくなってくる。
と、いきなり連絡が来た。
『大将:依頼頼めるか?』
まさかの大将からメッセージが届いた。
しかもフルボイス。なにこの高性能スマホ。
『なんですか?』
『大将:ちょっと椎名さんのとこ行ってくれないか?』
『というと?』
『大将:実験台になってほしいんだとよ』
『実験台?』
『大将:頼めるか?』
『いいですけど……。あと……』
『大将:なんだ?』
「目の前にいるのにメッセージやり取りする必要ってなんなんですか?」
今俺はカウンター席に座っているんだが、大将は真正面のカウンターの中にいる。
「いや、連絡先交換した直後って真正面にいてもメッセージ送りあいたいだろ?」
「めっちゃわかりますよ。わかりますけど……」
「だろ? そんなもんだ。」
「はぁ。……とりあえずいってきます。」
立ち上がる。と、少し黒くなったスライムがピョコピョコ移動しているのが見えた。
ちょっと気になって後を追ってみる。
と、テーブルに座っている魔王サマのところにたどり着いた。
「ん? どうした?」
魔王サマはしゃがみこんでスライムに向き合う。
スライムは何かを訴えるかのようにピョコピョコと跳び跳ねている。
「……あー、なるほどね。ほらよ。」
スライムにむかって手をかざした。すると、スライムの色が元に戻った。
……タピオカ化してたんだ。
同じ日の昼下がり。王国(ry研究所を訪れた。
「あら、いらっしゃい。」
奥にいた琴さんがこっちを向いた。
「どうもです。」
「突然だけどスマホ貸して。」
「本当に突然ですね。」
スマホを取り出して琴さんに投げる。
琴さんは受け止めると初手で改造してきた。
「何してるんすか?」
「ん? 改造だけど。」
「見たらわかります。改造の内容です。」
「んーとね……」
琴さんは右手のドライバーを動かしたまま、左手で俺の方にパネルを出した。
「これ。読んで。」
パネルには多機能型なんたらの内容ごずらーっと並んでいた。
一通り目を通しても何がどう便利になるかあまりわからない。
「つまりどうなるんですか?」
「便利になる。」
「は、はぁ……」
ざっくりしすぎだと思う。
「終わったわ。どうぞ。」
スマホを返された。
特に変わった様子はない。
「何が変わったんですか?」
「んーとね、一番大きいのは位置情報かな?」
「位置情報?」
「スマホ点けてみて。」
スマホを起動する。なんか数字が色々出てきた。
「座標やら地図やら色々追加したの。あ、あとこれ。」
更にもう一枚パネルが出てくる。
「ここの機会と貴方の情報をリンクさせたから。一応言っておくわ。」
「……拒否権は?」
「ないわ。一応観察対象になっているから。」
「それはどこかの偉いところから……とか?」
「私からよ。」
「……職権乱用では?」
「まぁね。単なる興味だからね。」
……大丈夫なのかこの人。
「さて、本題よ。この機械見てちょうだい。」
琴さんは奥の機械を指し示す。
「これは転移装置・改。ちょっとこれの試運転をするからお願いしたくてね。」
「……なんで俺が?」
「君なら死んじゃっても感想聞けるじゃん。」
「……はぁ。」
洒落にならねえ。
「ま、まあまあ。試運転は他にも何人かにしてもらったけど、苦情は一切来なかったから。」
「……大丈夫なんですか?」
「うん。使い方は座標を2つ打ち込むだけ。さっきの位置情報どうこうもこのためのものだから。」
そう言って機械の手前に進んでいく。
「X座標とY座標を……っとよし、そこの台座に立って。」
言われた通りに立つ。
「よし、座標はギルドに設定しておいたから。送るよ。」
そう言って琴さんはスイッチを押した。
視界に見えるのは青空。
360°何処を見渡しても空。地平線の向こうまで何もない。
凄く幻想的で綺麗な景色。
で、俺はと言うと……
「Z軸ぅぅぅぅ!」
青空の中を急降下していた。
いや、2つの座標って時点で薄々勘づいていたのよ。
なんか足らないな……ってのは。
で、現状これだよ。やっぱりあの人ポンコツじゃないのか?
『琴:誰がポンコツよ。』
急にメッセージが来た。
『琴:やっぱり失敗したようね。』
『座標どうなってるんですか? ってかいつ地面に落ちるんですか?』
『琴:高度……Z軸は90ね。秒速3mで落ちてるわ。』
『地面は?』
『琴:10086よ。この研究者が。』
『は!?』
10000メートル先の地面。
そこに辿り着くまで大体3000秒……え?50分?
『嘘でしょ? とんだ欠陥品だろ。』
『琴:体に異変ある?』
『異変はないです。不思議な程に。』
『琴:わかった。じゃあ、一時間後に。』
『え? ちょっと……』
大体10分以上経った。
具体的にはZ座標が2200を過ぎた。
周りの空は夕焼け色を帯びてきた、
『秋葉:ハルト、今どこにいる?』
秋葉からメッセージが来た。今日はよくメッセージが届くな……。
『今アスノヨゾラってる。』
絶対に伝わるわけのない返しをした。
『秋葉:どうしようもなくなって叫んでるの?』
『明日よ明日よもう来ないでよ……って、そこじゃない。』
ってか、何で伝わるんだよ。
『秋葉:どうなってるの?』
『今ラーメン屋の上空約7500mにいる。』
『秋葉:……本当にどうしたの?』
『琴さん 機械 失敗 検索』
『秋葉:あー……なるほどね。』
通じた。凄いな秋葉。
『で、どうしたんだ?』
『秋葉:いやね、明日手伝ってほしいクエストがあるんだ。』
『あーね。了解。多分大丈夫。』
『秋葉:本当? よかった。じゃあまた明日。』
『はーい。』
Z座標6000地点を過ぎた。
景色が変わらず退屈になってきたが、景色が変わり始めた。
というのも、西方向に大樹が見えてきたのだ。
スマホの地図によると、浮遊大陸というなんともロマン溢れる場所らしい。
空に浮かぶ大陸を繋ぐ大樹。ロマンの塊じゃん。
……地上4000mの大樹ってのが気になるけど。
やっとこさ地上500m
あと3分でこの落下も終わる。
……だが、落下地点が森だ。ラーメン屋じゃない。
『騙しました?』
『琴:君が軽すぎるから風で位置がずれたんだよ。』
すぐに返事が帰って来た。
『ちなみにラーメン屋からはどのくらい離れてますか?』
『そこそこ離れてるよ。500mくらい。』
『マジですかぁっ!」
急に地面がやってきた。
落下の衝撃は全くなかった。
しかし、
「ぐはっ!?」
2テンポくらい遅れて何故か死んだ。
[今日の昼空]
何でそれ伝わるんだ?
「ってか何で死んだんだ?」
[死因 バードストライク]
「バードストライク?」
鳥が衝突してきたのか? あのタイミングで?
死オチが多くなってきましたね。
……まぁ、一話の目安が悠斗が死んだら終わりの合図みたいなものですし。
次回[お肉の錬金術師]




